2024年から2036年の再生医療市場の概要

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再生医療市場の概要

東京都渋谷区に本社を持つSDK Inc.は、202412日に、再生医療市場の2024年から2036年までの調査結果を発表しました。

再生医療市場は2036年までに約1130億米ドルの規模まで成長すると見込まれており、2023年末時点での予測規模は約230億米ドルと予測しています。

 

この調査における再生医療とは、ヒト、動物の組織・器官を改変、または再成長させることで正常な機能を回復、または改善するプロセスに治療段階を入れることを指しています。

機能的に失われた場合、または欠損してしまった場合、それらの組織・器官を機能的な再生によって修復して疾病などを回復させることが期待できます。

 

この分野においての主要な成長ドライバーはがん治療における製品需要の増加と免疫療法の進歩の2つが代表例として挙げられます。

 

まずがん治療における製品需要の増加は、がん治療製品の高まりによって誘導されており、2020年には75,000人の医師が世界で化学療法を使った治療に関与していましたが、2040年までには150,000人のレベルまで医師が増加すると推定されています。

 

がん治療に再生医療をどのように使うのかについては、がんそのものや化学治療の副作用によって損傷した組織を標的とする標的治療の回復に応用することが考えられています。

 

免疫療法についてはがん治療とも関連しますが、ヒトが持っている免疫システムを利用して自己免疫疾患やがんに対応する事が基本です。

がんに免疫療法を使うという方法は、がんの治療方法を大きく変えました。

免疫療法を使うということは、患者それぞれの体質に合わせた個別療法を可能とするもので、「オーダーメイド医療」または「精密医療」という呼ばれ方をしています。

 

ここまでの市場の成長

この調査には、成長要因、課題、市場傾向を含む市場動態が含まれていますが、それらについてはここまでの再生医療市場の成長を参考にして予測している部分が多く含まれています。

 

2020年から2021年にかけては、年間成長率は103 %という高い成長率が起こっているとされていますが、需要から考えるとこの伸びは不十分とされています。

つまり、「確かに高い成長率を示しているが、ニーズから考えると、もっと高い成長率になるはずだ」ということになるわけです。

 

ややブレーキがかかっている部分が入っていることは否めないのですが、調査書ではこの原因を各国政府による厳しい規制のためである、と分析しています。

生命科学に絡む産業であるため、倫理的、道徳的に厳しい基準を設けなければならず、このブレーキは必要不可欠なものがほとんどであり、不要とされるものは今後数年間の調整段階で排除されると考えられています。

 

直近では、いくつかのブレイクスルーとなる知見が報告されています。

この調査によると、2023年12月に、Food and Drug Administrationは、鎌状赤血球症の治療のための初の細胞ベースの遺伝子治療となるカスゲビーとリフゲニアの治療法を承認しました。

さらに 2023年11月に、Takara Bio Inc.は順天堂大学医学部准教授の神谷和作博士と共同で、内耳組織への高い遺伝子導入効率を実現する新規アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターSonuAAVを開発したことが大きなブレイクスルーとなり得るものであるとしています。

 

この2例を代表例として、調査書ではさらなるブレイクスルーが今後数年間に複数出現すると予想しています。

 

再生医療の発展と各機関

再生医療に関わる組織、機関は幅広く存在していますが、治療を行う医療機関、治療方法の開発を行うアカデミック、または企業などが市場拡大のキープレーヤーとして挙げられます。

この市場調査では、エンドユーザーに基づいて、市場となる医療機関(実際に治療行為を行う施設)は、病院、クリニック、その他に分類しています。

このうち、病院セグメントは予測期間中(2036年まで)に最も成長すると予想されます。

 

法律、規制の調整のバランスを取れるようになった場合、政府支援の増加が誘導されます。その結果、病院で行われる外科手術の件数が増加するため、これらの製品の市場の拡大、製品を提供する企業に新たな刺激を与える事が予想されます。

病床数が 25―49 の認定病院では、2023年は 18.5 百万件を超える外科手術が行われました。

 

そして先進国がこれから経験する高齢化社会もこれらの市場の成長を後押しすると考えられています。

特に日本では、がん、糖尿病の発生率の増加によって市場が成長すると見られています。

日本では糖尿病の有病率が約8 %であり、成人の30 %以上が糖尿病の前段階か、糖尿病そのものを発症している可能性があります。

このような状況も市場拡大を後押しする要因となるでしょう。

 

