この記事の概要
  • 糖尿病患者は予備軍を含めると、1000万人から2000万人の患者がおり、糖尿病患者の数を考えると根本的な解決策として確立されている方法は未だない
  • 2型糖尿病の初期において有効な治療方法は、食事療法と運動療法で、それでコントロールできない場合、血糖降下薬の経口投与、インスリンなどの薬物を利用する治療に切り替える
  • 糖尿病の原因の1つがインスリンの欠乏であり、幹細胞治療によりインスリンを補う研究が現在進んでいます

日本でも患者が多く、生活習慣病とされる糖尿病ですが、それは2型糖尿病という糖尿病の一種です。

この記事では、糖尿病の種類や、現在の治療方法および、幹細胞治療について解説します。

1. 糖尿病とは

血糖値、ヘモグロビンA1c(HbAc1)が一定基準を超えた状態を糖尿病と呼びます。高血糖がこの疾患の特徴であり、高濃度のグルコースが、血管を構成する血管内皮細胞のタンパク質と糖化反応を起こし、微小血管を破壊していきます。

この血管破壊のために、糖尿病性神経症が、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症を引き起こします。最近では、アルツハイマー病なども合併症として起こる可能性が指摘されています。日本において糖尿病患者は増加の一途をたどっており、糖尿病予備軍(境界型糖尿病)を含めると1000万人から2000万人に及ぶと考えられており、糖尿病を発症した多くの患者が、重症化し、先に述べた合併症を併発してしまいます。

糖尿病の根本的な治療法確立は重要課題の1つであり、臓器移植を始めとして様々な治療方法が試されてきました。他者の膵臓の移植は効果があることが確認されていますが、臓器提供者の膵臓と患者の適合性、そして提供者の不足など、糖尿病患者の数を考えると根本的な解決策として確立されている方法は未だにありません

糖尿病にはいくつかのタイプがあります。1型糖尿病は、何らかの疾患、例えば自己免疫疾患などによってインスリンを分泌しているランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリンが欠乏することにより起こります。血糖を抑制する作用を持つインスリンが欠乏すると、血糖値を抑制することができず、高血糖になってしまいます。

2型糖尿病も症状はほぼ同じですが、2型の糖尿病の場合は生活習慣に原因があることが多いのが特徴です。2型糖尿病の要因は、遺伝的な体質、高カロリーな食事、運動不足などが原因です。膵臓の働きが弱くなるためにインスリンの分泌量が低下する、あるいは、肝臓、筋肉などの組織がインスリンの作用に対して鈍感、つまり感受性が低くなり、インスリンが分泌されても効果が出にくくなる、つまりインスリン抵抗性が原因です。

他に、妊娠糖尿病というものがあります。妊娠中は、妊娠中に増加するホルモン群(プロゲステロン、エストロゲン、胎盤性ラクトゲン)によって耐糖性が悪化する傾向があるためです。出産後にほとんどの場合は正常な血糖値に戻りますが、将来的に2型糖尿病のリスクを増大させます。

2. 糖尿病の治療

糖尿病は、内科的な保存的治療では治癒することはありません。そのため、治療の目的は、発症、悪化を防ぎ、患者の生活の質(QOL)の維持が目的です。移植治療などで寛解にいたる例もありますが、臓器移植の難易度を様々な点(ドナーの数、適合性など)考えるとよほど重症化しない限りは移植に頼ることはありません。

2型糖尿病の場合、初期において有効な治療方法は、食事療法と運動療法です。この2つの療法でコントロールできない場合、血糖降下薬の経口投与、インスリンなどの薬物を利用する治療に切り替えます。

糖尿病における合併症を発症すると、疾患の性質上進行が早かったり、重症化するリスクが高いことが考えられるので、治療では合併症を起こさない、という点にも注意が払われます。このように糖尿病の治療は、根治を目指す治療ではなく、悪化させない、合併症を起こさせない、という防御に主眼を置いた治療が主流です。

こうした状況のため、幹細胞を使った治療、再生医療で糖尿病の根治が目指せないかという考えは古くからありました。現在実用化にこぎ着け、一般化されている治療はありませんが、ここ10年の細胞培養技術の発達と、基礎データの蓄積によって状況が大きく変わりつつあります。

