「腎疾患」とは?その種類と幹細胞を使った治療法を徹底解説!

この記事の概要
  • 腎疾患は初期から中期にかけては無症状の場合が多く、自分で気づくケースはあまりない
  • 重篤患者への治療は腎移植のみが現在確立されている治療方法だが、慢性的な腎臓疾患では、尿毒症の症状が出ることをきっかけに、人工透析治療を行う毛ケースが主である
  • 幹細胞治療では、3次元の細胞シートを機能を失った腎臓に直接貼り付けるという方法が実用化に近い段階である

腎臓の機能はいちど失われると、回復することがない場合が多いとされてきました。しかし、近年の研究で、腎臓の機能低下を防いだり遅らせることも期待期待されており実用化が期待されるレベルまで来ています。

本記事では、腎疾患の内容と、幹細胞治療について解説します!

目次

1. 腎臓の役割と構造

腎臓の役割は、身体の中を流れる体液恒常性の維持にあります。泌尿器系器官に分類され、血液からの老廃物のろ過、排出、水分の排出によって尿を生成することで、体液の恒常性を保つ機能を果たしています。

また、内分泌作用も持っており、レニンを分泌させることによってホルモン分泌を調節、その結果、血圧、尿量が調節されます。

血管拡張作用を持つプロスタグランジンの分泌作用も腎臓の役割です。血管、血液関係では、尿細管間質細胞はエリスロポエチンを分泌しており、この作用によって骨髄での赤血球の産生を誘導しています。さらに副甲状腺ホルモンによって血中カルシウム濃度をコントロールしています。

腎臓はその役割を担うために、輸入細動脈、輸出細動脈、尿細管周囲静脈、尿細管周囲毛細血管、そして腎動脈、腎静脈と、血管が複雑に通っています。構造の大部分を、糸球体(しきゅうたい)過のための機能が占め、栄養や、老廃物の交換に使われる部分はごくわずかです。

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糸球体とは、腎臓の皮質に存在し、たくさんの細小血管が集まって糸を丸めて球状にしたような器官です。腎臓のろ過機能をつかさどり、1個の腎臓に約100万個存在します。

ヒトの腎臓は2個、1対をなしており、1つが失われても健康であれば大きな問題はありません。腎臓1個あたりに100万個程度の腎小体と尿細管からなるネフロンがあります。

 

2. 腎臓の疾患

体液恒常性の維持のために重要な役割を果たす腎臓が疾患になると、身体全体に深刻な影響が及びます。例えば、腎臓の疾患で尿細管にダメージが与えられると、エリスロポエチンの分泌に障害が出るために、赤血球の産生誘導がスムーズにいかずに貧血になるケースがあります。

腎臓疾患は、病変で分類されています。まず、ネフローゼという症状を示す疾患を挙げます。

ネフローゼとは、本来尿中には出てこないアルブミンが尿と共に排出されてしまう症状です。これによって血中アルブミン濃度が低下し、浮腫が出る、薬物を投与されたときにアルブミン量が少ないために遊離型薬物が増加するという弊害が出ます。

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アルブミンとは、主に肝臓で作られるたんぱく質です。主にカルシウムや亜鉛、銅、ステロイドホルモンなどと結合して物質の運搬役を果たします。

ネフローゼを示すものは、主に糸球体病変です。ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、糖尿病の合併症である、糖尿病性腎症もこのグループに入ります。

 

糸球体が原因となる疾患は、糸球体腎炎という分類もあります。感染後急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、慢性糸球体腎炎、IgA腎症が代表的な疾患です。

急速進行性糸球体腎炎は、基礎疾患として急性糸球体腎炎、紫斑病性腎炎、ウェゲナー肉芽腫があります。尿細管の病変による疾患は、黄疸出血性レプトスピラ症、尿細管性アシドーシスなどがあります。

その他、間質性病変、嚢胞性病変、全身性の病変など様々な疾患が腎臓疾患に分類されています。代表的な疾患としては、腎硬化症、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎炎、膠原病に伴う腎臓病変が挙げられます。

腎硬化症は、高血圧が長期間続いた結果の動脈硬化が原因です。腎臓は細い血管が張り巡らされているので、血管が硬化することにより血液が流れにくくなります。それに伴って、糸球体も硬化を始め、機能を失って腎不全となります。

