神戸医療産業都市推進機構とセレイドセラピューティクス、体外増幅ヒト造血幹細胞を利用した血管再生製品開発に関する共同研究契約を締結

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神戸医療産業都市推進機構とセレイドセラピューティクス血管再生製品開発に関する共同研究契約を締結

公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(理事長:本庶佑)とセレイドセラピューティクス株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役:荒川信行)が、血管再生製品開発に関する共同研究契約を締結しました。

 

この研究では先端医療研究センター脳循環代謝研究部の田口明彦部長の研究チームが発見した造血幹細胞によるギャップ結合(Connexin分子で形成される細胞間トンネル)を介したエネルギー源供与による血管新生メカニズムに基づいた製品開発を目標としています。

 

まず、セレイドセラピューティクス社の体外増幅ヒト造血幹細胞の血管新生機能について in vitro および in vivo(動物実験)での機能検証を行います。

そして、この研究を通じて、国産の技術・研究成果に基づくヒト造血幹細胞の血管再生治療への研究開発を進め、虚血性疾患(脳・心筋梗塞、小児脳性麻痺、虚血性下肢等)の治療方法を確立します。

 

神戸医療産業都市推進機構とセレイドセラピューティクスとは

神戸医療産業都市推進機構(Kobe Medical Industry Development Project Organization)は、神戸市において医療産業の振興を図るために設立された組織です。

この機構は、医療機関、製薬会社、バイオテクノロジー企業などを含む医療関連企業の誘致や、医療・介護のイノベーションを促進するための様々な取り組みを行います。

具体的には、研究開発の支援、産業との連携強化、国際交流の促進などがその主な活動です。神戸市が医療産業の拠点として発展するための重要な組織の一つとして位置付けられています。

 

神戸医療産業都市推進機構に関わる企業は、医療関連の様々な分野にわたります。

これには、医療機器メーカー、製薬会社、バイオテクノロジー企業、研究機関などが含まれます。具体的な企業としては、以下のようなものが挙げられます:

 

医療機器メーカー:メドトロニック、シーメンス・ヘルスケア、GEヘルスケアなど。

 

製薬会社:大手製薬企業の日本国内外の拠点や、バイオテクノロジー企業が関与しています。

例えば、武田薬品工業、アステラス製薬、ファイザーなどが挙げられます。

 

バイオテクノロジー企業:バイオベンチャーや研究開発企業も関わっています。

例えば、バイオベンチャーの中にはがん治療や遺伝子治療などの先進的な技術を開発している企業があります。

 

医療研究機関:大学や研究所も、医療産業都市推進機構と連携し、研究開発や人材育成などの活動を行っています。

 

これらの企業や機関は、神戸医療産業都市推進機構を通じて、地域や国際レベルでの連携やイノベーションの推進に貢献しています。

 

セレイドセラビューティクス株式会社(Celaid Therapeutics Inc.)は、202010月に設立された企業です。

 

本社は東京都文京区本郷の東京大学内に、そして神戸の国際医療開発センター内に神戸オフィスを構えています。

そして研究拠点は茨城県つくば市の筑波大学内に設置されています。

 

事業内容は、ヒト造血幹細胞を増殖させるための試薬開発、各種細胞の製造販売、ヒト造血幹細胞を活用した再生医療製品の開発、そして遺伝子治療などの次世代治療法の開発としています。

 

ヒト造血幹細胞とは?

ヒト造血幹細胞は、体内で血液細胞を生成するための未分化の細胞です。これらの幹細胞は自己更新能力を持ち、また異なる種類の成熟した血液細胞を生成する能力を持っています。その生成物は主に赤血球、白血球、血小板などです。

 

この過程は造血として知られており、通常は骨髄や脾臓などの造血器官で行われます。ヒトの体内には、幹細胞プールと呼ばれる、この種の未分化細胞が常に存在しています。これにより、体内の血液細胞の生産とバランスが維持されます。

 

ヒト造血幹細胞は、自己更新の能力を持つため、分化せずに自分自身を複製することができます。

そして、必要に応じて分化して異なる種類の血液細胞を生成します。

これにより、体が血液細胞の需要に応じて適切な量を生成することが可能となります。

 

臨床的には、ヒト造血幹細胞は骨髄移植や幹細胞療法などの治療法で重要な役割を果たします。

例えば、白血病や骨髄異形成症候群などの血液疾患の治療において、患者の異常な血液細胞を正常なヒト造血幹細胞で置き換えることが行われます。

 

