この記事の概要
  • 腎不全には急性腎不全と、慢性腎不全があり、急性腎不全は糖尿病や高血圧が主な原因で、急性腎不全は出血などによる急激な血圧の低下、脱水症状、感染症などが原因となる
  • 腎不全の治療法として、腎臓移植のみが確立されている
  • 腎不全に対する幹細胞治療の実用化はまだ不透明なものの、腎臓の人工的な再生は夢ではないレベルまでにきている

腎臓は、血液をろ過して老廃物を対外に排出する重要な役割を担っており、それが正常に動かなくなることを腎不全と呼びます。

現在は腎移植しか治療が確立していませんが、腎不全に対する幹細胞治療がどのような研究段階で、どんな結果が得られているのかについて解説します。

1. 腎不全とは

腎臓は体内に左右一対、2つ存在します。腎臓を構成するネフロンは腎小体と1本の尿細管を1つの単位として、腎臓内に約100万個あり、これらが腎臓の機能を担っています。

腎臓の役割は、体液量、体液の浸透圧、pHを一定に保つために、尿の生成、細胞外液中の水、電解質の濃度を調節することです。一般的に、これらの組織の機能が30%以下に低下すると、腎不全という状態になります。人工透析が必要な末期腎不全はこの状態から進行して、機能が10%未満になった場合を指します。

腎不全には、急性腎不全(ARF:Acute renal failure)と、慢性腎不全(CRF:Chronis renal failure)があります。急性腎不全は、本来ならば排出されるはずの尿素などの窒素生成物が血液中に蓄積する状態(高尿素窒素血症)が多く、腎機能が急激に低下します。症状としては、痙攣、昏睡などが起こることもあります。一方で慢性腎不全は、自覚症状がはっきりと感じられない状態で、数ヶ月、長いときには数十年かけて腎機能が低下します。この場合、失われた機能が回復する見込みはほとんどありません。

腎機能が低下する原因は様々で、慢性腎不全の場合、糖尿病、高血圧が代表的な原因として挙げられます。また、免疫系の異常、薬品などに対するアレルギーでも起こることがあります。急性腎不全の場合は、出血などによる急激な血圧の低下、脱水症状、感染症などが原因として挙げられます。

腎不全になった腎臓は、血液をろ過して老廃物を除去することができなくなります。老廃物とは、クレアチニン、尿素、窒素などで、これらの物質が除去されずに体内を循環すると、身体の様々な場所に障害が起こります。

また、体内の水分バランスを調節する機能も腎臓は担っています。そのため、腎不全になるとこの水分バランスの調節が上手く機能しなくなります。さらに、血液中のナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどの電解質や酸の濃度を調節する機能も低下します。

高血圧は腎不全の原因となりますが、別の原因で腎不全になった場合、高血圧が腎不全の症状として出現することがあります。さらに、腎臓の機能が全般的に弱っているため、赤血球の生産を誘導するエリスロポエチンというホルモンの酸性が低下し、結果として赤血球の減少による貧血が起こります。

腎臓機能の低下は、高齢者で多く見られます。高齢者と比較すると若年層で機能低下が見られる人は少ないのですが、小児の腎臓機能が低下した場合、骨のために必要な活性型ビタミンDが賛成されず、骨の発育に影響が出る場合があります。骨への影響は小児以外にも見られ、成人であっても腎不全によって骨が弱く、脆くなる場合があります。

2. 腎不全の治療

腎不全の根本治療を目指す場合、現在では腎移植しか確立された方法がありません。他の治療方法は対象療法になります。

急性腎不全の場合、腎臓の機能を低下させる原因を解決しながら、体内水分の調節、血液中の老廃物の過剰蓄積を防ぐことで治療します。かなり高い確率で効果が見込める治療ですが、多臓器不全などと併発して発症した場合は危険です。

そして、急性腎不全の場合、回復が不十分であると、慢性腎不全に移行するという報告もあります。

慢性腎不全は深刻で、早い段階での異常の発見が望まれます。早い段階で異常が発見できた場合、免疫反応に関与する抗体の働きを薬物で抑制する、塩分、タンパク質の摂取量制限、扁桃腺除去(抗体の生成と密接に関与するため)が治療として行われます。しかし。これらは進行を抑制する治療方法です。

腎臓機能障害が発見されたときに、すでにかなり進行していた場合、例えば尿毒症の症状が出現したレベルでは、人工透析治療を行います。いったん血液を体外に出し、透析装置で老廃物をろ過します。その後体内に血液を戻すのが血液透析です。また、患者の体内に透析液を注入し、体内で血液をろ過するのが腹膜透析です。

