この記事の概要
  • 外敵から身を守る「免疫」の仕組を解説
  • 現在の免疫細胞療法とはなにかを解説
  • 新しい免疫細胞療法とはなにかを解説

近年、医療が発達しさまざまな治療法が確立され、これまでは治療が難しい言われていた病気も治療して延命できるようになってきました。「がん」も一昔前は不治の病のイメージでしたが、今では長期生存も望める病気となっています。

しかし、そのような現状の中でも、手術、化学療法、放射線治療などの標準治療をしても治療効果が現れず病気に苦しんでいる方もいらっしゃいます。

このような方に対して、体が本来もっている外敵から身を守る免疫という機能を利用した、「免疫細胞療法」が4つ目の治療方法として注目されています。

今回の記事では、この「免疫細胞療法」について解説します。

1. 免疫の仕組みについて

まず外敵から身を守る免疫の仕組みについて解説します。免疫とは、「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。

異物が侵入した場合、まず最初に自然免疫(マクロファージ、好中球、NK細胞、樹状細胞)が攻撃を行います。その攻撃で撃退できない場合、情報が獲得免疫へ伝達され発動し、獲得免疫(B細胞、T細胞)が攻撃をします。

この免疫は、外から侵入した細菌やウイルスだけでなく、自分の身体の中にできたがん細胞に対しても異物と認識して働いています。

実は、私たちの身体の中では毎日たくさんの「がん細胞」が作られています。中には5,000個も作られるとする学説もあるほどです。しかし基本的には、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)によって排除されています。NK細胞が排除しきれない場合も、好中球などが攻撃を加えてがん細胞を消滅させています。

がん細胞も増殖するために、正常細胞のふりをして攻撃を逃れようとしたり、免疫細胞の攻撃力を弱らせるような指示をだしたりします。がん細胞は元は自分の身体の細胞ですので、攻撃から逃れるのが上手なのです。

そんながん細胞を排除するために、免疫細胞を活性化させたり、がん細胞の特徴をはっきりと捉えてがん細胞のみに攻撃したりする「免疫細胞療法」が研究されてきました。

もっと詳しく

200311_免疫細胞療法とは

自然免疫 侵入した細菌やウイルス、自分の身体の中にできたがん細胞も異物として認識し、最初に攻撃する免疫反応です。
獲得免疫 出生後、異物と接することにより獲得された免疫機構が獲得免疫です。適応免疫とも言います。自然免疫からの情報伝達を受けて発動します。
マクロファージ 食細胞と呼ばれ、ウイルスや細菌などの敵を食べてやっつけます。情報をT細胞に伝達する役目もあります。また、掃除屋として死んだ細胞も食べます。
好中球 白血球の中の1種で、遊走運動(アメーバ様運動)を行い、侵入してきた細菌をたべることで殺菌します。
NK細胞 ナチュラルキラー細胞の略で、ウイルスや細菌に感染した細胞を破壊します。
樹状細胞 「じゅじょうさいぼう」と読みます。異物を発見すると、自分の中に取りこみ特徴を覚え、T細胞にその情報を伝達し、攻撃するように指示を出す細胞です。
B細胞 リンパ球の1つで、細菌やウイルスなどの外敵に対抗する細胞です。ヘルパーT細胞からの指示を受けて「抗体」を作りだして戦います。
T細胞 リンパ球の1つで、がんなどに対抗します。殺傷能力を持つ「キラーT細胞」、B細胞やキラーT細胞に命令を出す「ヘルパーT細胞」、攻撃を止める「制御性(サプレッサー)T細胞」など、さまざまな種類が確認されています。

2. 免疫細胞療法とは

これまで、がんの治療法として「手術」「化学療法」「放射線療法」が3つの標準治療と言われてきましたが、「免疫細胞療法」は第4の治療法として注目されています。

免疫細胞療法とは、簡単に言えば自分の身体の免疫を高めることにより、がん細胞を排除する治療法のことです。その方法はいくつかありますが、患者さんの血液を採取し、体外で培養・活性化させ、体内に戻すことにより実施します。

また、免疫細胞療法は大きく分けて「非特異的(ひとくいてき)免疫療法」と「特異的(とくいてき)免疫療法」の2つに分けられます。

2ー1. 非特異的免疫療法

「非特異的免疫療法」は比較的初期に開発され、体全体の免疫を高めるような仕組みの治療法です。

非特異的免疫療法は、自分の身体の中の免疫細胞を取り出して活性化させて体内に戻すという治療のため、大きな害がないことが最大のメリットです。しかしこの治療法は、がん細胞を標的としたものではなく、身体全体の免疫が上がる(上げる)治療法ですので、がんを治癒させるというよりも、患者さんの生活の質を高め、少しでも元気な期間を延ばすことが目的となっています。

1990年代からは、特定のがん細胞を狙って攻撃する「特異的免疫療法」へと進化しています。

2ー2. 特異的免疫療法

特異的免疫療法は、正常な細胞にはそのままに、がん細胞のみに攻撃する治療法ですので、副作用は最小限ですみます。また、がん細胞を攻撃するので、がん細胞の消滅が期待できます。

投与ペースは2週間に1回ですので入院の必要がありません。さらに、標準治療(手術・化学療法・放射線療法)と組み合わせて治療を行うことで、さらに高い治療効果を得ることができます。

