- 骨系統疾患は、骨形成不全症、軟骨無形成症をはじめ461の疾患が分類されている
- 軟骨無形成症の治療には、成長ホルモンを投与する、下肢の延長、伸長手術などが用いられている
- 幹細胞による再生治療を用いた骨系統疾患の10年以内の治療方法確立に大きな期待が寄せられている
骨系統疾患は、骨、軟骨、靭帯など骨格を形成する組織の異常により、骨格の形成・維持に異常をきたす疾患です。
この記事では、骨系統疾患の症状と、幹細胞治療について解説します!
1. 骨系統疾患
骨系統疾患とは、骨格を形成する組織の異常により、骨格の形成、維持に異常が現れる疾患の総称です。骨格を形成する組織とは、靱帯、骨、軟骨を指します。これらの異常は、分化、発達、成長が何らかの障害を受けることによって生じます。骨形成不全症、軟骨無形成症が骨系統疾患に含まれる代表的な疾患で、骨系統疾患国際命名法会議によって、国際分類され、現在は461の疾患が骨系統疾患として分類されています。
しかし、疾患として研究され、確立されたもののみが骨系統疾患疾患国際命名法会議によってリスト化されるため、実際には骨系統疾患として医師などの現場に認識されている疾患は1000をこえると考えられています。
非常に多くの疾患を骨系統疾患は含むので、疾患それぞれの患者数頻度は低いのですが、骨系統疾患としてみた場合は、ヒトの集団でかなりの割合で患者が存在するとされています。その数は、おおよそ1000人に1人以上は存在するのではないかと予想されています。
骨系統疾患における骨格形成組織の異常は、その組織の分化、発達、成長の障害が原因と述べましたが、この障害の多くは遺伝性の疾患であり、先天的な原因があります。骨における先天奇形である遺骨症、奇形症候群、代謝疾患、内分泌疾患、そして染色体異常も骨系統疾患に含まれます。しかし、現時点で遺伝子診断ができる骨系統疾患は、150疾患であり、多くは早期の発見が難しい状態です。
また、疾患ごとに原因遺伝子が異なる場合がほとんどで、さらに集団遺伝学においてかなり複雑に絡み合った遺伝要素を含むため、根本的な対策が採りづらく、難病に指定されている疾患が少なくありません。
2. 骨系統疾患の症状
骨、軟骨に異常が出るため、全身のどこに出るのか、どんな症状なのかは同じ疾患でも異なることが多く、このことも骨系統疾患に含まれる疾患の難しさの原因となっています。さらに必ずしも生まれたときに症状が出ているとは限らず、成長すると共に症状が現れる場合もあります。
成長するにしたがって、身長が伸びない、骨、関節が変形している、骨が脆くて骨折が起きやすいなどの症状が現れるケースは比較的多く、遺伝性のものであれば、親子、兄弟で同じ疾患に罹るケースもあります。
骨系統疾患のほとんどは、根治する治療方法が存在しません。そのうちいくつかは対症療法によって症状を和らげる治療法が存在しています。骨、関節以外にも症状が出ることがあるため、合併症に対応する、または管理する事も重要です。
ここでは、いくつかの代表的な骨系統疾患の具体的な症状を解説します。
軟骨無形成症は、骨系統疾患の代表とも言える疾患です。低身長が特徴的で、手足の短さが目立ちます。この疾患は、原因遺伝子がほぼ特定されており、繊維芽細胞増殖因子受容体遺伝子である、FGFR3が変異しています。低身長以外にも、関節が伸びにくい、指が短いなどが挙げられます。関節が伸びにくいために、膝が不安定で、O脚になるケースが多く見られます。
さらに、背骨が曲がっている場合、腰の神経が圧迫されるなどによって、足のしびれが症状として表れることがあります。現在行われている治療として、成長ホルモンを投与する、下肢の延長、伸長手術などが用いられています。
先天性脊椎骨端異形成症は、生まれた時点で低身長を示します。軟骨無形成症との違いは、座高が低い点です。この疾患の原因遺伝子は、軟骨の成分の1つである、II型コラーゲン遺伝子に変異があります。足の変形、膝の変形も見られ、O脚、X脚が症状として出る場合があります。また、軟骨無形成症と同様に、神経の圧迫が起こることがあります。頸椎の不安定さがこの原因であるとされています。
