共同研究によるALSに対する特定臨床研究開始
株式会社U-Factor(本社:東京都江戸川区、代表取締役:井島英博、以下:U-Factor社)と、ひとのわメディカル(東京都千代田区、院長:瀬田康弘)は、2024年3月からALS(筋萎縮性側索硬化症)患者を対象にした特定臨床研究を共同で開始したと発表しました。
この研究の目的は、U-Factor社が開発した試験薬剤「U-Factor(R)液」というヒト乳歯由来歯髄幹細胞培養上清液のALSに対する投与を複数の医療機関で行い、その安全性と有効性を確認します。
株式会社U-Factorは、幹細胞を培養する時に生じる上ずみ液である「幹細胞培養上清液」を使って創薬研究を行っているスタートアップ企業です。
難治性疾患の再生医療を身近にすることを目標に研究を行っています。
ターゲットとなる難治性疾患は、脳梗塞後遺症、アルツハイマー型認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS: Amyotrophic Lateral Sclerosis)などです。
これらを治療できる再生医療方法の確立のために、新しい治療薬の開発を目指しています。
ひとのわメディカルは、幹細胞培養上清液を使った治療方法を積極的に推進している医療機関で、脳梗塞、脳出血後遺症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー型認知症を中心に診療を行っています。
乳歯由来歯髄幹細胞培養上清液とは?
乳歯由来歯髄幹細胞は、乳歯(永久歯が生え変わる前の子どもの歯)から取り出される歯髄中の幹細胞のことです。
これらの幹細胞は多能性を持ち、骨や軟骨、脂肪などの様々な細胞に分化する能力を持っています。
乳歯由来歯髄幹細胞は、再生医療や再生医学の分野で注目されており、将来的には、これらの幹細胞を用いて損傷した組織や臓器を修復する治療法が開発される可能性があります。
乳歯は成長に伴って自然に抜けますが、その抜けた乳歯の周囲には幹細胞が付着しています。
これが乳歯由来歯髄幹細胞と呼ばれる幹細胞であり、生体から採取される幹細胞の中では、生体に負担をかけずに採取できる幹細胞です。
この幹細胞を人工的に培養し、その培養液を回収したものが乳歯由来歯髄幹細胞培養上清液で、試験薬剤「U-Factor(R)液」はこの培養上清液をベースとしています。
今回の共同研究では、この「U-Factor(R)液」を筋萎縮性側索硬化症に用いた治療方法の確立を目指します。
筋萎縮性側索硬化症とは?
筋萎縮性側索硬化症は、中枢神経系の疾患であり、運動ニューロン(体を動かす神経細胞)が徐々に退行し、筋肉の弱点や萎縮を引き起こす神経変性疾患の一種です。
筋萎縮性側索硬化症は進行性であり、徐々に筋力低下、筋萎縮、筋肉のこわばり、そして最終的には呼吸筋の麻痺を引き起こします。
この疾患は通常、成人の中高年期に発症し、徐々に悪化していきます。
原因は完全には明らかではありませんが、遺伝的な要因や環境的な要因が関与している可能性があります。
現時点では、筋萎縮性側索硬化症の治療法は症状の緩和や生活の質の向上に焦点を当てたものが中心ですが、根本的な治療法や予防法はまだ確立されていません。
そのため、アンメットメディカルニーズ(未だに有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)の代表例とされています。
2014年頃には、ALSアイス・バケツ・チャレンジという運動(筋萎縮性側索硬化症の研究を支援するためにバケツに入った氷水を頭からかぶるか、筋萎縮性側索硬化症協会に寄付する運動)がSNSを中心に社会現象にもなった疾患です。
筋萎縮性側索硬化症の発生率は一般的に低く、人口当たりの発生率はおおよそ10万人あたり1~2人程度とされています。
世界中で筋萎縮性側索硬化症の患者数を正確に把握することは難しいため、患者数についての正確な統計は得られていません。
