ヒトiPS細胞から結石を溶かすマクロファージを作成 名古屋市立大など
尿の通り道である尿道に詰まって激痛をもたらす結石を溶かす免疫細胞のマクロファージを、ヒトの血液細胞より生成されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)からつくることに名古屋市立大学などのグループが成功しました。
この研究は四日市看護医療大学と行ったもので、Phagocytosis model of calcium oxalate monohydrate crystals generated using human induced pluripotent stem cellderived macrophages (日本語訳:ヒトiPS細胞由来マクロファージを用いたシュウ酸カルシウム一水和物結晶貪食モデルの作成)というタイトルで論文化されています。
現在、尿路結石の罹患率は増加傾向にあります。
対策として十分な水分摂取が上げられますが、それ以外の新たな予防策を開発することが緊急の課題となっています。
この研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、公益財団法人鈴木謙三記念医科学応用研究財団、公益財団法人豊秋奨学会、日本泌尿器科学会研究助成の支援を受けて行われた研究で、期待の大きさがうかがえます。
今回発表されたiPS細胞由来マクロファージを使用した新しいモデルの開発は、尿路結石の再発予防や溶解療法に向けた創薬研究において非常に重要とされています。
この研究アプローチにより、新しい治療薬の候補が同定された場合、iPS細胞由来マクロファージだけでなく、動物モデルや最終的にはヒトにおける治療効果の確認へと進むことが期待されます。
このプロセスは、尿路結石治療法の発展に新たな道を開く可能性を秘めています
尿路結石とは
尿路結石は、尿中の特定の成分が結晶化して固まることによって形成されます。
これらの成分は様々であり、以下のようなものがあります。
カルシウム結石: 尿中のカルシウム濃度が高まると、カルシウムが結晶化して結石を形成することがあります。
これは、食事や遺伝などの要因によって引き起こされる場合があります。
尿酸結石: 尿中の尿酸濃度が高いと、尿酸が結晶化して結石を形成することがあります。
これは、プリンを多く含む食事や、尿酸代謝の異常などが原因となることがあります。
シスチン結石: 尿中のシスチン濃度が高いと、シスチンが結晶化して結石を形成することがあります。
これは、シスチン尿症と呼ばれる遺伝性の代謝異常によって引き起こされることがあります。
ストルバイト結石: 尿中のマグネシウム、アンモニウム、リンの濃度が高いと、これらの成分が結晶化してストルバイト結石を形成することがあります。
これは、尿路感染症によって引き起こされることがあります。
これらの結石が形成される原因には、遺伝的要因、食事、水分摂取量、生活習慣、特定の疾患などが関与する可能性があります。結石が形成されやすい個人は、これらの要因に対して注意を払うことで予防することができます。
尿路結石は腎臓内で形成され、下降して尿管(尿の通り道)を詰まらせることにより、強烈な背部痛を引き起こす疾患で、結石に対して適切な治療が施されない場合、腎不全や尿路感染症を引き起こし、命にも危険を及ぼす可能性があります。
尿路結石の原因と日本の現状、そして治療方法は?
日本でも尿路結石は一般的な問題であり、その発生率は年々増加しています。
日本の尿路結石の主な原因や特徴についていくつかの点を挙げると以下のようになります。
食事習慣の変化: 近年、西洋化された食事習慣や高カロリー食品の摂取が増えています。
これにより、カルシウムや尿酸の摂取が増加し、尿路結石のリスクが高まる可能性があります。
水分摂取不足: 水分摂取が不足すると、尿中の溶解物質の濃度が上昇し、結石が形成されやすくなります。
日本人の中には、忙しい生活や仕事の関係で適切な水分摂取が難しいと感じる人も多いかもしれません。
遺伝的要因: 尿路結石は遺伝的な要因によっても引き起こされることがあります。
日本人の中にも、尿路結石にかかりやすい遺伝的な要因を持つ人がいます。
ストレス: 近年、ストレスが生活の一部となっており、ストレスが尿路結石の発生に寄与する可能性があります。
これらの要因により、日本でも尿路結石の発生が増加しています。予防のためには、バランスの取れた食事、適切な水分摂取、ストレス管理などの健康的な生活習慣の確立が重要です。また、定期的な医療検診も尿路結石の早期発見に役立ちます。。