このため、先天性脊椎骨端異形成症の場合は、頸椎に注意を払う必要があります。そして、この疾患では近視になるケースが多く、まれに網膜剥離が合併症としてあらわれることがあります。先天性脊椎骨端異形成症と軟骨無形成症は、症状に似ている部分がありますが、先天性脊椎骨端異形成症では成長ホルモンの投与、下肢の延長手術は行われません。
骨が折れやすいことが特徴の骨形成不全症は、骨折しやすい以外にも症状の幅が広く、生まれた時点で骨折がある場合、疾患には罹っているが、骨折の頻度が少ない場合など、様々です。
患者の約90%が、I型コラーゲン遺伝子に異常があります。骨折を繰り返すと、次第に骨が変形します。また、徐々に背骨が変形すると、神経に大きな影響が出てきます。治療方法として、手術によって骨を真っ直ぐにする方法、薬物を使って骨の強度を増す方法が採られています。
I型コラーゲンは、骨だけでなく、歯、靱帯、腱に存在しています。そのため、虫歯になりやすい、関節が脆いなどの症状が出る場合があります。また特徴的な症状として、白目が青い、合併症として難聴になる場合もあります。
3. 幹細胞を使った治療
骨系統疾患は遺伝性のものが多いため、胎児の間に治療する方法が考えられています。この方法は、必要な酵素を補充する、幹細胞を移植する、遺伝子治療の3つが考えられている方法です。幹細胞を移植する、つまり再生医療では、骨形成不全症胎児に対する間葉系幹細胞移植の報告があります。骨系統疾患は、出生時にすでに病態が出ているケースがあり、重症化している場合が多くあるので、胎児の間に治療する方法は大きな期待が寄せられています。
低フォスファターゼ症は、先天性骨系統疾患の1つですが、間葉系幹細胞を用いた治療が島根大学などで行われています。低フォスファターゼ症は、TNSALPという遺伝子の変異によって、骨の石灰化障害が起きます。重症の場合、生後すぐに発症し、骨の石灰化が少しずつ解消され、呼吸障害症状が合併症として現れ、乳児期に致死的な状況になります。
この患者に、骨髄から採取して培養した間葉系幹細胞を静脈から複数回移植した結果、骨の石灰化が回復し、筋肉、呼吸障害を抑制する結果が得られています。しかし、正常の骨構造の回復をすることができていないので、根治治療方法として使うことはできません。そのため、増殖能力が高い幹細胞を用いた治療方法など、根治を目指した治療方法の開発が進められています。
さらに、大阪大学医学部は、京都大学iPS細胞研究所と共に、骨系統疾患を有する小児から人工多能性幹細胞を作製し、骨細胞系へと分化誘導することによって、その発達過程、機能を解析しています。これによって、遺伝子異常から症状がどう発症するかという過程を明らかにしようとしています。これによって、効果が期待できる治療方法確立のための基礎データを得られると期待されています。
革新的医療技術創出拠点プロジェクトでも、骨系統疾患の根治治療を目指した研究が課題として採択されており、今後10年で大きな成果を挙げると期待されています。骨系統疾患は、原因遺伝子と症状の関連性が徐々に明らかになってきたのがつい最近であり、病態の解析などに不十分な部分があります。
遺伝子、病態の関連性を明らかにする、つまり、骨、軟骨の分化過程、成長過程を詳細に解析することにより、幹細胞移植によって介入できる部分を明確にすることで、間葉系幹細胞を使った治療の効率化、より高い効果を挙げる方法の開発が進められると予想されています。
幹細胞治療と並行して、遺伝子治療の開発も進んでいますが、遺伝子変異が原因となっている疾患の遺伝子治療となると、倫理的な問題も含めてクリアしなければならない問題が幹細胞を用いた場合よりも多いため、幹細胞による再生治療を用いた骨系統疾患の治療方法確立に大きな期待が集まっています。