腎不全を根治させようとする場合、現在では腎臓移植のみが確立された治療方法です。しかし、幹細胞を使った腎不全の根本的な治療方法が現在研究されています。

3. 幹細胞を使った腎不全の治療

腎不全の治療に幹細胞が使えないか、というアイデアは2000年代に入って具体化し、ES細胞などが腎臓固有の細胞である、尿細管細胞や糸球体の眼参議ウム細胞などに分化するのではないかと考えられていました。

間葉系幹細胞を培養した培養上清を急性腎不全のモデルマウスに投与したところ、修復が促進したことから、幹細胞そのものではなく、幹細胞が分泌する因子が腎不全によって障害を受けた腎臓の細胞を修復するのでないかと考えられたのも2000年代に入ってからです。

2010年までにはすでに、多くの報告で腎臓内の近位尿細管、ボーマン嚢、乳頭部などで成体幹細胞の存在が報告され、組織修復にどう関与するのかが研究されていました。しかし、ES細胞を腎臓に投与すると奇形種を形成することが確認され、幹細胞治療の腎不全への応用は難易度が高いことが認識されました。

しかし、急性腎不全、急性腎炎で損傷を受けた組織が完全に修復される報告があり、その現象に幹細胞がどう関与するのかが注目されて研究されてきました。

間葉系幹細胞、自己骨髄間葉系幹細胞を用いた治療が試みられてきましたが、間葉系幹細胞の治験では効果が一定ではなく、糖尿病などの基礎疾患、また個体差が効果に対して大きく作用することが示唆されました。また自己骨髄間葉系幹細胞を静脈投与したところ、糖尿病性腎症における治療では、腎不全期まで進んだものには効果がないことが明らかになりました

また、末梢血幹細胞移植後に、慢性の移植片対宿主病(GVHD:Graft-versus-host disease)の悪化と共にネフローゼ症候群を起こした例もあります。

このように、腎臓における幹細胞治療には高いハードルが存在しています。しかし、2010年代後半から、技術的な改良によって効果が期待できる治療方法が報告され始めています。

腎不全期に効果が見られなかった自己骨髄間葉系幹細胞は、細胞をそのまま投与するのではなく、外部で3次元培養シートを構築し、このシートを直接腎臓に貼り付けることによって効果が期待できることが明らかになりました

また、人骨髄由来ミューズ細胞を慢性腎臓病モデルマウスの静脈に投与することによって、マウスの腎臓機能障害が回復に向かうことが報告されています。

2000年代初頭に幹細胞の投与による腎不全治療の難易度が高いことが認識されましたが、その際に、幹細胞の分泌因子であれば効果があるのではないかと考える研究者がいました。急速進行性腎炎に脂肪由来間葉系幹細胞をある条件で培養した低血清培養脂肪由来幹細胞を投与して、幹細胞群が分泌する再生促進因子、免疫調整因子の効果に期待したところ、腎障害が大幅に改善されました。

これは、幹細胞の再生能力ではなく、腎臓細胞保護作用によるものですが、腎不全における幹細胞治療の大きなヒントとなっています。一方で、生体腎臓から採取した腎臓幹細胞を使って、腎臓構造の構築と再生を目的とした研究は現在も行われており、少しずつではありますが成果が出ています。

さらに、iPS細胞を使って、腎臓そのものを外部で作成し、腎臓移植に使うための研究も盛んに行われています。2015年には、iPS細胞から3次元構造の腎臓組織の作成に成功しています。ここ10年くらいで、機能的には不完全ですが、構造的には再現可能なレベルまで到達しています。

iPS細胞からネフロン前駆細胞の樹立、そのネフロン前駆細胞から再生腎臓を、構造的かつ機能的に十分なものを作るための研究が進められています。尿排泄経路の構築にはすでに成功しており、今後の発展に期待が持てる状況です。

幹細胞を使った治療は以下に挙げるいくつかのタイプに分類することができます。

  1. 幹細胞の分泌分子を使った治療
    1. 幹細胞を培養した培養上清内から有効成分を抽出、精製して薬品として使う。
    2. 幹細胞そのものを身体の中に注入し、注入された幹細胞の分泌物の効果に期待する治療方法
  2. 腎臓の構造、機能を人工的に再現する。

iPS細胞などから腎臓そのものを作って、腎臓移植に用いようとする研究は、ここ数年で大きな進歩を遂げています。

これらのどのタイプの治療方法が実用化されるのかはまだ不透明ですが、機能が複雑で再生が難しいと考えられていた腎臓の人工的な再生は夢ではないレベルまで、最近の研究は進んでいます。

Follow me!