「デュオ」グループ会社が東京大学と共同開発の歯髄幹細胞エキスを配合したスキンケア「レインカ」発売

目次

1. 幹細胞培養における副産物

iPS細胞に代表される幹細胞を別の細胞に人工的に分化誘導する際には、培養ディッシュなどの培養器内に培養液を満たし、その中で細胞を培養します。

培養液には細胞の生育に必要な成分が含まれており、この培養液に成長因子が含まれている血清(主に仔牛の血清が使われます)、雑菌のコンタミネーションを防ぐ抗生物質を加えて細胞を培養します。

 

幹細胞はこの培養液から必要な物質を細胞内に取り入れて、細胞分裂、細胞分化をします。

一方で、幹細胞は培養液中に細胞内から物質群を分泌します。

分泌される物質は、細胞の老廃物だけでなく、周囲の細胞へシグナルを伝達する物質も含まれています。

このシグナル物質は、細胞間相互作用に必須のもので、生命科学の分野では盛んに研究されている物質です。

 

幹細胞が分泌する物質の中には、周囲の細胞の分裂増殖を促す物質が含まれており、この物質が最近注目されています。

幹細胞を培養している培養液は「培養上清」または「培養上清液」と呼ばれ、この上清に含まれている物質が、アンチエイジングなどの美容分野から注目されています。

 

細胞そのものを使った治療、研究はクリアしなければならない基準が比較的厳しいため、細胞を培養した培養液、その中に含まれている有用成分を使った医療を目指す企業、研究機関は多く、それらの研究によって効果が期待できる製品が最近になって多く発表されています。

ここで紹介するプレミア・ウェルネスサイエンス株式会社と東京大学の共同研究による製品もそういった製品の一つです。

 

この製品で使われている幹細胞は、間葉系幹細胞に分類されている歯髄幹細胞で、人体からの採取が非常に簡単です。

この歯髄幹細胞採取のためには、手術などの侵襲的な方法を使う必要がないため、失意幹細胞の提供者の体に大きな負担をかけずに採取できます。

 

その細胞を培養された培養上清中に、アンチエイジングに有用な成分が含まれていることが明らかとなり、それを活用したのが今回の製品になります。

2. 東大とプレミア・ウェルネスサイエンスの共同研究

この製品は、企業と大学、つまり産学の共同研究から産み出されました。

東京に本社を構えるプレミア・ウェルネスサイエンス株式会社は、東京大学医学部附属病院、口腔顎顔面外科・矯正歯科の星和人教授と、「間葉系幹細胞培養上清液の特性・安全性・有用性の解明」という研究テーマで共同研究を行っています。

この研究の目的は、間葉系幹細胞培養上清液の安全性・有用性を解明し、新規機能素材の開発と実用化を加速させるためのものです。

 

2014年に、再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器法が施行され、日本国内における再生医療実現化推進に向けた法整備が完了しました。

それまでは、細胞治療などは自由診療が多かったため、医師法の下で管理されており、院内製剤を使っていたために品質基準が明確ではありませんでした。

しかしこれらの法整備によって、一定の基準と規制に基づき、安全な治療を提供することが可能となったのです。

 

現在、細胞治療、再生医療は1種から3種に分類され、それぞれの基準で許可を得た医療機関で研究・治療が行われています。

この中で、細胞そのものを使う治療については、かなり厳しい規制が設けられており、製品開発には大きな研究・開発予算と、長い研究期間が必要です。

しかし、培養上清を使ったものであれば、細胞そのものの研究開発と比べて規制が厳しくありません。

 

そこでプレミア・ウェルネスサイエンスと東京大学は、適切な試験の探索と実施、結果解析とその解釈・考察を東京大学が請け負い、その成果に基づく実用製品の開発をプレミア・ウェルネスサイエンスが担うことで、最新の研究結果を応用した製品を開発しようと共同研究を立ち上げました。

 

研究の方向性は、歯髄幹細胞(間葉系幹細胞)培養上清液の分泌液中に存在する有効成分の同定、効果検証を行うことです。

そして幹細胞培養上清を用いた高品質なアンチエイジング製品を確立すると共に、幹細胞培養上清液の機序解明を目指す研究開発を推進します。

 

もともとプレミア・ウェルネスサイエンスは、グループ会社のシーズ発掘(R&I)、研究開発(R&D)、新事業開発(BD)の機能を強化かつ保管する目的で設立された会社です。

医学・薬学の研究者、研究期間と連携することによって、学が得意とする基礎研究をベースとして、実用化のための臨床試験、知的財産の創出、そして製品開発からの事業化を行うという循環をスムーズに行うことを大きな目的としており、その循環の中で新しい製品の発表にこぎ着けました。

 

さらに、原料メーカーとも提携することによって、原料開発の内製化を行い、原料を他社に供給する事業も行っているため、製品とその原料を他社供給できるという強い事業を育成しつつあります。

3. 今回発表された製品

今回発表された製品は、スキンケア商品でアンチエイジングに効果のある製品です。

来春をメドに、バラエティーショップ、ドラッグストアでの展開を計画しています。

この製品は、肌の再生のために、再生のための土台作りとして細胞の活性増加、そして古い肌成分の除去として、古く、かつ固くなった成分を肌から除去・分解、そして肌を再構築するために、減少したコラーゲンの産生と再構築を軸として作られています。

 

これらをケアする物質が幹細胞から分泌されていることが東京大学の研究で明らかとなり、培養上清成分を使って今回の製品が開発されました。

 

この製品は、2層式クレンジングバーム、泡状の洗顔料、化粧液と美容液のユニットを基礎ケア用製品とし、その後のスペシャルケア用に部分用シートマスクとしてパッキングされています。

 

メイクを落としながら肌の角質ケアとカーミングケアを行うことで肌に潤いを与え、培養上清からの有効成分を7%、そしてナイアシンアミドを含むビタミンブーストを配合することによって乾燥小ジワなども抑制します。

 

この製品でも見られるように、最近発表されるこういった幹細胞の副産物を使う製品は、一時期と比べると価格がかなり抑えられてきており、手に入れることが容易になりつつあります。

これは、各企業が開発競争に大学、研究機関のサポートを受けながら参加しているためです。

 

iPS細胞が発表され、ヒトの体以外からでも幹細胞が入手可能となったこと、そして歯髄幹細胞などの採取しやすい幹細胞が見つかったことで、研究コストが以前よりだいぶ抑えることができるようになり、多くの研究機関が幹細胞研究に参入しています。

 

さらに、iPS細胞発表直後に若手研究者、または大学院で研究していた若い世代が独立した研究者となり、学んだノウハウを使って様々なタイプの研究をこの10年で行ってきているため、日本国内に幹細胞を研究できる研究グループが増加したことも大きな原因としてあげられます。

4. 基礎研究の充実は経済を活性化させる

日本の研究支援体制は、基本的に「選択と集中」であり、政策決定者が理解しやすい研究テーマに支援が集中する傾向があります。

そのことによって多様性のある研究テーマが失われ、日本の研究力が低下し、統計データによってはすでに韓国にも抜かれているのが現状です。

 

その中で、今回のような企業が基礎研究を支援し、その結果生まれたものから自社の製品を開発するという「国から独立した形での研究開発」が盛んになりつつあります。

こうした形の研究は、資金力を持つ大企業が行うものでしたが、最近は中小企業であっても公的な研究機関に研究資金を支援し、その結果を使って事業を拡大する企業が増えています。

 

今回の製品発表は、培養上清を使った製品が発表された、ということだけでなく、日本の新しい研究形態が一つの成果を出したもの、ということもできます。

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