1. エムズサイエンスが肌の老化に効果のあるスキンケア製品を発表
再生医療分野だけでなく、抗老化の分野でも注目されている幹細胞ですが、この幹細胞は万能ではありません。
やはり加齢と共に、その人の幹細胞は能力が衰えていき、特に分裂能力ははっきりとした衰えを示します。
こうした状態では、なかなか老化の動きを止めることは難しいのですが、株式会社エムズサイエンスはこの老化の動き、特にシミ・シワの改善を促すスキンケア製品の開発に成功したと発表しました。
この研究は、名古屋市立大学大学院医学研究科、統合解剖学分野 菊島健児博士、近畿大学産業理工学部生物環境化学科大貫宏一郎博士とエムズサイエンスが共同で行った研究です。
エムズサイエンスは、福岡市に拠点を置く企業ですが、地方の企業としては珍しい特徴があります。
創業者でもある代表取締役の山口真氏は熊本大学理学部物理学科卒、同じく代表取締役の山口直弥氏は佐賀大学大学院農学研究科応用生物科学専攻を修了、マネージャーとグループ会社の代表取締役を務める清原公貴氏は九州大学理学部科学科卒、チーフを務める清原瑛美氏は九州大学大学院理学府化学専攻卒です。
理系出身者が経営陣に多い企業はそれほど珍しくはありませんが、幹細胞関連の企業ですと、医歯薬系のメディカル方面出身者が入っているケースが多くなっています。
しかしエムズサイエンスは、理学、農学で固められており、おそらくは基礎科学系に非常に強い企業体制を取っていると予想されます。
そのためか、共同研究先を医学研究科、応用研究の評価が高い近畿大学を選んでいます。
基礎研究の知識をアカデミックに求める共同研究は数多くありますが、企業側が基礎に強いというのは非常に珍しいケースであり、今までの企業に無かった着眼点で開発が行えるのではないかと考えられます。
幹細胞で全てを解決しようとする製品開発は多くの企業が行っていますが、幹細胞だけでは解決しきれない問題を、幹細胞とは別方向、さらに幹細胞の機能をサポートする形で活性化することによって抗老化製品を作るというのは、今後のビジネスモデルになる可能性があります。
2. どのような研究結果を得たのか
研究結果をまとめると、シワ改善にはピーリングジェルを用いることで、肥厚、つまり蓄積されてしまった古い角質層を除去し、滑らかで均一な表面を露出させることが効果的であると同時に、抗炎症作用や抗酸化作用、保湿作用等を有する多くの天然由来生理活性物質が複合的に作用することで、肌のコンディションを整える効果のあることを示唆しています。
我々の皮膚はターンオーバーという作用によって常に新しく作り替えられています。
しかし、加齢とともに幹細胞の分裂能力が低下することでターンオーバーの周期は徐々に長くなってしまいます。
つまり、古い細胞が長期間肌に残ってしまうことになります。
その結果、皮膚表面に存在する古い角質層の肥厚につながり、この肥厚が、くすみや不均一な肌の原因となります。
また、古い角質層の蓄積がある肌には、化粧水や美容液が浸透しにくくなり、これらの効果を減衰させます。
そして角質細胞間の結合が弱くなることで保湿成分の減少や皮膚のバリア機能低下にもつながります。
この段階になると、分裂能力が衰えた幹細胞だけではリカバリーすることができません。
そのため、このような状況を解消するには古い角質をピーリングジェル等により除去する手法が効果があると研究グループは予想しました。
ただし、角質を除去する際には炎症を起こさないようにすることが重要です。
もし炎症が引き起こされてしまうと、衰え始めている幹細胞の能力低下がさらに進み、かえって老化の進行を早めてしまう可能性があります。
3. 成分を補充することによって自らがもつ細胞を活性化する
このような状況では、皮膚への処置はなるべく刺激の少ない方法を取る必要があります。
さらに、保湿成分である天然保湿因子(NMF)や角質層のバリア機能を担う細胞間脂質、栄養素等の健康な肌に必要となる成分を補いながら自分のもつ細胞の能力を上げていく処置が、その後も効果が長期間続くとされています。
