肝炎は、様々な原因で肝臓に炎症が起こる疾患です。肝臓に炎症が起こった結果、全身倦怠感、発熱、黄疸などの症状が現れます。肝炎の原因は様々であり、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎、薬剤性肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎に分類されます。
肝炎においては、幹細胞を用いた治療が多くの研究機関で研究されており、再生医療の進歩と相まって大きな期待を寄せられている疾患治療方法です。
この記事では、肝炎の種類と治療法について解説します!
1. 肝炎の種類
現在、日本人の肝炎で最も多いのはウイルス性肝炎です。ウイルス性肝炎のうち、最も多いのがC型肝炎です。
C型肝炎は、C型肝炎ウイルスが原因であり、日本ではC型肝炎を発症していない人も含めて、C型肝炎ウイルスに感染している人は約200万人、世界全体では1億7000万人が感染していると予測されています。この1億7000万人という数字は、世界人口の約3%になります。
輸血などによる血液での感染が主な感染経路で、血液製剤も原因となり得ます。血液製剤であるフィブリノゲンによって起こったとされる薬害肝炎問題は記憶に新しい薬害です。麻薬の注射の回し打ちでも感染が拡大されていると考えられています。
B型肝炎も血液による感染ですが、さらに体液による感染も存在します。つまり、性行為による感染もあるため、性感染症の1つという見方もできます。B型肝炎ウイルスの感染者は日本国内では約150万人と予想されていますが、ほとんどの人が自然治癒すると考えられています。しかし、B型肝炎は垂直感染、つまり母子感染するため、注意を必要とする肝炎です。
これらの肝炎はいずれも血液感染します。麻薬の注射を回し打つ例を先に挙げましたが、日本では予防注射の針を使い回していた時期がありました。これにより、かなりの肝炎ウイルス感染者が増えたと予想されています。予防注射の針の使い回しはそれほど昔のことではなく、1988年頃までは普通に行われていました。
日本では、このB型肝炎、C型肝炎と、A型肝炎が大部分を占めます。A型肝炎は、感染力が強く、感染後はヒトの身体は非常に強い免疫を獲得します。患者の発生と、住居環境、生活環境には密接な関連性があり、衛生状態が良い先進国では比較的感染者が少なくなっています。
その他、肝炎ウイルスにはD型、E型、G型、TT型があります。いずれも感染者割合は少ないウイルス性肝炎です。そして、肝炎ウイルス以外では、EBウイルス、サイトメガウイルス、ヘルペスウイルスなどの感染でも肝炎が起こるケースがあります。
アルコール性肝炎は、長期にわたるアルコール摂取が原因で起こるアルコール性肝障害に含まれます。まずアルコール性脂肪肝になり、そこからアルコール性肝炎に進行します。その後悪化すると、アルコール性肝硬変を経て肝細胞がんを発症します。
アルコール以外の原因で、肝臓に脂肪が蓄積されると、非アルコール性脂肪性肝炎を発症することがあります。発生機序の詳細はまだ解明されていませんが、肥満による脂肪の蓄積と、ストレスが関わっているのではないかと考えられています。
薬剤肝炎の主な原因は、漢方薬、総合感冒薬、解熱鎮痛剤に一般的に含まれているアセトアミノフェンがよく知られています。そして、難病に指定されている自己免疫性肝炎、特定疾患治療対策事業対象疾患の1つに指定されている、原発性胆汁性胆管炎が肝炎に含まれます。
2. 肝炎を発症したときの肝臓
肝炎は炎症性ですので、肝臓に起こった炎症と捉えることができます。しかし、肝炎の種類によって発症の作用機序は少しずつ違っています。
例えば、肝炎ウイルスによる肝炎は、感染したウイルスが肝臓の細胞に直接悪影響を与えて起こるのではありません。肝臓の細胞内で増殖しているウイルスに対してヒトの免疫システムが反応し、ウイルスだけでなく肝臓の細胞も一緒に攻撃してしまうことにより起こります。
アルコール性肝炎の場合は、アルコールが直接の原因となります。体内に入ったアルコールは、第1段階でアセトアルデヒドに分解され、第2段階でアセトアルデヒドから酢酸へと分解されて排出されます。
大量の飲酒さらに長期にわたる連続飲酒で、この代謝が間に合わず、アルコールとアセトアルデヒドの肝毒性によって肝臓の細胞に炎症が生じます。遺伝子型の解析によると、日本人の約30から40%が、アセトアルデヒドを分解する酵素、アセトアルデヒド脱水素酵素が低活性か欠損していることがわかっています。そのため、日本人にはアセトアルデヒドが長期にわたって体内に残りやすい人が多いとされています。
これらの減少により、肝臓の細胞が傷害を受け、その結果肝臓機能が低下します。肝臓は身体の機能を維持するための多くの役割を持っています。消化を補助する胆汁酸の生成、血液中グルコースの貯蔵、または血液中へのグルコース放出、脂質の代謝と、そこからのエネルギー生成、ステロイドホルモンの原料であるコレステロールの生合成、アミノ酸代謝、薬物の代謝などです。
肝臓は、手術で部分的に切除しても、再生して元の大きさに戻ります。再生力が強い臓器ですが、その再生力は常に発揮できるわけではありません。肝臓での炎症が慢性化すると、再生能力は低下、または消失してしまいます。また、線維化してしまった肝臓は、元に戻ることはありません。
3. 幹細胞を使った肝炎の治療
肝臓疾患に対する幹細胞を使った治療は、主に肝臓細胞の再生を目的としたものです。この治療法は、肝炎から肝硬変、肝臓の線維化に進行した場合に用いられます。肝炎においても、炎症による細胞死のために減少した細胞を、幹細胞から分化させて補てんするという治療法が取られることがあります。
幹細胞は成体にも存在し、身体の様々な場所から採取できることはよく知られています。肝臓からも幹細胞は採取することは可能であり、肝臓由来の幹細胞、または幹細胞由来で肝臓細胞に分化する手前の前駆細胞の研究が進んでいます。特に、HepaRG細胞は、培養条件によって肝臓実質細胞、または胆管細胞のどちらかに容易に分化させることができ、人工的な肝臓組織の構築などの研究が盛んに行われています。
また、間葉系幹細胞は肝臓の炎症、再生、線維化を制御できる細胞である事がわかってきています。間葉系幹細胞は、炎症性のマクロファージを抗炎症性のマクロファージに変化させる機能を持ち、炎症抑制に効果があると考えられています。
この研究は、他家脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた肝臓の再生治療開発を行っていた新潟大学から2012年に発表されたものです。この研究グループの結果は、肝臓疾患における幹細胞は、肝臓細胞の再生のみでなく、炎症抑制、そしてその延長線上に肝臓の線維化抑制、線維化改善の役割を持つことを示しています。
さらにこの研究はバイオイメージングを用いて、投与された幹細胞、炎症に関わる細胞が肝臓のどの位置に存在しているのかを明らかにしています。肝臓移植が唯一の望みであった重度の肝臓疾患に、新たな治療方法が使われつつあるのが現状です。
肝臓疾患への幹細胞の使用はそれほど新しい治療方法ではなく、造血幹細胞の投与が研究されていました。この研究では、造血幹細胞投与後にB型劇症肝炎が発症することがあり、造血幹細胞投与によるB型肝炎ウイルスの活性化が問題となって行われた研究です。
肝臓は昔から“再生”を行うことが知られていた臓器です。必然的に再生の研究は幹細胞出現までにかなり進んでいました。そのため、幹細胞を用いた研究もかなり詳細な部分までわかってきています。