再生医療を推進する議員の会が大阪大学へ

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再生医療を推進する議員の会

2023年5月、大阪大学大学院医学系研究科最先端医療イノベーションセンターと医学部附属病院未来医療センターを国会議員で構成する「再生医療を推進する議員の会」に所属する国会議員数名と、内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、日本医療研究開発機構のメンバーが訪問しました。

訪問の目的は、再生医療研究の現状と取り組みを視察するためです。

 

再生医療を推進する議員の会は2008年に発足した超党派の議員で構成されています。

現在は、自由民主党の加藤勝信氏(社会保障制度調査会長)が会長となっています。

 

今回訪問した議員の会のメンバーは次のとおりです。

 

三ツ林裕巳議員(自由民主党・衆議院議員、4期)

日本大学医学部を卒業し、内科医の経験があります。

日本歯科大学生命歯学部内科学講座教授、日本大学医学部臨床教授を経て、2012年、埼玉14区から初当選しました。

内閣府副大臣、厚生労働大臣政務官、衆議院厚生労働委員長を歴任しています。

 

伊藤達也議員(自由民主党・衆議院議員、9期)

慶應大学卒業後、松下幸之助が総説した財団法人松下政経塾に入塾(同期は高市早苗議員)、カリフォルニア州立大学留学などを経て1993年、日本新党から衆議院議員選挙に立候補して当選しました。

1996年の衆議院議員選挙では新進党から出馬して当選、その後新進党を離党し、民政党を経て自民党に入党しています。

通商産業省政務次官、小泉政権では内閣府特命担当大臣(金融)、福田康夫内閣では内閣総理大臣補佐官を歴任しています。

 

古屋範子議員(公明党・衆議院議員、7期)

早稲田大学卒業後、聖教新聞社出版局に勤務し、2003年の衆議院議員選挙で比例南関東ブロックで当選しました。

小泉内閣では総務大臣政務官、安倍内閣では厚生労働副大臣を歴任しています。

 

古川俊治議員(自由民主党・参議院議員、3期)

慶應義塾大学医学部を卒業した医師ですが、慶應義塾大学文学部人間関係学科と、同じく慶應義塾大学の法学部法律学科、2つの通信教育課程を卒業しています。

医師であり、かつ弁護士でもあるため医学と法学に通じており、自由民主党内では科学技術・イノベーション戦略調査会事務局長、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員長を経験しています。

2001年には遺伝子技術を用いたがん治療や脳神経損傷の再生治療実用化を目指す大学発ベンチャーである(株)GBS研究所を設立しています。

現在も慶應義塾大学病院で、内視鏡下手術支援装置を用いる先端医療手術や遠隔手術などを先導し指導しており、国会議員でありながらも現場の最前線で活動しています。

 

今枝宗一郎議員(自由民主党・衆議院議員、4期)

自分が通っていた病院から医師がいなくなるという医療崩壊を経験しており、医療政策を専門とする国会議員を高校生から目指していました。

そのため、まずは名古屋大学医学部を卒業して医師になり、松下政経塾の勉強会にも参画していました。

医師になった後、医師をしながら東京大学医療政策人材養成講座を修了し、2012年に衆議院議員選挙で初当選しています。

当選後、初当選ながらも専門の医療社会保障では、自民党政務調査会の厚生労働部会薬事小委員会事務局長、それ以外の分野でも自民党政務調査会の国土交通副部会長、水産部会副部会長、金融調査会事務局次長など多くの政策分野に関わっており、2017年には史上最年少の33歳で財務大臣政務官に就任しています。

 

訪問した5人の議員のうち、3名が医師経験を持ち、こういった研究現場を視察するには適した人材です。

これらに加えて、内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、日本医療研究開発機構から派遣された人材が再生医療の現場を視察しました。

 

視察の内容

視察は、まず西田幸二医学系研究科副研究科長による角膜混濁治療の角膜上皮細胞シートの開発、未来医療センターが支援するシーズの成果、再生医療技術の産業化を目指す細胞製造コトづくり拠点等、大阪大学における再生医療の取組について、概略説明がありました。

 

次に各論として、医学系研究科循環器内科学の朝野仁裕特任准教授による遺伝性心筋症および最重症心不全に対する遺伝子治療の開発についての解説がありました。

朝野仁裕特任准教授は、心臓移植を要する拡張型心筋症の新規原因遺伝子BAG5を複数の家系で同定し、その遺伝子変異による心不全発症の病態メカニズムを明らかにしています。

現在、再生医療は「幹細胞のみを使う」というわけではなく、様々な方法を使って行われる治療を含んで再生医療として扱われています。

 

これらの説明後、iPS由来角膜上皮細胞シート、心不全に対するiPS由来心筋細胞シート、軟骨損傷治療のヒトiPS細胞由来軟骨組織等の実物を研究室内で視察しました。

これらは再生医療の中心を成す治療のためのツールです。

さらにiPS細胞をはじめとする幹細胞の培養、調整を行う「細胞培養調製施設(CPCCell Processing Center)」を見学しました。

 

大阪大学のCPCは、6つの開放系施設、2つの閉鎖系の施設、そこに合計3台の細胞加工アイソレーター、細胞加工ユニットが整備されています。

施設全体は24時間環境モニタリングシステムによって監視され、施設内各室の浮遊粒子、温度、室内気圧、インターロック機能、そして入隊知るの管理が行われています。

 

また、製造品質管理部門を持ち、品質検査室とP2レベルの感染症検査室が併設されています。

品質検査室は、製造される細胞加工物や製品の品質管理試験専用とされ、日本薬局方に従って、無菌試験、マイコプラズマ否定試験、エンドトキシン検査を実施しています。

 

これらの施設を見学後、視察した議員からは「患者が待ち望む再生医療、遺伝子治療が、研究から臨床、そして実現化されることを期待している。」という言葉がありました。

 

視察がもたらす効果

科学分野は専門性が高く、該当する学部を卒業したくらいでは十分理解できないことが多数あります。

少なくとも大学院レベルでの経験がないと、科学分野の専門的な事柄を理解することが難しいというのが事実です。

そのため、実際に現場を見てもらう、研究の現場から直接政策決定者に意見を述べるという機会は貴重です。

 

現場が求める事としては、「研究予算の増額(研究人材を増やすための人件費を含む)」、「基礎研究から臨床研究にかけてスムーズな研究、試験を行うことができる法整備、または政策の決定」が主なものです。

現在大きな問題となっているのは、大学などの研究機関の予算を財務省主導で削減している状況です。

そのため、研究機関の間で少ないパイを取り合うという現象も起こっており、日本の研究は医学、生命科学のみならず多くの分野で厳しい状況となっています。

 

日本で生まれたiPS細胞ですが、このiPS細胞を使って日本がこの分野でリード、産業化を積極的に行うことによって、日本の優位性が確保できるチャンスを十分に生かし切れませんでした。

いくつかの再生医療の分野においては日本がリードしていますが、それらは研究、医療に関わる人々の献身性と犠牲の上に成り立っているといっても過言ではありません。

 

以前と比べると、科学に対して理解を示す国会議員、また科学の基礎知識を持っている国会議員は増えてきています。

日本は科学技術立国のため、政策決定者にもこうした科学の知識が必要であることが認知されてきた証左とも言えますが、アメリカ、ドイツなどと比べるとまだスムーズに科学政策が動いていないのが現状です。

こうした視察によって少しずつでも科学の進歩、産業化が加速すれば、日本の大きな利益となります。

 

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