溶連菌感染後急性糸球体腎炎は若年層から子供に多く見られます。溶連菌に感染後、数週間で症状が出ますが、安静にするなどの対処をすれば、自然な回復が見込めます。

IgA腎症は、日本人によく見られる腎臓疾患です。年齢を問わずに発症します。糸球体に免疫物質であるIgAが沈着し、炎症を引き起こします。自覚症状がほとんどなく、検査による発見しか期待できません。進行に伴い、腎臓機能は低下していきます。薬物による治療が中心で、ステロイド療法、アンジオテンシンレセプター拮抗薬などが使われます。

糖尿病性腎症は、糖尿病の合併症です。糖尿病の治療では、この腎臓疾患を防ぐことに重きが置かれます。糖尿病が原因の高血糖が長期にわたると、グルコースと細胞の物質の反応によって糸球体の毛細血管を構成する血管細胞が傷害を受けます。その結果、腎臓機能が低下し、人工透析のケースが多い疾患です。

糖尿病について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

膠原病による腎臓病変は、膠原病に分類される全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で起こります。このエリテマトーデスの合併症でループス腎炎と呼ばれる腎炎が起きます。重度の腎不全となり、人工透析を必要とするケースが多数あります。

 

一般的に、腎臓疾患は、「腎臓の機能の低下により、腎臓の働きに支障が出るもの」と言われます。これだけ多くの疾患を含むので、このような大きな括りで定義するしかありません。

さらに、腎臓疾患には急性のものと慢性のものがあります。急性の場合は、腎臓機能の回復の見込みがありますが、慢性の場合、失われた機能が回復する可能性は低いのが現状です。

腎臓疾患は、初期から中期にかけては無症状の場合が多く、自分で気づくケースはあまりありません。症状が出て、気づく状態になると病状はかなり進行しています。

腎臓疾患が重症となると、治療には腎移植のみが現在確立されている治療方法です。特に、慢性的な腎臓疾患は、気づいたときには重症化していることが多く、尿毒症の症状が出ることをきっかけに、人工透析治療を行う必要性が出てきます

3. 幹細胞を使った腎不全の治療

2000年代に入り、幹細胞を使った腎臓疾患の治療に向けて研究が行われるようになりました

急性腎臓疾患のモデルマウスに間葉系幹細胞の培養上清を投与したところ、腎臓機能の回復が見られたことから、幹細胞を使って腎臓の細胞を作り出す研究と並行して、幹細胞の分泌する物質の研究が進みました。

しかし、腎臓疾患の場合、患者の多くは糖尿病のような基礎疾患を持っていることが多く、臨床治験における効果は、患者による個人差が大きいことが特徴として認識されるようになりました。

腎臓内には幹細胞が存在するため、この幹細胞が腎臓再生の鍵になると思われていましたが、人工的に幹細胞を投与しても分化がうまくいかないことが多く、難易度の高さが問題となっていました。

急性の腎臓疾患では、組織が完全に修復されるため、この修復に腎臓内の幹細胞が有効と考えられてきました。これまで、自己骨髄間葉系幹細胞を使った治療などが試みられてきましたが、腎不全期まで進行した腎臓疾患には効果がないことがわかっています。

しかし、2010年代以降、細胞の培養技術の発展、3次元細胞培養塊の解析から、新たな技術が生まれ、期待できる治療方法の開発が進みつつあります。これまでは細胞を点滴などでそのまま投与していましたが、細胞を使って3次元の細胞シートを作製し、このシートを機能を失った腎臓に直接貼り付けるという方法が開発されました。この方法は、糖尿病の治療にも応用されており、実用化が近い段階まで研究が進んでいます。

一方、幹細胞の分泌物質に効果があるのではないかという結果ですが、幹細胞が分泌する再生促進因子と、免疫調整因子には、腎臓細胞の保護作用がある事が明らかになりました。この分泌物質は、保護作用を持つため、根治への効果は期待できませんが、重症化を防ぐことに関しては効果が期待されています。

さらに腎臓そのものを人工的に作ろうという研究も進んでいます。iPS細胞を使って、腎臓の各部位を構成する細胞を作り、それらを合わせることによって腎臓そのものを実験室レベルで作ることにはすでに成功しています。しかし、この腎臓の問題点は、外見、中の構造は腎臓と同じであっても、機能に問題があり、腎臓の機能を再現するにはいたっていないことです。

この研究は現在も進行中であり、幹細胞を使った機能解析、幹細胞分泌物質を使った腎臓保護、iPS細胞による腎臓再生の3つが幹細胞を使った腎臓疾患の治療として研究が進められています。

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