エムズサイエンスがこの補給する成分として選んだのは、アラントイン、プラセンタエキスをはじめ、多種の天然由来成分です。
アラントインは、尿酸が酸化することによって生成します。
魚類はこのアラントインをアンモニアに分解して排泄することが知られており、どちらかというと代謝産物という認識が主ですが、皮膚においては細かい傷を修復する作用のあることがわかっています。
そしてプラセンタは、胎盤から抽出した物質の総称として使われています。
プラセンタを使った医薬品は、日本における処方箋医薬品としては、更年期障害・乳汁分泌障害への適用があるメルスモンと肝臓機能の改善に効果のあるラエンネックが流通しています。
さらに、経口食品としても、プラセンタ製品最古の栄養剤であるビタエックスが現在でも使われています。
化粧品においては、プラセンタは美白製品の成分として使われていましたが、今回の共同研究ではこの効果を統計解析を行って科学的に確固とした証明を行うことを目標に行われています。
すでにこれらの成分を含んだ薬用化粧品は販売されており、この商品を被験者の条件、さらにハーフフェイス法による対照実験の組み合わせを明確にした手法で解析を行い、効果があることを示しています。
例えば、試験品として用いた「マイルドクリアジェル」では、先ほどの有効成分アラントイン、プラセンタエキスの他に、精製水、濃グリセリン、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、テトラ 2-ヘキシルデカン酸アスコルビル、アンズ果汁、プルーン酵素分解物、ハトムギ油、ハイビスカス花発酵液、酵母エキス、ホエイ、アルピニアカツマダイ種子エキス、メマツヨイグサ抽出液、ビルベリー葉エキス、ユキノシタエキス、ノバラ油、コーヒーエキス、天然ビタミン E、コメ発酵液、グリチルリチン酸ジカリウム、セイヨウナシ果汁発酵液、サクラ葉抽出液、アーティチョークエキス、豆乳発酵液、ユズセラミド、N-ステアロイルジヒドロスフィンゴシン、N-ステアロイルフィトスフィンゴシン、アロエエキス(2)、加水分解ヒアルロン酸、加水分解コラーゲン末、加水分解シルク液、エタノール、ジプロピレングリコール、1, 3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、フェノキシエタノール、香料、つまり製品に入っている成分を全て明らかにして試験を行っています。
一般の方々には当然と思われる方が多いかも知れませんが、企業の行うこういう試験では、企業機密、特許の関係などの理由で成分が全て公開されないケースも見られます。
4. ハーフフェイス法の難しさ
そしてこの研究で行ったハーフフェイス法ですが、この方法で解析を行う最大の難点として、被験者が集まりにくいというものがあります。
顔の半分に効果があると思われる製品による処理、もう半分は対照実験として無処置(またはコントロールを処置)しますが、製品に効果があればあるほど処置した顔の部分とそうでない部分の差が明らかになってしまいます。
もし、シワの改善が見られるのであれば、改善されてシワが解消された顔の半分と、シワが解消されていない顔の半分の違いが際立ってしまうのです。
そのため、被験者には実験後の処置によって均等な顔の状態にすることを確約しなければならないのですが、この共同研究ではそこそこ多い被験者を集めており、もしかするとこういった状態のリカバリーにはエムズサイエンスは自信があるのではないかと予想できます。
今後、企業と大学・研究機関のこういった共同研究は増えてくると思われますが、科学的な手順をきちん踏んでいる研究が先行することによって、こういった基礎科学的な分野でも認められる試験が当たり前のように行われるかもしれません。
そういった意味では、経営陣に基礎科学系出身者を集めたエムズサイエンスがこういった統計解析を使った研究の先陣を切るということは今後のこの分野の発展に大きな役割を果たすと思われます。