血管新生のメカニズム

今回の研究では、血管新生メカニズムに基づいた製品開発が行われます。

 

血管新生(angiogenesis)は、新しい血管が形成されるプロセスを指します。

これは、生体内で重要な役割を果たす生理学的な現象であり、例えば組織修復や発育、女性の月経周期や妊娠などで起こります。

また、病理学的な状況下では、がんや炎症などの疾患においても重要な役割を果たします。

 

血管新生のメカニズムは多岐にわたりますが、主なプロセスには以下のようなものがあります。

 

血管内皮細胞の分裂と成長促進:新しい血管の形成は、既存の血管内皮細胞の増殖と成長から始まり、これによって既存の血管が拡張し、新しい血管形成の基盤ができます。

 

血管内皮細胞の移動と侵入:新しい血管を形成するために、血管内皮細胞が既存の組織や周囲の血管から移動し、新しい位置に侵入します。

 

 

血管周囲の細胞のサポート:血管新生を促進するために、周囲の組織や細胞が血管内皮細胞をサポートも重要な機能です。

これには、線維芽細胞、間葉細胞、および骨髄由来の細胞が含まれます。

 

血管新生因子の関与:血管新生は、血管新生因子(vascular endothelial growth factorsVEGF)などのシグナル分子によって調節されます。

これらの因子は、血管内皮細胞の増殖、移動、および血管形成の他の側面を調節します。

 

これらのメカニズムは、細胞間相互作用や細胞外マトリックスの変化など、さまざまな要因によって制御されます。

血管新生は正常な生理学的なプロセスである一方で、異常な血管新生はがんの増殖や転移、炎症性疾患などの病態生理に関与することが知られています。

 

血管新生と幹細胞の関係は?

血管新生と幹細胞の関係は密接です。

幹細胞は、血管新生のプロセスに複数の方法で関与しています。

 

血管内皮幹細胞(endothelial progenitor cells, EPCs: 血管内皮幹細胞は、血管内皮細胞(血管の内側を覆う細胞)の前駆細胞です。

これらの細胞は血管新生に重要な役割を果たし、新しい血管の形成や修復に参加します。EPCsは血管新生を促進する血管新生因子を分泌し、また既存の血管内皮細胞と共同して新しい血管を形成します。

 

造血幹細胞(hematopoietic stem cells, HSCs: 造血幹細胞は骨髄に存在し、血液細胞の生産を担当しています。

これらの幹細胞は血管新生のプロセスにも関与しており、例えば新しい血管の内皮細胞を供給するEPCsの前駆体として機能することがあります。

 

幹細胞が分泌する成長因子: 幹細胞は血管新生を促進する成長因子を分泌することがあります。

これらの成長因子は血管内皮細胞や周囲の組織に対して血管新生を誘導する役割を果たします。

 

幹細胞療法: 幹細胞療法は、幹細胞を利用して組織の再生や修復を行う治療法です。血管新生の観点からは、幹細胞療法が血管再生や血管障害の治療に応用されることがあります。

例えば、心臓病や脳卒中などの血管障害の治療において、幹細胞が血管新生を促進し、損傷した組織の修復を支援することが期待されています。

 

これらの要因から、幹細胞は血管新生の重要な調節要因であり、血管新生と幹細胞は相互に影響し合う関係にあります。

 

血管新生を利用した再生医療

血管新生を応用した再生医療は、様々な医療分野で活用されています。以下にその一部を挙げてみましょう。

 

最初に心臓病治療です。

心筋梗塞などの心臓疾患に対する治療では、血管新生を促進することが重要です。

幹細胞や成長因子を使用して、損傷した心臓組織の再生を促進する試みが行われています。

 

神経組織の再生や修復においても、血管新生が重要です。

脳卒中や脊髄損傷などの神経障害に対する治療法として、血管新生を促進する治療法が研究されています。

 

組織工学においては、血管新生を促進することで人工組織や臓器の移植が可能になります。

例えば、人工皮膚や人工臓器などがその一例です。

 

がん治療においては血管新生は非常に重要な位置を占めています。

腫瘍の成長や転移は、新しい血管の形成に依存しています。

がん治療では、血管新生を阻害することで腫瘍の成長を抑制する治療法が研究されています。

 

これらは一部の応用例ですが、血管新生を利用した再生医療は今後ますます重要性を増していくでしょう。

この共同研究は、こういった流れを加速する大きな研究になることが期待されています。

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