幹細胞・再生医療を強力に推進する日本の法律について

この記事の概要
  • 幹細胞・再生医療に関する、新設された法律、改正された法律について
  • 法律に則った日本における再生医療の現状

幹細胞とは、

  • 自分と同じ能力をもった細胞に分裂することができる自己複製能
  • さまざまな細胞に変化する分化能

を持った細胞です。幹細胞のこの特徴は、これまで治療困難であった様々な病気に対して、新しい治療法を提供できる無限の可能性を秘めています。

この幹細胞を活用した治療は「再生医療」と呼ばれ、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ少しでも早く技術を開発していく必要があるとされています。そのため、再生医療のために様々な法整備がなされてきました。

今回の記事では、幹細胞・再生医療に関する日本の法律について徹底解説します!

なお、幹細胞については以下の記事でより詳しくまとめていますので、ご覧ください。

目次

1. 再生医療推進法

再生医療推進法は、日本の幹細胞研究成果を臨床応用するため、環境整備を国が進めることを宣言する全14条からなる法律です。国家施策の基本理念を定め、国、医師、研究者、細胞培養等の加工事業者の責務が定められています。

その具体的な責務内容として、以下のように定められています。

  • 先進的な研究開発の促進
  • 研究成果を医療として実施する環境整備
  • 臨床研究の環境整備と再生医療製品の治験実施のための施策

この再生医療推進法は、再生医療の安全な研究開発と迅速な提供を目指した法律です。

2. 医薬品医療機器等法

医薬品医療機器等法は、薬事法上の医療品及び医療機器に関する規定に再生医療統制品に関する内容が加筆されたものです。

再生医療の実用化に対応できるよう、再生医療等製品の特性を踏まえた承認・特許制度が新設されました。より、迅速により安全に多くの製品を実用化できることを目指しています。

医薬品医療機器等法の対象は「不特定多数の患者への使用のために、国の承認を得て販売する製品開発」とされています。

再生医療等の製品の製造販売には、以下のような要件をクリアする必要があります。

  • 厚生労働大臣の承認が必要であること
  • この承認条件のうち最も重要であるのは、治験データに基づく有効性と安全性に関する審査を受けること
  • その承認は、人または動物の細胞に由来する細胞の個体差、個々の製品品質にばらつきがでることを認識した条件と期限付き

医薬品等の安全対策としては、製造販売業者及びその使用者である医療関係者に対する再生医療等製品の有効性及び安全性その他適正な使用に必要な情報収集、情報提供の努力義務など、さまざまな義務規定があります。

3. 再生医療安全確保法

再生医療推進法で再生医療実現の推進を宣言したことを受けて成立した、再生医療を実施するための基本的な枠組みを示すのが再生医療安全確保法です。再生医療等の安全性の確保のため、再生医療等の提供機関や細胞培養加工施設についての基準を新たに設けました。

細胞培養加工について、医療機関から企業への外部委託が可能になり、安全性確保のためにの基準と手続きについて定められています。

この法律は、医師が行う医療行為を事前に規制する法律として前例がない法律となっています。その規制は大きく3つに分類されます。

3-1. 規制① 資格法

医療行為を行える者を一定の学識と技術を有する者に限定する事前規則で、免許制度を想定しています。

3-2. 規制② 業務法

医療行為そのものの規制ではなく医療が行われる際の事前規制です。

  • 医療行為に必要な物的側面(医療を行う場)に対する規制
  • 医療行為を行う意思に対する人的側面に対する規制
  • 医療行為に付随する活動や事柄の規制

3-3. 規制③ 責任法

医師の具体的医療行為に対する事後規制です。(医療過誤訴訟と免許の行政処分)

 

再生医療安全法の対象は、特定の被験者や患者を対象にした臨床研究または治療としての再生医療の実施とされています。この場合の再生医療とは「再生医療等技術を用いて行われる医療」のことです。また、再生医療等技術とは「ヒトの身体の構造や機能の再建、修復、形成または、ヒトの疾病の治療、予防を目的として細胞加工物を用いた医療技術」のことです。

再生医療等技術を人の生命や健康に与える影響、安全性という観点から

  • 第1種(iPS細胞、ES細胞、他家移植の体性幹細胞)
  • 第2種(自家移植の体性幹細胞)
  • 第3種(体細胞加工物)

の3つに分けられ、実施する場合は「再生医療等提供計画」を作成する必要があります。

もっと詳しく

リスクに応じ、再生医療等提供に関する手続きは以下のように定められています。

第1種再生医療等(iPS細胞、ES細胞、他家移植の体性幹細胞)
医療器圏での提供計画の作成 → 特定認定再生医療等委員会での審査 → 厚生労働大臣への提供計画の提出 → 厚生科学審議会から厚生労働大臣への意見提出 → 厚生労働大臣からの計画変更命令 → 90日間の提供制限期間経過後、提供開始
第2種再生医療等(自家移植の体性幹細胞等)
医療機関での提出計画の作成 → 特定認定再生医療等委員会での審査 → 厚生労働大臣への提出計画の提出 → 提供開始
第3種再生医療等(体細胞加工物)
医療機関での提供計画の作成 → 認定再生医療等委員会での審査 → 厚生労働大臣への提供計画の提出 → 提供開始

医療等の提供後にも、実施者の医師には、細胞の被採取者と被投与者へのインフォームドコンセント、個人情報の保護、実施に関する記録の作成と保護の義務があります。

また、実施医療機関の管理者は、認定再生医療等委員会と厚生労働大臣へ定期報告義務と、保健衛生上の危害の発生時の報告義務があります。

他に、再生医療等の提供に用いられる細胞の培養とその他の加工は、厚生労働大臣による許可なく行えないことが原則とされています。特に重要なのは、厚生労働省令で定められる細胞培養下降施設の構造設備に関する基準です。

これらを違反した場合には罰則も設けられています。

4. 健康・医療戦略推進法

健康・医療戦略推進法とは、世界に先駆けて超高齢社会を迎える日本において、健康長寿社会の実現に向けて、最先端の医療技術やサービスを目指す法律です。世界最高水準の技術を用いた医療の提供を掲げ、研究開発がスムーズに行われるように、研究機関や医療機関、企業や行政など多くの機関が円滑に連携できる仕組みづくりを基本理念としています。

「国立研究開発法人日本医療研究開発機構」を中心に、大学や研究上にある研究開発を推進する体制の整備、基礎研究の成果を実用化に円滑につなげるための治験の実施環境づくり、再生医療やゲノム医療の先進的開発への取り組みを実施します。

5. 日本における再生医療の現状

平成29年時点での再生医療等安全性確保法の下での再生医療の実施状況は、

  • 第1種 17件(治験0件、研究17件)
  • 第2種 176件(治験119件、研究57件)
  • 第3種 3,517件(治験3,461件、研究56件)

です。医療機関内に存在する細胞培養加工施設は2,478施設、医療機関外では58施設、国外では6施設あります。

これらの幹細胞・再生医療に関する法律は、平成25年以降に安全で迅速な研究の発展と実用化に向けて整備されてきました。

この法律により、これまで以上に世界へ先駆けての幹細胞・再生医療に関する技術革新が望まれています。この幹細胞・再生医療は、これからの超高齢化社会に向けた健康寿命の延伸や、これまで治療困難であった疾患の新しい治療法の確立など、さまざまな可能性を秘めています。

技術や環境はめまぐるしく変化していくため、今後世界と連携を取りつつ柔軟に研究開発を進めていく必要があります。

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