ドイツのAlife Foodsがアニマルフリー培養培地を用いて培養シュニッツェルを開発

目次

1. 幹細胞で食糧生産

ドイツのAlife Foodsという企業が、動物由来の成分を使わない培養方法でシュニッツェルを開発したという報道がされました。

一般的に細胞を培養するためには、Fetal Bovine Serum(FBS)、またはFetal Calf Serum(FCS)という血清を使います。

これは、ウシの胎児血清で、血清中には様々な成長因子、タンパク質、電解質、脂質、炭水化物、ホルモン、酵素などが含まれています。

しかし血清を得るためには、ウシの胎児を犠牲にしなければならないという問題があります。

血清をウシ胎児から採取すると、その胎児はその時点で生存することができなくなります。

通常、ウシ胎児1匹から採取した血清は、1つのロットとして販売されます。

血清中の成分割合には個体差があるため、研究者はこのロットサンプルをメーカーから手に入れ、細胞の培養テストを行います。

テストの結果が有効であった場合、そのロットを購入するわけです。

ロットテストのサンプルとしてメーカーから供給される血清は100ミリリットルほどですが、いざ購入となると、10リットル、20リットル単位で購入します。

つまり、個体差による実験結果への影響を避けるために、同じ個体から採取した血清をまとめて購入してしまうわけです。

Alife Foodsは、この動物由来の節制を使わずに、培養牛肉、小麦タンパク質、植物油と小麦粉を混ぜたバナード、メチルセルロースからシュニッツェルを開発することに成功しました。

培養牛肉のもとは、ウシの筋肉細胞から取り出した幹細胞から、分化が一段階進行した筋肉前駆細胞を作成します。

この筋肉前駆細胞を、動物由来成分を使わない培養培地で培養して分化を進め、培養牛肉を作っています。

2. 開発に参加している企業

シュニッツェルとは、オーストリアの肉料理で、ドイツ、オランダから東ヨーロッパの広い範囲、さらにイスラエル、トルコでも食べられているものです。

仔牛の肉を使ったカツレツで、北イタリアが起源で15世紀周辺にウィーンに伝わったとされています。

このシュニッツェルを培養牛肉で、なおかつ動物由来成分を使わない培地で開発に成功したAlife Foodsという企業はドイツに本拠を置いています。

設立は2019年で、社員数も多くないことから、おそらくはこの開発のために立ち上げられたベンチャー企業と考えられます。

中心となって開発しているのは、Steffen Sonnenberg博士です。

博士は、ギムナジウム(ドイツの中等教育校)を卒業後、Technische Universität Berlin(ベルリン工科大学)に入学し、有機化学を専攻して学位を取得しています。

その後、多くの食品関連会社のコンサルタント、マネージャーを経てAlife Foods社の運営を行っています。

開発は、このAlife Foods社のみで行われたのではなく、いくつかの企業が共同で行っています。

まず、ヨーロッパ最大の香辛料メーカーのFuchs Groupです。

この企業は、1952年に設立され、スパイスを始めとして、デリカテッセン製品、そして食品技術を柱としています。

細菌では、資源の持続可能な食糧生産を企業グループの大きな目標としており、今回のシュニッツェル開発はその一環と考えられます。

そして、アメリカの企業である、Lab Farm Foodsが参加しています。

この企業は、「動物への負担を最小限にする」、「持続可能な方法で本物の肉を生産する」を柱とする企業です。

幹細胞などを使って作成する細胞ベースの肉を、従来の動物性タンパク質、または代替品としての植物由来タンパク質と組み合わせてハイブリット製品を開発することが大きな目的です。

Alife Foods、Fuchs Group、Lab Farm Foodsの3つの企業によって培養肉を使ったシュニッツェルが開発されているわけですが、この培養肉の開発は世界的に見てどのような状況なのでしょうか。