そして市場に重要な企業ですが、2036年までの成長に貢献する企業もこの調査書に掲載されています。

 

まず世界的な成長に貢献するとされている企業は、AbbvieAmgenBaxterBecton DickinsonIntegra Life Science5つが挙げられています。

 

Abbvie(日本ではアッヴィとして知られています)は、アメリカのシカゴ郊外に本拠地を持つバイオ医薬品企業です。

Amgen(アムジェンとして知られています)はアメリカ、ロサンゼルス郊外にある世界最大のバイオテクノロジー企業です。

Baxter(日本ではバクスターとして知られています)はアメリカのシカゴ郊外にあるバイオ企業ですが、この分野の多くの企業が近年設立されたケースが多く、若い企業中心です。

そんな中でBaxter1931年に輸液メーカーとしてスタートしており、老舗企業と言えるでしょう。

 

Becton Dickinson(ベクトン ディッキンソン)はいくつかの大規模企業が合併してできなき業で、アメリカのニュージャージーに本拠を置いています。

いくつかの企業がそれぞれの強みを活かして構成された企業ですので、かなり幅広く再生医療をサポートしています。

そして最後に比較的新しい企業であるIntegra Life Scienceですが、アメリカ、ニュージャージーに本拠地を構えています。

 

そして日本国内で成長をするとされている企業は、MiMedxNovartisSmith and NephewThermo Fisher Scientific、アステラス製薬です。

 

Mimedxは新しい企業で、アメリカのジョージア州に本社がある生物医学系企業です。

Novartis(ノバルティス)はスイス、バーゼルの企業ですが、研究試薬、製薬を主力とする企業です。

Smith and Nephewは本社はイギリスにあるのですが、実際は多国籍企業で医療機器関連に強みを持っている企業です。

 

そしてThermo Fisher Scientificは、サーモ・フィッシャーとして日本の研究機関に研究試薬などを多く供給している会社です。

本社はアメリカのマサチューセッツにありますが、日本の研究者にとっては非常になじみの深い企業です。

そして最後に日本のアステラス製薬が挙げられています。

 

日本市場において日本の企業が一社のみとは寂しい限りですが、これは日本企業の未来戦略の出遅れと、公立研究機関、大学への予算を日本政府が大きく絞ったために、2036年頃には「バイオ系の研究者が圧倒的に不足し、これまで維持してきた教育システムが崩壊する」と予測されているためです。

実際、研究者、技術者の間では、もはや日本が科学技術分野で世界の先頭グループを走れるのは今後10年から15年くらいで、その後は自力で新しい技術を開発できる国ではなくなると考えられています。

 

今後の幹細胞を使った再生医療市場は?

幹細胞を使用した再生医療市場は将来的に重要な役割を果たすと広く予測されています。

以下は、その成長を促進する可能性のあるいくつかの要因です。

 

多様な治療領域への応用: 幹細胞は異なる組織や器官の細胞として分化する能力を持っており、損傷した組織の修復や再生に利用できます。心臓病、神経変性疾患、関節炎、糖尿病など、多岐にわたる疾患に対する治療法として幹細胞が活用されることが期待されます。

 

技術の進歩:幹細胞研究の進展により、より効果的で安全な治療法が開発される可能性があります。新しい技術やプロトコルの採用により、治療のパーソナライズや効果の向上が期待されます。

 

 

遺伝子編集技術の発展: CRISPR-Cas9などの遺伝子編集技術の進歩により、幹細胞の特性を改善し、治療の精度を向上させることが可能となります。

これが進むと、治療のパーソナライズ(オーダーメイド化)が進み、患者により適した治療方法が提供されるでしょう。

 

治療の商業化:幹細胞を使用した治療法が実用化され、規制機関の承認を得るとともに、治療の商業化が進むことが予想されます。これにより、再生医療市場全体の拡大が期待されます。

 

患者の需要と受容性:患者が個別化された治療法を求める傾向が強まっており、その中で幹細胞を使用した治療法が注目を集めています。患者の需要が高まれば、市場も拡大するでしょう。

 

ただし、倫理的な課題や安全性の懸念、高い治療費、規制上の課題なども考慮する必要があります。将来の発展にはこれらの課題に対する解決策が求められます。

こういったコストの問題は市場の拡大が解決する部分に大きな期待が寄せられており、市場の拡大によって治療コストだけでなく研究コストの低下がさらなる治療技術の発展を促すと予想されています。

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