1. 血液と再生医療

再生医療の多くは、iPS細胞、脂肪幹細胞などの幹細胞を用いて行われます。

その一方で、幹細胞ではない細胞を用いた治療の中に、再生医療に分類されるものがあります。

代表的な例として、Platelet-Rich-Plasm治療法(PRP治療法)という、PRP(多血小板血漿)を用いる治療方法が挙げられます。

この治療方法がどんな治療方法かを説明する前に、血液について説明しましょう。

血液は、細胞性成分、血液細胞を含んでいる血球成分、液性成分である血漿成分、そして血小板に分けられます。

血球成分と血小板は固形成分、血漿成分は液体成分として、おおよそ40%が固形成分、60%が液体成分で構成されています。

血球成分を重量比で見ると、赤血球が95%以上で、白血球3%、血小板が1%、血漿成分は、水分が90%、血漿中タンパク質が7%、残りの3%は、脂肪糖、無機塩類となっています。

2. 多血小板血漿とその利用方法

多血小板血漿は、血漿を濃縮したものです。

血液中の血漿成分(血小板、赤血球などの浮遊成分を含む)を遠心分離によって調整されます。

この成分からは赤血球が除去されており、血小板が浮遊成分として主なものになります。

この操作で、血漿濃縮物が含んでいる血小板の濃度は、通常の血漿の2倍以上、場合によっては8倍程度まで濃くなります。

これを多血小板血漿として治療に使います。

多血小板血漿には、血小板だけでなく数百種類の可溶性(液体に溶け込む事ができる性質)のタンパク質、分子類が含まれています。

その中には、成長因子なども含まれているため、疾患、ケガなどで損傷した部位に効果があると考えられています。

実際に治療に用いて効果のあった疾患で、強力な治療効果の証拠がある疾患としては、外側上顆炎、変形性ひざ関節症、足底筋膜炎、回旋腱板腱症が挙げられます。

これらは、2019年に治療効果が確認され、治療効果を保証する疾患としては比較的新しい疾患です。

さらに、糖尿病性足部潰瘍にも効果が確認されています。

変形性関節症では、ヒアルロン酸を注入した治療と比較して、痛みの改善に効果があるという報告がされています。

関節関連の疾患として、症例が多いものの1つに顎関節症、また慢性腰痛が挙げられます。

この2つの疾患については臨床試験が現在進行中で、強い証拠と言えるまでの症例数が集まっていませんが、有望な有効性が2019年までに確認されています。

すでに関節関連の疾患には通常の治療として行われているケースもあります。

メジャーリーグの大谷翔平選手が、右肘の内側側副靱帯損傷をした時に、行った治療が、この多血小板血漿注射です。

ニュースではPRP注射、としているものが多かったため、多血小板血漿であることはあまり認識されていないのですが、大谷選手の受けた治療は、多血小板血漿を使った治療そのものです。

自らの血液などを使った医療行為はアスリートの世界では「ドーピング」と見なされる場合があります。

自分の好調時の血液を採取して保存しておき、大会前に注入する、また高地トレーニングをしている時の血液を保存して大会直前に注入するなどの行為にはドーピングとして扱われるものがあります。

しかし、多血小板血漿注射は、純粋な治療行為、医療行為とされているために、現時点ではドーピングとしては扱われていません。

その他、臨床試験の中で期待されている疾患に男性型脱毛症があります。

男性型脱毛症は、多くの男性が抱える悩みであり、治療を行っている医療機関が多いため、治療手順がその医療機関によって異なる部分があります。

現在、男性型脱毛症の治療に多血小板血漿を用いる際の課題としては、最適化された治療手順の整備が挙げられます。

さらに、臨床試験前の段階であるが、有効性が期待できる疾患がいくつかあります。

その中には、多血小板血漿の抗菌作用によって口腔内の疾患を改善できるのではないか、というものがあります。

歯肉炎、歯周感染症に利用できるという報告があり、この件に関しては臨床的な有効性を確認するための研究が進んでいます。

3. 美容への応用

美容の大きなテーマとして「若返り」が挙げられます。\

加齢と共に、細胞の再生が不活発化することによって、肌に影響が出ることはよく知られています。

つまり、細胞の再生が活発であればあるほど、若く見える肌を維持することができます。

また、肌の衰えの原因として、光老化があります。

太陽光に含まれている紫外線は肌に悪影響を与え、見た目での老化を促進してしまいます。

コラーゲンは、肌の維持に重要な成分ですが、光の影響によって異常な組織化コラーゲンが蓄積されると肌のくすみなどの原因になります。

光老化の治療には、15 %濃度のトリクロロ酢酸によるピーリングという治療方法があります。

ピーリングとは、日本語で「皮むき」の意味を持つ単語で、異常化してしまった肌の成分を、酸性溶液であるトリクロロ酢酸(TCA)で皮をむくようにして剥がすという意味です。

このTCAと比べると、多血小板血漿を使った治療は同等の効果、またはTCAによるピーリングでは効果のなかった部位に効果を与えることができるという報告があります。

ただし、これらについてはまだ系統だった研究、試験、そして統計学的な解析が不十分であり、はっきりと効果が保証できる段階ではありません。

この「若返り」、「アンチエイジング」に関係する美容関連での多血小板血漿の有効性は、男性型脱毛症の治療と同じように、多くの医療機関が治療を行っている性質上、治療手順にそれぞれ差異があります。

その差異が結果として、治療有効性を示すデータが出る医療機関と、有効性がないというデータが出る医療機関、両方が出てきてしまう原因になっていると考えられます。

そのため、こういった治療方法は「手順の統一化」、「安全基準の統一化」が急務であると考えられます。

実際、多血小板血漿処置を行うことのできる施設設置基準はすでに定められており、法的な整備は進みつつあります。

さらに、関西医科大学医学部形成外科学講座の楠本健司博士を代表世話人とした多血小板血漿(PRP)療法研究会も立ち上がっており、これから整備され、発展していく治療方法であると期待されています。

4. 多血小板血漿療法の発展へ

多血小板血漿療法研究会は、代表世話人である楠本健司博士が所属する形成外科以外にも、美容外科、整形外科、外科、眼科、歯科、口腔外科、といった臨床分野、そして基礎医学の研究に携わる研究者が参加しています。

さらに聖マリアンナ医科大学の再生医療部門の井上肇博士も参加しており、再生医療の1つの方法として大きな発展が見込まれています。

先に述べました、大谷翔平選手の肘の治療に用いられるように、損傷の修復を迅速に行うために有効な治療方法である事も、疾患によっては証明されています。

しかし、現時点では手順の統一化、最適化が不十分な部分があるため、どうしても治療する医療機関、そして治療を受ける患者の個体差で有効性は大きく左右される可能性があるようです。

多血小板血漿療法研究会の講演会などには、厚生労働省の医政局・研究開発か再生医療当研究推進室の専門官が講師として送り込まれています。

今後、確実にやって来る高齢化社会において、高齢者が自立して生活できる、つまり関節などの疾患によって寝たきり、要介護となる状態を回避するヒトるの手段として、多血小板血漿治療は期待されていると考えられます。

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