また、筋萎縮性側索硬化症の症状は個人差が大きく、早期に診断されることが難しいこともあり、患者数の推定にも影響を与えています。
しかし、筋萎縮性側索硬化症は重篤な疾患であり、患者とその家族にとって大きな負担をもたらすため、筋萎縮性側索硬化症の啓発活動や研究が世界中で行われています。
推定数としては、世界の筋萎縮性側索硬化症患者数は推計で約456,000人、日本国内では約10,000人と推定されており(一般社団法人 日本筋萎縮性側索硬化症協会より)、毎年1000人〜2,000人が新たに診断されています。
研究の流れと現在までの進行状況
本特定臨床研究の前段階として、ひとのわメディカルでU-Factor社の乳歯由来歯髄幹細胞培養上清液「U-Factor(R)液」の投与による後ろ向き研究が行われ、その安全性と有効性が良好な成績を収めています。
今回は、この特定臨床研究を計画し、開始することになりました。
株式会社U-Factorでは、幹細胞を培養する過程で得られる上澄み液を独自の技術を用いて精製を行い、純度の高い培養上清液をU-Factor(R)液 (登録番号:第6396893号)と名付けました。
幹細胞より分泌された大量のサイトカイン(生理活性作用をもつタンパク質)を含んでいることが確認されています。
この特定臨床研究は、実施計画番号jRCTs031230731、研究名称は「ALSに対する乳歯歯髄幹細胞培養上清液の投与による安全性と有効性の検討」としています。
研究期間は2024年3月25日から2025年12月31日を予定しており、対象患者は、ひとのわメディカルと他複数の医療機関の患者を対象に行います。
この研究と並行して、株式会社U-Factorは、事業内容として「U-Factor(R)液によるアルツハイマー型認知症などの難治性疾患を対象とした治療薬の製剤化」も目指しています。
こちらの研究は、国立研究開発法人産業技術総合研究所や慶應義塾大学医学部との共同研究開発を行っています。
アンメットメディカルニーズと再生医療
「アンメットメディカルニーズ」とは、医療や健康ケアの分野で、患者や地域社会の中で未だに十分に満たされていない医療ニーズや健康上の要求を指します。
これは、特定の地域や人口グループにおいて、適切な医療サービスや治療法が不足している状況を表現するために使われます。
アンメットメディカルニーズは、特に経済的に弱い人々や健康格差のある地域、少数派の集団などにおいて顕著に現れることがあります。
例えば、高齢者や障害を持つ人々が必要な医療や介護サービスを受けられない、あるいは適切な情報やサポートが不足している場合、そのニーズはアンメットと見なされます。
また、特定の医療分野や疾患において、新しい治療法や医療技術が開発されたにもかかわらず、それが広く普及していない場合も、アンメットメディカルニーズと考えることができます。
アンメットメディカルニーズと再生医療の関係は深いものがあります。
再生医療は、組織や臓器の再生や修復を目的とした技術の総称であり、慢性疾患や外傷によって損傷を受けた組織や臓器を再生することで健康を回復しようとする医療アプローチです。
この技術は、アンメットメディカルニーズを解消するための有望な手段と見なされています。
再生医療は、従来の医療技術が解決できないあるいは不十分な医療ニーズに対処するために開発されています。
例えば、心臓病や神経変性疾患、関節の損傷など、従来の治療法が有効ではない、または完全には治療できない状態に対して再生医療が応用されています。
アンメットメディカルニーズが特に顕著な分野において、再生医療の発展は大きな期待を集めています。例えば、筋萎縮性側索硬化症のような神経変性疾患や、心臓病、脳卒中などの治療法としての再生医療の研究が進んでいます。
再生医療の進展により、これらの難治性疾患に苦しむ患者たちの医療ニーズがより効果的に満たされることが期待されています。
今回の共同研究は、この状況を改善する研究となる可能性を持ち、大きな期待が寄せられています。