重症再生不良性貧血の初期治療にPTCyを用いた代替ドナーからの骨髄移植

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重症再生不良貧血とは

重症再生不良貧血は、再生不良貧血が重症化した疾病です。

再生不良貧血は、血液中の血小板、赤血球、白血球の全てが減少してしまう疾病であり、この状態を汎血球減少症と呼んでいます。

ただし、全ての血球成分が必ずしも一様に減少するのではなく、重症度が低い場合は貧血と血小板減少のみが見られるケースもあります。

白血球に分類されるものには、好中球、リンパ球、単球がありますが、再生不良貧血で減少するのは主に好中球です。

好中球は身体を細菌感染から守る重要な役割を担っています。

 

再生不良貧血で減少する血球成分は、骨髄で作られています。

この疾病にかかると、骨髄組織の多くは脂肪に置き換えられており、血球が作られなくなります。

そのため、血球成分の不足から貧血症状、免疫に関与する血球成分の不足から感染・発熱、そして血小板の不足による出血が起こります。

 

原因は、骨髄中の幹細胞である造血幹細胞に何らかのトラブルがあることとされています。

造血幹細胞とは骨髄中にあって、赤血球、好中球、血小板の基になる細胞です。

赤血球、好中球、血小板は骨髄で成熟すると血液中に放出され、それぞれの寿命が尽きるまで、赤血球は約120日、好中球は半日、血小板は約10日、血液中に存在します。

そのため、ある程度のサイクルでこれらの血球成分は作られないと不足しますが、再生不良貧血では造血幹細胞のトラブルによって血球成分の補給ができなくなります。

 

初期治療について、新しい知見

再生不良貧血の治療法としては、免疫抑制療法、骨髄移植、タンパク同化ステロイド療法、支持療法があります。

代表的な免疫抑制療法と骨髄移植を見てみましょう。

 

免疫抑制療法とは、造血幹細胞を傷害しているリンパ球を抑えて造血を回復させる治療法です。抗胸腺細胞グロブリン(英語の頭文字をとってATGとも呼ばれています)とシクロスポリンという薬が使われます。

 

骨髄移植は、患者さんの骨髄細胞を他の人の正常な骨髄細胞と取り換える治療法です。HLAという白血球の型のあった兄弟姉妹あるいは骨髄バンクの骨髄提供者(ドナー)から骨髄細胞をもらい点滴します。最近では 臍帯血移植も行われています。

 

この疾病の治療方法において、新しい手法をDepartment of Oncology, The Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center at Johns Hopkinsのグループが開発し、「Alternative donor BMT with posttransplant cyclophosphamide as initial therapy for acquired severe aplastic anemia」というタイトルで論文を発表しました。

 

研究の詳細

重症再生不良性貧血に対する標準的治療としては、抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)、シクロスポリン(CsA)、エルトロンボパグ(EPAG)を用いた免疫抑制療法と同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)が挙げられます。

近年では、免疫抑制療法においてEPAGが導入されることによって治療成績が改善しています。

 

また、幹細胞を使ったallo-HSCTは、感染症や移植片対宿主病(GVHD)などの移植関連死亡のリスクがあり、初期治療として40歳未満で、HLA(ヒト白血球抗原)一致同胞ドナーがいる場合に行われています。

 

しかし、免疫抑制療法に効果のない場合に幹細胞移植、allo-HSCTを行うというアプローチも試みられています。

しかし、輸血を頻回に行うことによる抗HLA抗体などを産生するリスクや、CsAによる阻血性骨壊死、腎障害、感染症のリスクがあり、allo-HSCTに悪影響を及ぼす可能性があります。

また、免疫抑制療法により、クローナルエボリューションによって骨髄異形成症候群(MDS)などを発症し、幹細胞移植を行う際に影響を与えるケースも見られます。

 

近年、こういった影響に対処する方法が開発され、HLA一致同胞ドナーがいない場合の代替ドナーとして、移植後シクロフォスファミド(post-transplantation cyclophosphamidePTCy)を用いたHLA半合致血縁ドナーからの移植も行われつつあり、新しい治療方法で見つかる新たなトラブルを粘り強く解決するという方法で治療方法は進化しています。