3. 開発が進む培養肉

培養肉の開発が始まったのは、2050年に世界の人口が約100億人となるという予測から、このままでは必要な食糧を供給できないのではないかという危機感からです。

先進各国では少子化に悩む国が少なくないのですが、世界的に見ると今後も人口増加が進むと予測されています。

食肉の消費量は、現在の1.8倍から2.2倍に増加すると見られ、動物性タンパク質の確保が問題となっています。

その顕著な例として、中国人の食生活の変化が挙げられます。

中国人の食生活は21世紀に入って大きく変化し、それまでとは比べものにならないくらいの魚を消費するようになりました。

そのため、中国漁船による乱獲が起こり、日本周辺の海域でも問題となっています。

実際、日本では20世紀末までは手軽に手に入った魚介類のいくつかが漁獲量の激変から高値をつけるという現象が起きています。

2050年までには、こういった現象が世界各地で見られるだろうという予測は各機関で行われており、工場で生産が可能な培養肉が注目されています。

作製方法は、牛などの動物から取りだした細胞が原料で、細胞を採取された動物を殺す必要がありません

2013年にオランダの研究者が世界で初めて培養した肉でハンバーガーを作ることに成功して以来、世界中で培養肉への投資、そして研究が進んでいます。

現在の食糧生産システムですと、牛肉1キログラムを作るためには、トウモロコシ25キログラム、水が2万リットル必要と算出されています。

さらに、食肉にするための牛を放牧する広大な放牧地が必要です。

そして、書肉生産のためには大量の家畜を飼育する必要がありますが、これらの家畜の糞尿から排出されるメタンガスの量は、地球温暖化においては無視できない量になっています。

これらは、世界人口がそれほど多くない時点では大きな問題として認識されていませんでした。

また、先進国と後進国の差が大きく、先進国の間では「後進国への食糧援助は、生命の維持に必要なものでよい」という考えがありました。

しかし、そうした後進国が成長し始め、食生活の多様性も出てくるようになると、先進国の国民が食べていた食材が後進国であった国にも流れ、その結果食糧の増産が必要となります。

そしてフードロスの問題も、培養肉の開発を加速させる要因となっています。

年間で廃棄される食肉量は、ウシに換算すると約7500万頭分と予測されており、倫理的な問題として世界に認識されています。

また、食肉の安全性も培養肉によって解決されると考えられています。

培養肉は、工場で衛生管理をしながら作られますが、基本的には無菌状態で生産されると考えてよいでしょう。

そのため、製品が消費者の手に渡るまでの間、培養肉が無菌状態に保たれるという状況は簡単に作り出すことができます。

一方で、畜産で食肉を生産する場合は、家畜への感染症などのリスクを考え、家畜に抗生物質を投与して飼育するというケースが多々見られます。

しかし、抗生物質を使う場合は、常にその抗生物質に耐性を持つ細菌などの出現リスクを考えなければなりません。

さらに、抗生物質を投与されたウシなどの肉を食用にするということについて、食べた人間の健康被害が無いと言い切れるのかどうか、といった議論も行われています。

そういった状況ならば、いっそ無菌状態で生産する培養肉の方が消費者の健康に影響を与えないのではないか、という意見も出ています。

4. 食糧生産の大きな変革が求められている

これまで、化学肥料の発明など、人間の食糧開発の歴史においては、いくつもの革命的な出来事がありました。

この培養肉は、おそらく次の大きな変革の主役になることが予想されています。

以前の技術であれば、人工的に食肉を作るということは、大きな設備と多額のコストがかかるものでしたが、iPS細胞などの幹細胞研究が進歩した結果、実際に幹細胞から食肉を作ることはそれほど難しいことではなくなりつつあります。

今後は、徐々に培養肉を生産する際の安全基準などのラインをどこに引くか、についての議論が盛んになっていくと考えられます。

そのために、Alife Foodsのような企業は、今後開発の軸を「より低コストで安全に生産できる技術開発」にシフトしていくと考えられます。

以前、遺伝子組み換え食品が出回ったときに、以外と消費者からの批判が多かったことがありました。

おそらく、その反省から、消費者が受け容れやすい環境を、これらの企業が整えていくものと思われます。

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