再生不良性貧血に対する幹細胞治療の最新研究

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再生不良性貧血とは、血液をつくる力が弱くなる病気

再生不良性貧血は、骨髄で血液をつくる力が低下し、赤血球、白血球、血小板がいずれも減少する病気です。この状態は汎血球減少と呼ばれ、貧血による息切れや動悸、白血球減少による感染症、血小板減少による出血しやすさなどにつながります。難病情報センターでは、骨髄組織が脂肪に置き換わり、血球が十分につくられなくなる病気として説明されています。

原因は一つではありません。免疫担当細胞が造血幹細胞を攻撃することで血球産生が抑えられるケースが多いと考えられていますが、遺伝子異常、テロメア関連遺伝子の変化、PNHやMDSとの関連など、複数の背景が関わることもあります。診療の参照ガイドでも、免疫学的機序による造血抑制やクローン性造血の存在が整理されています。

患者数は、令和6年度末時点の特定医療費受給者証所持者数で8,491人です。罹患率には10〜20歳代と70〜80歳代の二つのピークがあり、若年層から高齢者まで幅広い年代で発症します。治療方針は年齢、重症度、HLA適合同胞ドナーの有無、感染症の状態などによって変わるため、個々の患者さんに合わせた判断が重要です。

標準治療は、血球を支えながら造血の回復を目指す

再生不良性貧血の標準治療は、支持療法、免疫抑制療法、造血を促す薬物療法、同種造血幹細胞移植を組み合わせて考えます。支持療法では、貧血や血小板減少が強い場合に赤血球輸血や血小板輸血を行い、感染症が疑われる場合には抗菌薬などで対応します。ただし輸血は、未知の感染症、血小板輸血不応、移植時の拒絶リスクを高める可能性があるため、必要最小限にとどめることが望ましいとされています。

免疫抑制療法では、抗胸腺細胞グロブリン、シクロスポリン、エルトロンボパグを組み合わせる治療が重要です。ATGは異常な免疫反応を抑え、CsAはT細胞の働きを抑えます。EPAGはトロンボポエチン受容体作動薬で、造血幹細胞に働きかけて血球回復を助ける薬です。

治療成績も蓄積されています。参照ガイドでは、ATG・CsA・EPAG併用療法により、NIHの検討で部分奏効以上が87%に得られたとされています。またRACE試験では、EPAG併用群のほうが3か月時点の完全奏効率、6か月時点の全奏効率で良好でした。重症例では、年齢やドナー条件によって同種造血幹細胞移植も検討されます。

それでも残る課題は、再発と治療に伴う負担にある

現在の治療は進歩していますが、再生不良性貧血にはまだ課題があります。免疫抑制療法が効くまでには時間がかかり、その間は感染症や出血への注意が必要です。ATG・CsA療法では、約50%が輸血不要となり、長期生存も期待できるとされていますが、すべての患者さんが十分に反応するわけではありません。

ATG治療後はリンパ球が減るため、真菌、ニューモシスチス、結核、帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルスなどの感染症が問題になります。特にウサギATGは免疫抑制作用が強く、治療後の免疫不全が深く、長く続くことがあるとされています。感染の徴候を早く見つけ、必要な治療につなげることが重要です。

また、TPO受容体作動薬では造血回復が期待される一方、染色体異常の確認が必要とされます。参照ガイドでは、EPAGまたはROMI開始後、3〜6か月を目安に骨髄検査を行い、染色体異常の有無を確認することが勧められています。こうした背景から、より安全で、より確実に造血を支えられる新しい治療法の研究が続けられています。

幹細胞治療が注目される理由は、造血の土台に直接関わるから

再生不良性貧血は、造血幹細胞が減少し、血液をつくる仕組みが弱くなる病気です。そのため、幹細胞治療という言葉が非常に近い領域にあります。すでに標準治療として行われている同種造血幹細胞移植は、健康なドナーの造血幹細胞を移植し、血液をつくる力を立て直す治療です。日本造血・免疫細胞療法学会のガイドラインでも、重症再生不良性貧血は同種造血幹細胞移植の良い適応の一つとされています。

一方で、近年研究されているのは、造血幹細胞そのものだけではありません。骨髄の中で造血幹細胞を支える間葉系幹細胞や、MSCが放出する細胞外小胞にも注目が集まっています。骨髄の環境は「造血ニッチ」と呼ばれ、血球をつくる細胞が働くための土台です。この土台が乱れると、造血幹細胞の増殖や生存にも影響すると考えられています。

ここで重要になるのが、mRNAとmiRNAです。mRNAは、タンパク質を作るための設計図の役割を持つ分子です。miRNAは、そのmRNAの働きを調整する小さなRNAです。2024年のScientific Reports論文では、再生不良性貧血患者の骨髄MSC由来細胞外小胞に含まれるmiRNAが、造血幹前駆細胞の増殖やアポトーシスに関わる遺伝子経路へ影響する可能性が示されています。

mRNAレベルでは、miRNAと造血幹細胞の会話が研究されている

再生不良性貧血におけるmRNA研究では、MSC由来細胞外小胞に含まれるmiRNAと、造血幹前駆細胞側のmRNAとの関係が重要なテーマです。Scientific Reportsの研究では、再生不良性貧血患者由来の骨髄MSC細胞外小胞でmiRNA発現が変化し、IGF-1R、IGF2R、PAK1、PTPN1などの造血幹前駆細胞関連遺伝子が標的として解析されました。これらは、MAPK、PI3K-Akt、mTORなど、細胞増殖や生存に関わる経路と関連するとされています。

