B細胞とは
大細胞型B細胞リンパ腫はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL: Diffuse large B-cell lymphoma,not otherwise specified)と呼ばれる免疫細胞の1つであるB細胞のがんです。
B細胞は血液中に存在する細胞です。
血液は、血球と呼ばれる細胞を中心とした成分と、血漿という液体成分から構成されています。
血球成分には、赤血球、白血球、血小板の割合が多くなっています。
このうち、白血球は数種類の細胞から構成される細胞群で、B細胞はこの白血球に分類されます。
B細胞を含む白血球は、主に免疫の機能を担っており、身体の中に細菌、ウイルスなどの異物が侵入した際に、これらの異物を攻撃するとされています。
B細胞はその白血球の細胞群の中で、やや特殊な役割を持っています。
B細胞など、白血球に分類される細胞は、造血幹細胞から分化しますが、B細胞はさらに分化が進みます。
異物が侵入すると、その異物の情報は体内に記憶され、次に侵入したときには前に侵入したときの情報を使って抗体を産生します。
この抗体を産生するのがB細胞から分化した形質細胞です。
そしてB細胞の一部は、記憶細胞として侵入した異物の情報を保持し続け、次の侵入に備えます。
つまり、B細胞は抗体の産生と、免疫記憶という役割を持っています。
大細胞型B細胞リンパ腫とは
大細胞型B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)は、血液中を巡るB細胞のがんであり、B細胞がびまん性に増殖して拡がります。
びまん性とは、組織全体に拡がる状態を表す言葉です。
大細胞型B細胞リンパ腫は病気の進行が月単位で進むという中悪性度のリンパ腫です。
B細胞は血液中に存在するため、血管、リンパ管を通って全身を巡っているため、全身の様々な臓器から発症します。
リンパ節で発生するケースが約6割、そしてリンパ節以外から発症するケースが約4割です。
リンパ節以外から発症した場合、これを節外病変と呼びます。
リンパ節以外で発症する場合は胃などの消化管が最も多く、次いで骨、左右の肺の間である縦隔、精巣、脳・脊髄などの中枢神経系、皮膚など多岐にわたります。
がん化したB細胞は一般的ながん細胞と同様に異常な増殖をします。
B細胞は毎日作られていますが、B細胞総数が一定の範囲内になるように調節されています。
しかしB細胞ががん化すると、以上増殖するだけでなく、本来のB細胞の機能を果たさなくなります。
そのため、がん細胞がかたまりとなり、リンパ節の腫れ、発生した臓器の機能障害、免疫機能の異常が見られるようになります。
それが全身に影響し、症状が広く見られるようになります。
まず首や腋の下、足の付け根など病変がある所に腫れがあらわれます。
この段階では痛みが伴いません。
これが進行すると、発熱、体重の減少、大量の寝汗という「B症状」とよばれる症状があらわれます。
そしてこの腫れが大きくなり、尿管、静脈、脊髄などの臓器が圧迫され、尿管がせき止められて腎臓に尿が溜まってしまう「水腎症」、むくみ、麻痺などの症状があらわれます。
さらに進行すると、全身の臓器に入り込むケースが見られます。
これを浸潤と呼びますが、大細胞型B細胞リンパ腫の場合は1割から3割が骨髄に浸潤します。
精巣で大細胞型B細胞リンパ腫が生じた場合は、脳や脊髄などの中枢神経に拡がることが知られています。
これまでのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療は、分子標的薬と複数の細胞傷害性抗がん薬を併用して行う薬物療法を中心に行われています。
分子標的薬とは、がん細胞の増殖を誘導するタンパク質などのがん細胞に有利に働く分子を阻害したり、がん細胞を攻撃する免疫に関与するタンパク質を活性化するなど、分子生物学レベルでがんに抵抗するための薬です。
細胞傷害性抗がん薬は、がん細胞の増殖の仕組みをターゲットとして、その増殖メカニズムの一部を抑制、阻害することでがん細胞を攻撃する薬です。
しかし、分子標的薬も細胞傷害性抗がん剤も、健康な細胞にも影響するために副作用が出てしまいます。
こういった薬物療法の後、放射線治療を行うケースもあります。
放射線治療は、がんが存在する部位、その周辺に対して直接行われる治療です。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の新しい治療方法
ブリストル・マイヤーズスクイプは、CD19を標的とするCAR-T細胞であるリソカブタゲン マラルユーセル(Liso-cel)について、自家造血幹細胞移植への適応の有無にかかわらず、再発、または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療としての承認を取得したと発表しました。
リソカブタゲン・マラルユーセルは、ブレヤンジととも呼ばれる細胞です。
CD19は正常なB細胞が発生するときに細胞の表面に発現し、B細胞が悪性化した後も発現が維持されます。
このCD19を標的として設計されたキメラ抗原体を利用し、キメラ抗原体遺伝子改変自家T細胞が作られており、これがブレランジ、そしてこの細胞を使う療法がキメラ抗原体遺伝子改変自家T細胞療法(CAR-T細胞療法)です。
標的はCD19ですが、4-1BB共刺激ドメインを持つことで、キメラ抗原体遺伝子改変自家T細胞、つまりブレランジが持続的に増殖して治療効果が期待できます。
この細胞が含まれる細胞製剤はこれまで、前治療歴が2つ以上の再発、難治性の大細胞型B細胞リンパ腫と、再発、難治性濾胞性リンパ腫で承認を取得しています。
ブリストル・マイヤーズスクイブは、1989年にブリストル・マイヤーズ(Bristol-Myers Company)とスクイブ(Squibb Corporation)が合併して設立されたアメリカの医薬品会社で、ニューヨークに本社を置いています。
主な拠点はアイルランドなどのおかれている会社で、抗生剤、抗腫瘍薬、HIV治療薬に有力な製品群を持っており、一般的には「バファリン」が広く知られています。
大細胞型B細胞リンパ腫は一次治療として抗がん剤などの化学免疫療法を行います。
このうち約60%は長期奏効が確認されていますが、残り約40%は一次治療に対して難治性であるか、再発が見られます。
さらに移植を行う可能性がある患者に対しては、二次治療の救援化学免疫療法と、続いて行われる造血幹細胞移植併用大量化学療法が必要となります。
しかし二次治療として救援化学免疫療法を受ける患者のほとんどは、一次治療に対して難治性、もしくは1年以内に再発しているため、長期的な治療効果を得ることが難しいとされています。
この治療方法を行う見込みがない場合、標準治療がないために新規治療方法の開発は極めて高いアンメットメディカルニーズが存在しています。
今回の承認が意味すること
今回の承認は、国際共同第3相JCAR017-BCM-003試験、海外第2相017006試験、国際共同第2相JCAR017-BCM-001試験のコホートを含む臨床試験を行い、その結果に基づいたものです。
JCAR017-BCM-003試験は、一次治療後に再発・難治性の自家造血幹細胞移植適応のアグレッシブB細胞非ホジキンリンパ腫患者を対象に、ブレヤンジを使った患者群と標準治療を行った患者群に振り分けて、有効性と安全性を比較検証しています。
この試験データでは、ブレヤンジ群は無イベント生存期間と無増悪生存期間の改善が統計学的に確認されました。
このブリストル・マイヤーズスクイブのブレヤンジは、自家造血幹細胞移植への適応の有無にかかわらず、再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療としての使用が認められた、ということになります。
さらにより早期にCAR-T細胞療法という新たな治療選択肢も加わるため、一次治療に難治性、または再発した患者が選べる状況になったことは、患者にとって大きな希望となりそうです。