急性骨髄性白血病とは?研究の内容と評価について解説

目次

1. 難治性・再発性急性骨髄性白血病とは

急性骨髄性白血病(Acute myeroid leukemia:AML)は、分化・成熟能力が不十分な幼若骨髄系細胞が自分勝手に増殖することが特徴です。

骨髄で白血病細胞が以上増殖するため、正常な造血機能が阻害され、白血球減少、貧血、血小板の減少をまねき、様々な症状が表れます。

治療が遅れると、感染症、出血によって短期間で致死的となる疾患です。

基本的に治療は、化学療法を中心として多剤併用療法が用いられます。

年齢、臓器の状態、体力などの全身状態にも依存しますが、化学療法による臓器に対する薬剤の毒性、合併症に耐えられるかどうかがポイントになります。

化学療法は、寛解導入療法(治癒させるための療法)と、寛解後療法(再発させないための療法)からなりますが、化学療法のみでは予後が良好ではないと判断された場合、化学療法がある程度進んだところで同種造血幹細胞移植を行うケースがあります。

しかし、そこまで治療が進まず、寛解導入療法に不応であったり、完全に寛解したにも関わらず再発をした場合が、難治性急性骨髄性白血病、再発性急性骨髄性白血病とされます。

難治性、再発性の場合、化学療法のみでは治癒が難しいため、同種造血幹細胞移植療法が中心になります。

しかし、難治性、再発性急性骨髄性白血病の予後は悪く、5年間の全生存率は10%以下とされています。

こうした患者にとって、同種造血幹細胞移植は唯一の根治治療ですが、幹細胞移植を受ける予定の難治性、再発性急性骨髄性白血病患者のうち、治療に理想的な病状、つまり完全寛解状態で同種造血幹細胞移植を受けることができる患者はわずか25%です。

もし完全寛解状態ではない患者が同種造血幹細胞移植を受けた場合、再発リスクが高くなることがわかっています。

同種造血幹細胞移植を受けた場合、腫瘍細胞根絶のためには移植片対白血病効果に依存せざるを得ません。

移植片対白血病効果とは、幹細胞移植後に体内に残存している白血病細胞は、移植された細胞群から見れば異物ですので、免疫応答で攻撃します。

この攻撃に残存していた白血病細胞が全滅させられるのですが、これを移植片対白血病効果と呼んでいます。

2. カギを握っているヒト白血球抗原

幹細胞移植において、成功のカギを握っているのはヒト白血球抗原(HLA)です。

HLAは、白血球の血液型とも言われていますが、赤血球を除くほぼ体内の全ての細胞の表面に存在するタンパク質です。
このタンパク質は、個人個人で構造に微妙な違いがあり、免疫のシステムが自己と非自己を区別するための指標として作用しています。

操守造血幹細胞移植を受ける患者と、細胞を提供するドナーの間で、HLAが不一致である場合、その不一致が多いほど生着不全、移植片対宿主病(GVHD)などの合併症の発症率が高まることがわかっています。

そのため、できることならHLAが一致するドナーから幹細胞移植を受けることが望ましいとされています。

他の疾患では、標準とされているのがHLA一致血縁者からの同種造血幹細胞移植です。

しかし、代替ドナー移植法とされている臍帯血移植は、様々な条件下で難治性、再発性急性骨髄性白血病患者に対して、強力な移植片対腫瘍効果を誘導する可能性が示唆されていました。

しかし、被官回帰急性白血病患者の臍帯血移植に関する研究はほとんど行われていませんでした。

HLAの一致するドナーを見つけることは容易ではないため、HLAの防御を克服するための移植方法の開発も進んでおり、そんな中で今回の研究成果を報告した研究グループは、臍帯血に着目しました。

3. 研究成果の内容は?