特にmiR-139-5pとIGF-1Rの関係が注目されています。同研究では、miR-139-5pを抑制した再生不良性貧血患者由来MSCと共培養した造血幹前駆細胞で、IGF-1R発現が上がり、TP53発現が下がることが示されました。さらに、miR-139-5pを造血幹前駆細胞に過剰発現させると、増殖が抑えられ、アポトーシスが増えることも報告されています。

これは、MSC由来の小胞が単に栄養を届けるのではなく、miRNAとmRNAの調整を通じて、造血幹前駆細胞の運命に影響する可能性を示しています。ただし、これは治療効果を患者さんで確認したものではありません。現時点では、病態を理解するための基礎・前臨床研究として捉える必要があります。

国内外の臨床研究は、移植の改良とMSC併用を中心に進む

ClinicalTrials.govでは、再生不良性貧血に対する幹細胞関連研究として、骨髄由来MSCの静脈投与、代替ドナー造血幹細胞移植へのMSC併用、自己脂肪由来MSCと造血幹細胞の投与、改変同種造血幹細胞移植レジメンなどが確認できます。NCT01305694は再発・難治性再生不良性貧血に対する骨髄由来MSC投与、NCT02247973は代替ドナー移植にMSCを併用する第II相試験です。

MSC併用移植の研究では、生着を助け、移植片対宿主病を抑える可能性が検討されています。多施設第II相試験の中間報告では、ハプロ一致造血幹細胞移植に骨髄由来MSCを併用する治療が検討されました。ただし、研究デザインや対象患者、追跡期間に限界があり、MSC併用を標準治療として一般化するには、さらに検証が必要です。

一方、米国では2025年12月、Omisirgeが重症再生不良性貧血に対する細胞療法としてFDAに承認されました。これはニコチンアミドで処理した臍帯血由来の同種造血前駆細胞製品で、6歳以上の重症再生不良性貧血患者に対し、低強度前処置後に用いられます。FDAは、効能評価集団14例中12例で早期かつ持続的な好中球生着が得られ、好中球回復までの中央値は11日だったと発表しています。

期待される効果と残された課題を分けて見る

再生不良性貧血に対する幹細胞治療で、すでに臨床的に重要な位置を占めるのは同種造血幹細胞移植です。これは失われた造血機能をドナー由来の造血幹細胞で補う治療であり、重症例では大きな選択肢になります。米国で承認されたOmisirgeも、臍帯血由来の造血前駆細胞を改良し、好中球回復の遅れという臍帯血移植の課題を補う方向の治療です。

一方、MSCやMSC由来細胞外小胞は、造血環境を支える新しい研究領域です。MSCが造血ニッチを整えたり、miRNAを含む小胞を介して造血幹前駆細胞のmRNA発現を調整したりする可能性は、基礎研究として重要です。しかし、患者さんに投与した場合の有効性、安全性、適切な細胞の由来、投与量、投与時期については、まだ標準化されていません。

また、幹細胞関連治療は効果だけでなくリスクも考える必要があります。同種移植では感染症、拒絶、GVHDなどの管理が必要です。MSC治療や細胞外小胞治療についても、品質管理、作用機序、長期安全性を確認する必要があります。本記事で紹介する幹細胞治療の多くは現在研究段階にあり、すべての患者さんに同様の効果が確認されているわけではありません。実際の治療選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。

未来展望は、移植医療と造血ニッチ研究の融合にある

再生不良性貧血の治療は、支持療法、免疫抑制療法、TPO受容体作動薬、同種造血幹細胞移植の進歩によって大きく変わってきました。今後は、どの患者さんに免疫抑制療法を選ぶのか、どの時点で移植を考えるのか、どのようなドナーソースを使うのかを、より精密に判断する時代に進むと考えられます。

幹細胞治療の未来は、単に細胞を補うだけではありません。造血幹細胞が働く骨髄環境をどう整えるか、MSCの働きをどう評価するか、細胞外小胞に含まれるmiRNAやmRNA制御をどのように治療へつなげるかが重要になります。miR-139-5pやIGF-1Rのような分子経路は、造血不全の仕組みを理解する手がかりになる可能性があります。

患者さんにとって大切なのは、希望を持ちながらも、未確立の治療を過大評価しないことです。国内で標準治療として利用できる治療と、海外で承認された治療、研究段階の治療は分けて考える必要があります。まずは主治医と現在の病状、重症度、治療歴、移植適応を整理し、信頼できる情報をもとに今後の選択肢を考えることが大切です。


[出典]

難病情報センター:再生不良性貧血(指定難病60)
厚生労働省:令和8年4月時点の指定難病一覧
難病情報センター:令和6年度末 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数
特発性造血障害に関する調査研究班:再生不良性貧血 診療の参照ガイド 令和4年度改訂版
日本造血・免疫細胞療法学会:再生不良性貧血(成人)移植ガイドライン
ClinicalTrials.gov:NCT01305694、NCT02247973、NCT02407470、NCT06378060
FDA:Omisirge承認情報、添付文書
Srivastava J et al. Scientific Reports. 2024. DOI: 10.1038/s41598-024-70369-8
Wang S et al. Stem Cell Research & Therapy. 2023
Iftikhar R et al. Evidence-Based Guidelines From the American Society for Transplantation and Cellular Therapy. 2024

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