アルツハイマー型認知症とは?超音波や幹細胞治療の有効性や将来性

目次

1. 加速するアルツハイマー治療開発

アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病を原因とする認知症の1つで、アミロイドβが脳内に蓄積することによって見られる老人斑と、タウタンパク質のリン酸化による神経源繊維変化を病理とする進行性の神経変性疾患です。

アルツハイマー病を原因とする認知症は、全ての認知症の中で半数以上を占めており、この解決は認知症の解決に大きく貢献することは間違いありません

アルツハイマー型認知症は、先進国の高齢化に伴って造塊の一途を辿っており、毎年約1000万人の新規発症患者が出ていると予想されています。

このアルツハイマー型認知症は、症状改善薬がいくつか開発されていますが、根治的な治療方法が存在せず、各国の研究機関で根治治療方法の開発が進められています。

東北大学は、積極的に治療方法を開発している研究機関の1つで、超音波治療法、幹細胞を使った神経の再生などで、アルツハイマー型認知症の根治方法を開発しようとしています。

東北大学大学院医学系研究科、循環器内科学分野、東北大学加齢医学研究所、老年医学分野は、共同でアルツハイマー型認知症の治療方法確立に取り組んでいますが、低出力パルス波超音波(Low-intensity pulsed ultrasound: LIPUS)を使った治療が、マウスのアルツハイマー型認知症モデルにおいて、認知機能低下を抑制する可能性があることを見出しました。

この研究成果はすでに報告され、2018年より世界に先駆けて、医師主導治験を開始しています。

超音波とは、人間の聴覚が認識できる周波数、20キロヘルツ以上の音波であり、媒質を振動して伝導する疎密波から構成されています。

パルス波とは、断続的に音波を発信する照射方法であり、連続的に音波を発信し続ける連続波とは対照的な音波です。

音波を生体内に照射すると、生体内分子の機械的振動によって熱が生じますが、パルス波ではこの発熱を、連続波よりも軽度に抑えることができます。
つまり、パルス波の場合、連続波よりも熱が発生しにくくなるため、連続波よりも高い強度での照射が可能になります。

この治療方法の確立は、幹細胞による治療と併用、または選択することができるため、患者の選択肢を増やす、改善の可能性を高めることができるとして期待されています。

2. 低出力パルス波超音波の治療とは?

東北大学大学院医学系研究科、循環器内科学分野の下川教授らの研究グループは、虚血性心疾患に対する低出力パルス波超音波を用いた治療の有効性と安全性を証明するために、動物実験レベルでの研究を行ってきました。

そしてこの低出力パルス波超音波がアルツハイマー病に有効ではないかと予想し、2種類の認知症モデルマウスの全脳に照射するという実験を行いました。

この結果、アルツハイマー型認知症のモデルマウスでは、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの脳内蓄積量を大きく減少させることに成功しました。

実験動物であるモデルマウスでの成功を受けて、下川教授らのグループは,2018年から実際にアルツハイマー型認知症の患者を対象に、低出力パルス波超音波治療の有効性と安全性を評価するための、世界初の探索的医師主導治験を開始しました。

そして、治験の第1段階である安全性評価を主軸とした、患者5名のRoll-in群の観察期間が終了、結果は効果安全評価委員会で、安全性が確認されました。

これに続き、有効性の評価に主軸を置いて、40名の患者を対象としたRCT群の治験治療が開始されています。

3. アルツハイマー型認知症患者の現状と生活習慣病と共通の危険因子

低出力パルス波超音波などの物理的な方法や、幹細胞、特にiPS細胞を使った方法で治療方法を一刻も早く確立しなければならない背景は、先にも述べましたが、先進国での高齢化が関係しています。

アルツハイマー型認知症の治療は、現在においても家族、介護者からの支援的ケアが中心です。

これは、労働人口が減少している各国にとっては大きな問題であり、いずれ介護者の確保が難しくなってきたとき、家族が受ける負担が増大することがほぼ確実視されています。

アルツハイマー型認知症の内服薬として、コリンエステラーゼ阻害薬、グルタミン酸拮抗薬が用いられていますが、これらは根本的な治療薬ではありません。

これらは神経伝達物質に作用する症状改善薬であり、家族、介護者の負担を一時的に軽減するとしても根本的な解決にはなりません。

アルツハイマー病の原因はいまだに研究されている途中ですが、近年、生活習慣病などとの共通点が報告されています。

アルツハイマー型認知症の危険因子のいくつかは、高血圧、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化を主体とする血管病、そして加齢と共通の危険因子が存在することが報告されています。

これらの危険因子に長期間曝露され続けることにより、まず血管内皮機能が障害を受けますが、ここから様々な障害が体内に発生します。

血管内皮機能の障害は、神経疾患と密接に関係することが報告されています。

血管内皮細胞は、ニューロン、グリア細胞などの細胞と共に、脳組織の構造を維持する細胞が今トリックするに包まれて、複雑な神経ネットワークを構築しています。

低出力パルス波超音波のアルツハイマー病への応用は、この「血管機能の改善によってアルツハイマー病を抑制できるのではないか」という予想をもととして開始されました。

つまり、生活習慣病や加齢によって起こる身体の機能、特に循環器、血管周辺の問題を解決する手段は、そのままアルツハイマー病の治療方法になる可能性があるという予想です。

4. 治療のハードルとなる血液脳関門

そして、脳には人間の治療を阻む壁があります。

それは、血液脳関門(Blood Brain Barrier, BBB)と呼ばれるものです。

脳内には当然血管が存在し、その血管には血液が流れていますが、この流れている血液と、脳の組織の間にあるものが血液脳関門です。

役割としては、血中に存在している、脳に不要な物質、有害な物質を通さず、脳組織に到達させないための壁です。

しかし、脳内の問題を薬を使って解決しようとすると、この血液脳関門は治療の邪魔になってしまいます。

経口、腕の静脈からの点滴などで体内に入った薬、またはその成分は、血流に乗って脳の血管に向かいます。

しかしそこには血液脳関門があるため、ほとんどの薬、そしてその成分は、脳内の血管から脳組織に移行することができずに脳内血管を通過してしまいます。

これでは、薬の効果を脳組織に与えることができない、つまり投薬の効果が見込めません。

低出力パルス波超音波は、この血液脳関門の影響を受けずに脳組織に働きかけることができます。

さらに、低出力パルス波超音波と併用が期待されている幹細胞の治療ですが、骨髄間葉系幹細胞が血液脳関門を通過する事が知られています。

5. 血液脳関門をクリアできる2つの治療方法

投薬治療にとって大きなハードルであった血液脳関門ですが、21世紀になって、この血液脳関門を障害としない2つの治療方法候補がアルツハイマー病で確立されつつあります。

アルツハイマー病だけに限らず、さまざまな疾患において、幹細胞を使う以外の治療方法も開発され続けているのは、今回のように共通点をもつ2つの治療方法を併用する、または患者の状態によって使い分ける場合を考えているためです。

主が幹細胞治療で、従が低出力パルス波超音波のような物理的な治療、逆に、主が低出力パルス波超音波のような物理的な治療で従が幹細胞治療という場合、両方考えられます。

どちらかの治療がどちらかを補完し、症状をより早く、そしてより根治に近い状態に持って行くという複合的な治療が、今後の高齢化社会において重要になることは間違いありません。

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