さらに、その再発率は5年で50-60%と非常に高く、新たな予防薬や再発リスクを減少させる方法の開発が重要な課題です。
尿路結石の治療方法は、結石の大きさ、位置、および患者の症状の程度によって異なります。一般的な治療方法には、以下のようなものがあります。
自然排出待ち: 小さな結石や症状のない場合、医師は結石が自然に排出されるのを待つことを選択する場合があります。
これには、十分な水分摂取、痛み管理、および尿路拡張剤の使用が含まれます。
薬物療法: 特定の種類の尿路結石には、薬物療法が有効である場合があります。
尿酸結石の場合、尿酸排泄を増やすための薬物が処方されることがあります。
また、結石の形成を防ぐための特定の薬剤も使用されることがあります。
体外衝撃波結石破砕術: 体外衝撃波結石破砕術は、体外から高エネルギーの衝撃波を結石に向けて送り、結石を細かく砕く治療法です。
これにより、結石が小さくなり、排尿が容易になる場合があります。
内視鏡的結石除去術: 内視鏡的結石除去術は、尿道と尿管を介して内視鏡を挿入し、結石を直接確認して除去する方法です。
小さな結石や特定の場所にある結石を取り除くために使用されます。
手術: 大きな結石や尿路結石に関連する合併症がある場合、外科手術が必要となることがあります。
これには、腹腔鏡手術や開腹手術などが含まれます。
ただし、これらの方法は既に形成された結石を処理するものであり、次の結石ができるのを防ぐ効果はありません。
現在も、結石の再発を防ぐ最も効果的な方法は「十分な水分を摂取すること」であり、この予防法は約2000年前から変わっていません。
今回の研究の詳細
今回の研究のポイントを挙げます。
・マクロファージは尿路結石の溶解に関与しており、これを活用した予防および溶解療法の開発が可能であることが示唆されています。
・iPS細胞由来マクロファージを用いて結石を溶解する現象が、世界で初めて実証されました。
これは、尿路結石研究の新たな進展を示しています。
・この発見により、尿路結石に関する研究に新しい解析手法が加わり、結石の予防や溶解に有効な薬剤を見つけ出すための新たなモデルが提供されました。
これは、尿路結石治療の新しい道を開く可能性を持っています。
名古屋市立大学大学院医学研究科の岡田淳志准教授(腎・泌尿器科学分野)らは、2008年にマウスを使った研究で、「尿路結石が自然に消える」現象を世界で初めて確認し、この現象がマクロファージによる結石の溶解であることを明らかにしました。
続く研究で、特に炎症を抑制する役割を持つM2型マクロファージが結石の予防に有効であることを発見しています。
この発見は、マクロファージを対象とした新たな結石溶解治療法の開発に向けた一歩となりましたが、ヒト血液由来のマクロファージの利用には数の制限があります。
そこで、このたびの研究成果は、iPS細胞から生成された大量のマクロファージを用い、これらのiPS細胞由来マクロファージが結石を溶解する能力を持つことを、岡田朋記病院助教と岡田淳志准教授が共同執筆で報告したものです。
尿路結石を溶解する治療法の開発において、マクロファージを利用し、効果的な薬剤の探索が必要となりますが、ヒトの血液から得られるマクロファージの数には限界があります。
このポイントが創薬スクリーニングの大規模実施を妨げており、最近の研究では、様々な疾患に対する創薬スクリーニングにiPS細胞が活用されています。
この技術を尿路結石の治療法開発に応用し、iPS細胞由来マクロファージを使用した実験系を構築することで、効率的な創薬スクリーニングが可能になります。
今回の研究では、ヒトの血液細胞から生成されたiPS細胞を使い、複数段階のプロセスを経てマクロファージに分化させ、さらにこれらをM1マクロファージとM2マクロファージに分化させるという方法を採用しました。
この研究では、シュウ酸カルシウム一水和物という尿路結石成分とこれらのマクロファージを共培養し、マクロファージによる結石溶解現象を観察しました。
特にM2マクロファージは周囲の結晶を積極的に溶解し、M1マクロファージでは高い溶解率を示しました。
この成果は、iPS細胞由来のマクロファージが尿路結石を溶解する能力を持つことを示しています。
今後、結石を溶解する治療法の開発を目指す過程で、マクロファージが結石を溶解する能力を向上させる薬剤の開発に、この研究手法が主に用いられることになります。
患者が多い疾患ですので、ニーズは高く、各製薬会社は積極的に尿路結石の創薬に乗り出し、この研究手法が多く使われることが予想されます。