3. 幹細胞を使った糖尿病治療

1型糖尿病、2型糖尿病共に、インスリンの欠乏が原因の1つです。この欠乏の原因は、ランゲルハンス島のβ細胞が破壊される、または機能しなくなることです。となると、インスリンの合成、分泌はこのβ細胞しかできないため、インスリン欠乏を解消するにはインスリン自体を投与し続けるか、β細胞、またはβ細胞の代わりにインスリンを生産、分泌する細胞を移植すれば解決するのではないかというアイデアが出てくるのは自然な流れです。

β細胞に変わる細胞を幹細胞から作り出し、患者に移植するという治療方法確立のためには、幹細胞の安全性、細胞を準備するための効率などの基準作製(標準化)が必要です。また、移植後の患者の負担、リスクを減らすために、極力遺伝子操作は行わない、移植したときの身体への順応性を考えて開発しなければなりません。

2010年代に入り、国立研究開発法人である産業技術総合研究所(産総研)に附属している幹細胞工学研究センターでは、これらを考慮しながら、脳内にある神経幹細胞をつかってアルツハイマー、うつ病などの研究を行ってきています。その過程で、ヒト成体の神経幹細胞の分化制御因子群が膵臓の分化制御因子群と類似していることを見出しました。

もし自分の脳内の神経幹細胞を使ってインスリン産生細胞を分化させることができれば、移植による免疫反応を気にする必要はありません。しかし、脳内の神経幹細胞を採取するためには、脳外科の手術が必要です。そのため、内視鏡で採取が可能な鼻の一部、鼻腔の奥にある鼻嗅球から神経幹細胞を採取し、インスリン産生細胞に分化させる技術と、その治療効果について検討しました。

実験室レベルの実験では、インスリンを産生するために必要な遺伝子の発現が確認され、糖尿病のモデルラットに移植した結果、糖尿病の病態が改善されることが見出されました

インスリン産生細胞への分化メカニズムがこの研究によって解析されたことによって、徳島大学附属病院では自己由来脂肪幹細胞からインスリン産生細胞に分化させ、移植するという研究が現在進んでいます。脂肪幹細胞が使えると、採取がより容易になり、繰り返し作製と移植が可能になります。この研究は2018年にインスリン産生細胞作製培養方法が確立され、ロードマップでは2021年に医師主導治験(Phase I)、企業主導治験の導出を目標として進められています。

さらにこの後、細胞培養技術が発達し、実験室でヒトの身体の中と同じ3次元構造を持つ細胞塊を構築することが可能になりました。3次元の細胞塊にすることによって細胞はより身体の中の細胞に近い性質を持ちます。実際に、抗がん剤などの代謝メカニズムも、3次元の細胞塊を作ることによって新しいことがわかっています。

細胞群を立体化するというアイデアを基本として、β細胞に分化させた細胞をシート化し皮膚の下に移植するという研究も進んでいます。皮下のβ細胞シートはインスリンを産生し、そのインスリンは血液中に移行して効果を示す、というものです。

この研究は、糖尿病モデルマウスでは効果を示し、成功しています。現在は、人工膵臓をシート上で作り出し、マウスに移植することで効果が現れるかどうかに研究が推移しています。

細胞シートの効果を一過性のものではなく、長期にわたって効果を示すものに発展できれば、患者の負担が軽減できます。研究チームは、細胞シート上の細胞群が血中グルコースを検知し、自律的にインスリン分泌をコントロールできるまでに発展させることを目標としています。

現在、幹細胞を使った糖尿病治療は、「インスリンを産生、分泌できる細胞を作製して移植する」という方法がメインになっています。インスリンは体内のホルモンで唯一血糖値を下げることができるホルモンです。この機能が失われると、代替の方法を身体は持っていないので、糖尿病がなかなか根治できない疾患になっています。今後、幹細胞を使った細胞シートの移植、人工膵臓シートの移植で生活の質を低下させずに糖尿病と付き合う、または根治することが可能になると思われます。

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