この研究は、大阪大学大学院医学系研究科の大学院生下村良充氏、祖父江友孝博士、愛知がんセンター、JSHCT急性骨髄性白血病ワーキンググループ柳田正光医長らのグループによって行われました。

明らかになったことを簡単にまとめると以下のようになります。

  1. 治療抵抗性急性骨髄性白血病に対する臍帯血移植の有用性を、日本全国の移植施設が構築する造血細胞移植に関する情報を集積したデータを用いて評価しました。
  2. 標準的とされる白血球の型であるヒト白血球型抗原(HLA)一致血縁者からの同種造血幹細胞移植と比べて臍帯血移植の予後が良好であることを示しました。
  3. 非寛解期急性骨髄性白血病への同種造血幹細胞移植後の予後の向上のためのエビデンスとして国内外のガイドラインの改訂にも影響を与えると期待されます。

全国の医療機関からの協力によって行われた研究のため、研究成果を記載した論文には、全国24カ所の研究機関、医療機関に所属する研究者の名前が連ねてあります。

研究グループは、日本造血細胞移植データセンター(The Japanese Data Center for Hematopoietic Cell Transpkantation: JDCHCT)の移植登録一元管理プログラム(TRUMP)をバージョンアップした、第二世代TRUMP(TRUMP2)を使って行われました。

このデータ群を使って、非寛解急性骨髄性白血病の臍帯血移植の予後の影響を、HLA一致血縁者間移植と比較することを目的として、2009年から2018年までの10年間、臍帯血移植トータル1738例、HLA一致血縁者間移植、トータルで713例の治療を受けた非寛解急性骨髄性白血病患者のうち、成人患者2451名のデータを対象としました。

この研究は、研究室で実験を行う、というタイプの研究ではなく、膨大なデータを使って解析する研究です。

5年間の無増悪生存期間と臍帯血移植の予後への影響をデータから評価します。

そのため、データ解析には統計的、数学的な手法を使い、今回の解析では、傾向スコアマッチング解析という解析方法を使っています。

傾向スコアマッチング解析とは、ある治療、または薬剤の有効性を評価する研究において、研究に登録している患者による特徴、つまり個人差の影響をなるべく排除するために、患者の様々な背景因子を傾向スコアという指標に変換し、同スコア、類似スコアを持つ患者同士を各群で比較、患者背景が同一、または類似した状態で、目的とする治療方法や薬剤の効果を評価する方法です。

この結果、無増悪生存期間においては、HLA一致血縁者による移植よりも、臍帯血移植の方が良好な数字を示しました。

つまり、この生存については臍帯血移植療法の方が効果があることが統計学的証明されたわけです。

4. 治療、診療ガイドラインの改訂へ進むのか?

この研究では、難治性、再発性急性骨髄性白血病において、HLAが一致する血縁者から造血幹細胞を移植するよりも、臍帯血を使って造血幹細胞を移植した方が治療効果が上がるという結果が出ています。

しかし、この研究があるからすぐに臍帯血移植を中心にした方がよい、ということにはなりません。

それは、同じ名前の疾患とはいえ、患者ごとに疾患のキャラクターも微妙に異なるため、ケースバイケースで担当医師がその度に判断する必要があるためです。

この研究結果が影響するものとしては、非寛解期急性骨髄白血病におけるドナー選択に与える多様性です。

今後の研究の進展、そして有識者による議論によっては、1つの疾患に対して治療方法が複数存在し、医師と患者、そして患者の家族の話し合いによって患者が望む治療方法を選択すると言うことが可能になるかもしれません。

この研究のプレスリリースでは、まずは急性骨髄性白血病に関する治療、診療のガイドラインが研究結果を踏まえて改訂されることを期待する、とあります。

疾患にも個人差があり、複数の治療方法がある場合はその選択、患者とその家族からコンセンサスを得ることは重要という流れになっています。

今後、国がこの治療ガイドラインを改訂する方向に進むのかどうかはまだわかりませんが、HLAは一致させなければならないケースと、一致しなくても治療効果が期待できるケース、これらが明らかになってくれば、さらに根治する確率が上昇するのではないかと期待されます。

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