3. 免疫細胞療法の具体例

3-1. αβ(アルファ ベータ)T細胞療法

1970年代に患者さんのリンパ球を採取し、それを体外で活性化させて体内に戻すというLAK療法(活性化自己リンパ球療法)が開発されました。しかし、この治療法は複数種があるリンパ球のどれを活性化するか絞れておらず、結果どれも活性化しきれなかったこと、患者さんへの負担が大きかったことが課題でした。

LAK療法は、単独で効果を出すことは難しいとされましたが、その研究が免疫療法を発展させ、別の療法が開発されます。

現在では、リンパ球に含まれるT細胞のうち、αβT細胞による療法(αβT細胞療法)が主流となっています。αβT細胞は、樹状細胞から攻撃すべき相手の情報を得て攻撃します。

逆に言えば、攻撃すべき相手の情報がないと、がん細胞であっても攻撃しません。この情報を伝達する樹状細胞は数が少ないと言われていて、αβT細胞を増殖させて体内に戻したとしても、そもそも樹状細胞が少ないので、情報が行きわたらない可能性はあります。やはりこの療法も、単独で劇的な結果を出すことは難しいとされています。

3-2. NK細胞療法

NK細胞療法はLAK療法とは違い、NK細胞だけを活性化させて体内に戻す治療法です。NK細胞は細胞をチェックして、異形のものすべてに攻撃を仕掛ける免疫細胞なので、T細胞のようにがん細胞を攻撃しないということはありません。しかし、T細胞ほど攻撃力が高くないため、体外で増殖・活性化させて体内に戻し数を増やすことで免疫効果を高めています。

ただし、先ほども述べたようにがん細胞というのは、攻撃されないように巧妙に姿を隠すので、表面上は正常な細胞のふりをしているがん細胞もいます。そのようながん細胞にはNK細胞は残念ながら攻撃をすることができません。

3-3. 樹状細胞ワクチン療法

研究を重ねた結果、樹状細胞が外敵の情報をT細胞に伝える役割をもっていることと、がんの目印がたくさん発見されました。この発見から、がんの目印を樹状細胞へ覚えこませて体内に戻す樹状細胞ワクチン療法ができました。

樹状細胞ワクチン療法の流れは以下の通りです。

  1. 患者さんの血液から樹状細胞を取り出す
  2. 体外で人工のがんの目印を覚えさせて、司令塔としての役割を強化させた樹状細胞のワクチンを生成する
  3. 患者さんにワクチンを投与する
  4. 司令塔役の樹状細胞が、T細胞へがんの目印を教えることで、T細胞はがんだけを正確に狙って攻撃する

3-4. γδ(ガンマ デルタ)T細胞療法

T細胞の仲間で、γδT細胞を増殖させるγδT細胞療法も研究が始まり、新しい免疫細胞療法として注目されています。

γδT細胞は、T細胞全体から見れば数が少ないのですが、がん細胞に対して非常に強い殺傷能力があるとされています。αβT細胞のように樹状細胞から情報を得なくても、がん細胞を見分けて攻撃します。γδT細胞のみ培養し、活性化させる方右方も確立されましたので、今後研究が進み、症例が増え、安定的に実施できる治療法になると考えられています。

4. 今後の発展について

このように、さまざまな課題を乗り越えながら免疫療法は発展してきました。

近年では「免疫チェックポイント阻害剤」という新薬が開発されています。免疫チェックポイントとは、免疫が高まりすぎて健康な細胞を傷つけてしまわないようにブレーキをかけるポイントのことを言います。そして、このブレーキを利用してがん細胞は攻撃を上手に避けて増大していることが分かってきました。

そこで、免疫チェックポイント阻害剤を使用してT細胞にかかったブレーキを外すことで、T細胞が再活性化しがん細胞を攻撃できるようになります。

この「免疫チェックポイント阻害剤」と「樹状細胞ワクチン療法」を併用することで、樹状細胞によってがん細胞の情報を得たT細胞が、免疫チェックポイント阻害剤でブレーキを外しがん細胞を攻撃するという、非常に効率の良い治療効果が得られることが報告されています。しかし、まだ臨床での研究数が少ないため、今後有効性・安全性についてのさらなる検証が必要とされています。

また、「CAR-T療法」という遺伝子改変T細胞療法が2019年3月に日本で初めて承認されました。

患者さんのT細胞に遺伝子改変を行い、CAR(キメラ抗原受容体)を作りだせるようにT細胞を改変します。CARは、がん細胞などの抗原を認識し攻撃するように設計されており、CARを作りだすことができるようになったT細胞をCAR-T細胞と呼びます。

この治療法は画期的な治療法ではありますが、治療費が5,000万と非常に高額であることと、単独の治療では、寛解(がん細胞が検出されなくなること)となっても、再発する例が報告されていることが課題となっています。

5. まとめ

免疫細胞療法は、がんの3大標準治療に次ぐ次世代の画期的な治療法と言えます。新しい治療法であるため、研究や臨床結果の報告はまだまだ必要な段階ではありますが、いかに人間の本来持っている細胞の力を活かして病気と戦うかが問われている非常に興味深い治療法です。

今後、さらに研究が発展し、患者さんにとって副作用がより少なく、効果の高い治療法となっていくことが望まれます。

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