がん免疫分野におけるex vivo他家由来療法が現在直面する課題に対処する協力関係を発表

目次

1. アメリカ企業とフランス企業による免疫療法への新しい取り組み

アメリカを拠点とする企業、Umoja Biopharma, Incとフランスを拠点とする企業、Tree Frog Therapeuticsは、双方の得意な分野を融合させ、iPS細胞を使った免疫治療の新しい技術開発を行うために、協力関係を結んだと2022年6月に発表しました。

Umoja Biopharmは、免疫細胞を生体内でリプログラミングし、主に固形がんや血液がんを標的にする細胞療法の実用化目指している企業で、Tree Frog Therapeuticsは、独自の技術で高い細胞品質を持つiPS細胞の大量培養を実現し、移植可能な微小組織への分化にも成功している企業です。

Umoja Biopharma、Tree Frog Therapeuticsそれぞれ得意な領域が異なるため、2つの企業が共同で研究開発を行えば、新しい治療方法の開発が加速すると予想されています。

2. Umoja Biopharma、Tree Frog Therapeuticsとはどんな企業か?

Umoja Biopharmは、iPS細胞を使ったプラットフォームを主に開発する企業で、現在すでに革新的なプラットフォームで成果を挙げています。

VivoVec™ in vivoプラットフォーム、RACR™/ CAR in vivo細胞拡張/制御プラットフォーム、TumorTag™ターゲティングプラットフォームという統合的な免疫細胞療法技術が強化されつつあり、これらのプラットフォームは予め連携を考えられて設計されているので、多くの患者に治療方法を提供することが可能です。

一方、Tree Frog Therapeuticsは、80名以上の生物物理学者、細胞生物学者、バイオプロダクション技術者を抱える開発に軸を置いた企業です。

再生医療、がん免疫医療のために、過去3年間で8,200万ドルの資金を調達し、フランスだけでなくアメリカのボストン、日本の神戸に技術拠点を持っています。

これらの拠点を通じて、彼らのプラットフォームであるC-StemTMの導入を押し進め、アメリカ、日本のアカデミック、バイオテクノロジー産業と提携を結ぼうと活動しています。

今回のUmoja Biopharmとの提携は、その活動の一環です。

さらに細かく各々の技術を見ていきましょう。

Umoja Biopharmでは、生体外での細胞治療薬製造に関するプラットフォームの拡張性、そしてステップの複雑性に対応するためのiPS細胞プラットフォームを開発中です。

UmojaのiPS細胞の独自性は、合成されたラパマイシン活性化サイトカイン受容体を利用し、外因性のサイトカインやフィーダー細胞が存在しない環境でも、免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)を含む自然細胞傷害性リンパ系細胞へiPS細胞が分化できるように設計されています。

Tree Frog Therapeuticsは、ヒトiPS細胞をアルギン酸で高速処理によってカプセル化するという独自のC-Stem™技術を持ち、細胞を外因性のストレスから保護しながら生体内の細胞成長と同じ速さで細胞処理を完了させる技術です。

2021年にTree Frog Therapeuticsは、10リットルという大規模なスケールで、iPS細胞の品質を維持しながら増殖させるという前例のない技術を確立しました。

さらに、カプセル内に封入したiPS細胞を、直接目的細胞に分化するという技術の確立にも成功しており、Tree Frog TherapeuticsのC-Stemは、iPS細胞由来の細胞治療に大きな拡張性を持たせることができるGMP適合製造プラットフォームになっています。

3. 両社トップのコメント

Umoja Biopharmの副社長であり、トランスレーショナルサイエンスの総責任者であるRyan Larson博士は、Tree Frog Therapeuticsとの協力関係について次のように述べています。

「Umoja社のプラットフォームであるRACRを治療したiPS細胞と、Tree Frog社のプラットフォームであるC-Stemの技術的な連携が成功すれば、現在生体外での他家細胞療法が直面しているいくつかの課題を克服できる可能性があります。