 

このような背景の中、米ジョンズ・ホプキンス大学では、免疫抑制療法が不応の再生不良性貧血を対象に、ATG、フルダラビン、Cy、全身放射線照射(TBI)の前処置にPTCyを用いてHLA半合致血縁者間移植を実施しました。

 

具体的には、ATG、フルダラビン、Cy14.5mg/kg2日間)、TBI2Gyあるいは4Gy)から成る強度減弱前処置と、PTCy50mg/kg2日間)によるGVHD予防を用いたHLA半合致血縁者間骨髄移植を、重症再生不良性貧血に対する初期治療として用いる前向き第2相試験を、27例の対象に実施しています。

 

この臨床試験は、2年全生存率94%、急性GVHD発症率11%、慢性GVHD発症率8%という優れた結果を示し、この内容を今回の論文として発表しました。

この論文は重症再生不良性貧血に対する初期治療としてPTCyを用いたHLA半合致移植の成績を報告したものであり、臨床的に重要です。

 

対象の年齢は、3歳から65歳、そして診断から移植までの期間は12日から249日ので0他をまとめたもので、Grade2から4の急性GVHDの累積発症率は7 %100日経過時点)、そして慢性GVHD4 %2年経過時点)でした。

さらに生存率は、1年、2年、3年のいずれにおいても92 %です。

これらの結果から、この治療方法は多くの患者に移植の機会を提供でき、免疫抑制療法による副作用を回避できる可能性があると考えられます。

 

この研究はインパクトの強いもので、多くの医師、研究者がコメントをしており、ほとんどが好意的な内容となっています。

一方で、現段階でこの結果は単施設(ジョンス・ホプキンス大学のみ)での結果であり、今後、多施設での臨床試験による検証が必要と多くの研究者が指摘しています。

 

可能であれば、初期治療として行う幹細胞移植については、HLA一致同胞とHLA半合致血縁者間移植を比較する前向き臨床試験、あるいは、HLA半合致血縁者間移植と免疫抑制療法を比較する前向き臨床試験の実施が望まれています。

 

現行のガイドラインでは、40歳未満で、HLA一致同胞ドナーがいる場合は初期治療として幹細胞移植が推奨されていますが、今後、PTCyを用いたHLA半合致移植の有効性が証明されれば、ガイドラインの位置付けも変わる可能性があります。

 

再生不良貧血治療の今後

再生不良性貧血には生まれつき遺伝子の変異があって起こる場合とそうでない場合があります。

先天性、つまり生まれつき起こる再生不良性貧血は稀な疾病で、生まれつきではない後天性再生不良性貧血がほとんどです。

 

後天性再生不良性貧血のほとんどは特発性という「原因不明」とされる疾病で、予防がなかなか難しい疾病です。

後天性再生不良性貧血の場合、子孫への遺伝は証明されていません。

ただし、すべての病気の発症は生まれつきの体質と環境の影響を受けますので、この病気でも「なりやすさ」という体質は遺伝する可能性があります。

 

発症後早期に的確に治療された場合には、70%以上の患者が輸血不要となるまで改善します。

しかし劇症例では早期の骨髄移植が必要です。

そして一部の重症例や、発症後長期間を経過した患者さんは免疫抑制療法に反応しないため、定期的な赤血球・血小板輸血が必要になります。

治療によってある程度回復すれば、通常は普段通りの生活を送れますが、血球減少の程度によっては制約を受けることがあります。

 

現在は、治療方法の開発と、この疾病の原因探索が2本の柱として世界中で研究されています。

原因については、多くの要素が関与しているという報告もあり、予防する方法の開発は現時点ではかなり難しいと言わざるを得ません。

避けることができるリスクもありますが、そのリスクはすでに特定されているものであり、我々人間がまだ解明していないリスクに遭遇した時には予防のしようがありません。

そのため、治療方法をより確実に行うことが現時点で重要視されている疾病です。

今回の研究報告は、この流れに沿った非常に大きな知見であると言えるでしょう。

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