再生医療とは?日本の保険適用7種の治療も含め、わかりやすく解説!

この記事の概要
  • 再生医療とは?
  • 日本の健康保険が適用される7種類の再生医療
  • メリット、デメリット

『再生医療』

最近、テレビや新聞など、さまざまなメディアでこの言葉を耳にする機会が増えました。

新しい分野での治療として期待されていますが、まだまだ効果や安全性を確認している段階のものもあり、実際に治療として用いられた事例は少ないのも事実です。

今回の記事では、効果や安全性を確認している段階の治療、医療現場での実例も含めて「再生医療」を徹底解説します!

目次

1. 再生医療とは?

「再生医療」とは、機能障害・不全となった組織や臓器を、細胞・人工材料を使って失われた機能を再生させる医療です。治療法が見つかっていない怪我や病気の新しい治療法を見つけたり開発したりすることができると考えられています。また、この技術を利用して、難病の原因究明・薬の開発も行われています。

みなさん一度は膝をすりむいたり、指を切ってしまったりした経験はありますよね。すり傷はしばらくするとかさぶたとなり、切り傷は傷がくっついて自然と治っていきます。これは皮膚の組織が再生されて傷が治っていくという、人が生まれながらに持っている「自然治癒力」という機能です。

この人がもともと持っている機能を活かし、人間の技術を組み合わせて行う医療が「再生医療」です。

1-1. 再生医療と細胞の関係

私たちの体は、多くの細胞からできています。その数は約60兆個と言われていますが、最初は「受精卵」というたった一つの細胞から始まります。

このたった一つの細胞が細胞分裂を繰り返し、やがて様々な臓器や組織ができていきます。これを「分化」といいます。分化し、臓器や組織になった細胞を「体細胞」と呼び、分化する前の細胞(これから分化し、臓器や組織になる順番待ちをしている細胞)を「幹細胞」と呼びます。

再生医療は、主にこの「幹細胞」を利用し行われる医療です。

1-2. 「間葉系幹細胞」と再生医療

再生医療と聞くと「iPS細胞」という言葉を思い浮かべる方も多いかもしれません。2006年に山中教授が発表し、日本では高い関心が寄せられました。「iPS細胞」は人工的に作り出すことができる多能性細胞(さまざまな組織・臓器に分化できる幹細胞)で、研究が進められてはいますが実用化には至っていません。

現在、再生医療に用いられているのは、人工的に作りだす「iPS細胞」ではなく、ヒトの身体から採取した「幹細胞」を培養して増やし、利用されています。

幹細胞にもたくさんの種類があり、その中でも間葉系幹細胞」という細胞が再生医療に用いられています。「間葉系幹細胞」はさまざまな臓器・組織に分化できる細胞で、皮膚や脂肪、骨髄などあらゆる場所に存在していますが、採取の難易度、身体への負担、用途、効果などを加味し、どこから採取するか決められます。

2. 再生医療の実際

その効果を期待されている「再生医療」ですが、現在、日本で健康保険の適応範囲となっている「再生医療」はまだ7種類だけです。なかには、対象となる患者さんが少ないなどの理由から期限付きで承認されているものもあります。

2-1. 再生医療(再生医療製品)の種類

2-1-1. ジェイス(ヒト(自己)表皮由来細胞シート)

ジェイスは日本ではじめて保険適応となった再生医療製品です。

患者さん自身の皮膚の組織を培養して、表皮細胞シートを作ります。再発を繰り返したり、治りにくい皮膚のびらんや傷などに、そのシートを移植することで、症状を改善します。

  • 重症の火傷(やけど)
  • 先天性の巨大色素母斑(ぼはん。大きなあざが生まれつき、もしくは次第に出現する)
  • 栄養障害型表皮水疱症および接合部型表皮水疱症(簡単な刺激でもすぐに水ぶくれやびらんとなってしまう病気)

などに使用されます。

「びらん」とは
びらんは、皮膚にできる皮膚病の一つです。漢字だと「糜爛」と書きますが、読めませんね。転んで擦りむいたり、靴擦れを起こした時のように表皮がはがれ皮膚面がむき出しになっている状態です。

2-1-2. テムセルHS注(ヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞)

テムセルは日本ではじめて他人の細胞を培養して作られた再生医療製品です。健康な人から骨髄液を採取し、そこからヒト間葉系幹細胞(MSC)を培養して作ります。造血幹細胞を移植した後に起こる拒絶反応をおさえる効果が期待できます。1週間に2回、3日以上投与の感覚をあけて、4週間点滴します。