現在の大きな課題としては、

  • 細胞品質を維持しながらiPS細胞を大量に培養する。
  • iPS細胞を免疫療法に用いる免疫細胞に効率的に分化させる。

この2点が挙げられます。

この2点において、Tree Frogの生体模倣プラットフォームであるC-Stem技術は、Umoja社のRACR技術を補完する開発プラットフォームと言えます。

C-StemとRACRの組み合わせにより、効率的で管理されたiPS細胞の増殖と免疫細胞への分化が行われ、回収率の改善と品質の向上を達成できると予想されます。

また、RACRシステムによって、有毒なリンパ球除去化学療法を必要としない、安全な腫瘍殺傷能力を持つ免疫細胞の移植を可能にし、患者への負担を抑えることができます。

Ryan Larson博士のコメント内にある、リンパ球除去化学療法を必要としない治療が確立されれば、患者への身体的な負担が飛躍的に削減することができます

一方で、Tree Frog Therapeuticsの最高形成責任者であるFrédéric Desdouits博士は次のように述べています。

「Tree Frog社の主な目標は、C^Stem技術のメリットを一刻も早く患者に提供することです。

そのために、各方面で戦略的な提携を行っていますが、がん免疫分野においては、Umoja社と提携し、技術開発を前進させます。

スケールアップと、細胞の品質向上の課題に加えて、他家細胞を生体内で長期に生存させることは依然として分野内では重要な課題とされています。

Umoja社のプラットフォームは、がん免疫分野における、より安全で効率的な他家細胞療法を可能にする可能性を持っています。

この共同アプローチによって研究開発を加速し、迅速に臨床まで進むことで、新しいがん治療方法を患者に提供し、社会に貢献することを楽しみにしています。」

4. がん免疫療法の未来

2021年、アメリカの企業と日本の企業はそれぞれiPS細胞を使ったがん免疫治療の臨床治験の開始、また近いうちに開始することを発表しています。

これらの方法は、実現すれば現在患者が負担している治療費を90%削減できるとされています。

これまで、日本とアメリカで競争が行われていたがん免疫治療分野に、強力なヨーロッパ企業が参入してくることによって技術革新は確実に進むと予想されています。

また、他家細胞を使うことに大きなハードルがある現在では、治療方法はどうしても大がかりにならざるを得ません。

自分の細胞を使うことが基本、ということになれば、自分の身体から細胞を採取後にその細胞からiPS細胞株を樹立、分化誘導をして免疫細胞を構築するというステップが必要ですが、他家細胞を使った治療方法が確立されれば、常時細胞をストックすることによって迅速に患者の治療に着手することができます。

各企業が行っているがん免疫治療方法の開発は、ここ数年で「自分の会社が持っている得意な技術と、他者が持っている得意な技術を融合させることにより、技術進歩の速度上げる、または新しい技術を構築する」というステージに入っています。

今回のUmoja Biopharma, Incと、Tree Frog Therapeuticの提携では、Tree Frog社の持つiPS細胞の大規模培養技術がまずは大きな柱となることが予想されます。

多くの患者に治療方法を提供する、しかも迅速に提供するという点では、大量培養技術を持っていることは、他者と比較して大きなアドバンテージです。

さらに、Umoja社のもつプラットフォームを使って高品質なiPS細胞を供給できれば、治療にハイクオリティな細胞を使うことができます。

まずは高品質のiPS細胞を少量でもよいので構築し、その高品質なiPS細胞を大量培養技術で生産できれば、常に必要な量以上のiPS細胞を準備しておくことができます。

そして高品質のiPS細胞は、分化誘導の成功率向上、効率化も保証され、分化した細胞の品質についても高品質である事が期待されます。

日本で初めて構築されたiPS細胞は、その技術を常にアメリカと日本で争ってきた感がありますが、様々な治験が蓄積されつつある昨今では、ヨーロッパ企業の参入が相次いでおり、さらに徐々に中国系企業の参入も見られ始めています。

こういった競争は、患者側にとってはより早く、より安全な治療を受けるという観点においてよいことなのですが、治療方法の流れが標準化され、安定した治療が供給されるまでにはもう少しかかりそうです。

とはいえ、多くの企業が臨床治験を開始しており、Umoja Biopharma, Incと、Tree Frog Therapeuticの臨床治験開始もそれほど遠い未来のことではないと予測されています。

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