2-1-3. ジャック(ヒト(自己)軟骨由来組織)

ジャックは患者さん自身の軟骨の細胞から作られます。採取した軟骨の細胞とゲル状のコラーゲンと混ぜて4週間かけて培養し、培養した細胞を患者さんの膝関節に移植します。

スポーツや外傷などにより強い刺激を受けた際に、軟骨の一部が欠けてしまう外傷性軟骨欠損症や軟骨がはがれて関節内に遊離する離断性骨軟骨炎などの治療に使用され、骨の機能を取り戻す効果が期待できます。ただし、変形性膝関節症の患者さんは対象外となっています。

2-1-4. キムリア点滴静注(チサゲンレクルユーセル)

キムリアは患者さん自身の血液から作られます。血液を採取し、加工施設でT細胞を増殖させて、さらにがんに対する攻撃力を高める加工をします。キメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれる遺伝子の導入し、人工的に遺伝子を組み換えることで、そのがん細胞に対する攻撃力が増強されます。キメラ抗原受容体(CAR)が関係していることから、キムリアによる治療はCAR-T療法と呼ばれています。

主にCD19抗原と言われる免疫毒素が陽性の白血病の患者さんが対象となり、点滴で投与されます。

2-1-5. ハートシート(ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート)

ハートシートは、患者さん自身の太ももから筋肉の細胞を採取し、それをシート状に培養して作られます。心臓の表面に直接このシートを貼り付けることで、弱くなった心臓の機能を回復させる効果が期待されます。薬や手術など、これまでの治療でも十分な効果がみられなかった重症の心不全の患者さんが対象となります。

2-1-6. ステミラック注(ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞)

ステミラックを作るには、患者さん自身の骨髄液と血液が必要となります。採取した骨髄液から血液(血清)を使って骨髄間葉系幹細胞を培養します。培養した骨髄幹細胞を点滴よって、患者さんの体内に戻します。事故など外傷による脊髄損傷の治療に用いられますが、この治療法は受傷から31日以内に骨髄液を採取できる患者さんなど、使用できる条件が厳しく決まっています。

2-1-7. コラテジェン筋注用4mg(ベペルミノゲン ペルプラスミド)

コラテジェンは日本で初めての遺伝子治療薬です。内服治療で十分な効果が見られず、手術ができない慢性動脈閉塞症(まんせいどうみみゃくへいそくしょう)の患者さんが対象となります。慢性動脈閉塞症とは手や足の動脈が細くなったり、詰まったりして、血液が十分に行き届かなくなってしまう状態で、重症になると安静にしていても手足に痛みを感じたり、潰瘍ができ壊死に至る場合もあります。

虚血(きょけつ)のある部位に対して、4週間間隔で2回筋肉内投与することで、新しい血管ができ、血液の流れが回復させる効果が期待されます。

2-2. 再生医療のメリットとデメリット

患者さん本人の細胞を自家細胞(じかさいぼう)と言いますが、自家細胞を培養して利用する場合、拒絶反応は少ないと言われています。しかし事前に準備ができないため、採取から培養、移植までの時間がかかるというデメリットがあります。

一方で、他人の細胞は他家細胞(たかさいぼう)と言います。他家細胞を利用して移植する場合は事前の準備が可能ですが、自分の細胞を利用する場合に比べて、拒絶反応のリスクが高くなり、再生医療を受けた後、拒絶反応を抑える薬の服用が欠かせないなど、ある程度の負担が発生します。

なお、海外では拒絶反応が出ない技術を活用し、他家細胞を利用した再生医療も実際に行われています。日本の技術力は世界的に見て高いと言われますが、それぞれの細かな分野で見ると、日本よりもずっと技術が進んだ国があるのも事実です。

特にこの「再生医療」の分野は、海外の医療大国の状況にも目を向け、常に最新の情報を把握しておくことが重要です。

3. まとめ

新しい医療として注目されている「再生医療」ですが、国内ではまだまだ研究段階のものが多く、実際に治療として認められているものは数えられる程度です。その背景には、倫理的な問題、臨床上の問題、法令上の問題など、たくさんのハードルがあるとされています。

しかし技術の進歩により、これまで治療することができなかった病気を治したり、症状を改善させる新たな治療法が日々確立されてきたことも事実です。再生医療もその実用化に向け研究が進められています。将来、誰もが最新の再生医療を受けることができるようになっているかもしれませんね。

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