生体に近いヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞モデルで、ブルガリア菌とサーモフィラス菌による腸管バリア機能強化を確認

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生体に近いヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞モデルで細菌による腸管バリア機能強化を確認 

 

株式会社明治と名古屋市立大学大学院薬学研究科臨床薬学分野の松永民秀特任教授らの共同研究グループは、明治保有の発酵乳スターター乳酸菌「Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus 2038株、Streptococcus thermophilus 1131株」がヒト腸管のバリア機能を強化することを確認しました。 

 

この研究は、最新技術を活用した生体に近い小腸上皮細胞モデルである「ヒトiPS細胞由来二次元腸管オルガノイド」を用いて生理作用評価系を確立した実験系によって行われました。 

本研究成果は2024年3月28日31日に開催された日本薬学会第144年会にて発表されています。 

 

LactobacillusdelbrueckiiStreptococcus thermophilusはどんな細菌なのか? 

Lactobacillus delbrueckiiStreptococcus thermophilusは乳酸菌の一種で、ヒトの腸内細菌叢に存在する菌種です。 

 

Lactobacillus delbrueckiiは、乳製品の発酵に広く利用されています。 

この菌は、乳酸を生成することで食品の風味や保存性を向上させる役割を果たします。 

 

特徴は、形態はグラム陽性の桿菌で、連鎖状に配置されていることが多く、生育環境は嫌気性(酸素が非常に少ない、または全く存在しない環境)または微好気性の環境でよく繁殖します。 

最適な成長温度は約45°Cで、特に高温に強い種であることが特徴です。 

 

ヨーグルトやチーズの製造において重要な役割を担っており、例えば、ヨーグルトの製造には Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus がよく使用されます。 

ヒトの腸内においては、腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを整える効果があり、健康補助食品として利用されることもあります。 

 

Lactobacillus delbrueckii はいくつかの亜種に分類され、それぞれが特定の発酵食品の製造に適しています。代表的な亜種には以下が含まれます。 

Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus: ヨーグルトの製造に広く使われます。 

Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis: チーズの製造に用いられることが多く見られます。 

こういった事からヒトと密接に関わってきた最近と言えます。 

 

最近では腸内環境の改善が注目され、プロバイオティクスとして腸内の善玉菌を増やし、消化機能を助ける事がわかってきています。 

 

さらに食品保存の機能を持つ可能性も指摘されており、乳酸生成による酸性環境の形成により、病原菌や腐敗菌の増殖を抑制するという報告がされています。 

 

一方でStreptococcus thermophilusも乳製品の発酵に広く利用され、ヨーグルトやチーズの製造において重要な役割を果たします。 

以下は、この細菌に関するいくつかの主要なポイントです。 

 

特徴は、形態がグラム陽性の球菌であり、桿菌であったLactobacillus delbrueckiiとは形が大きく異なります。 

 

環境もLactobacillus delbrueckiiとは逆で、酸素が存在している好気性条件下でよく繁殖します。 

しかし嫌気性条件でも生育は可能ですが、増殖効率がやや低下します。 

 

主な用途としては、乳製品の発酵とプロバイオティクス、つまり健康補助食品として、腸内フローラのバランスを整える効果が期待されています。 

 

この菌の健康効果としては、腸内の善玉菌を増やし、消化機能を助ける腸内環境の改善、乳糖を分解する酵素を持つため、乳糖不耐症の人々がヨーグルトを摂取しやすくする効果、つまり乳糖不耐症の改善があります。 

 

腸内細菌叢とは? 

Lactobacillus delbrueckiiStreptococcus thermophilusはヒトの腸内、腸内細菌叢に存在しますが腸内細菌叢、また腸内フローラとも言われていますが、どのようなものなのでしょうか? 

 

腸内細菌叢または腸内フローラは、ヒトの消化管内に共生している微生物の総体を指します。 

これらの微生物には、細菌、真菌、ウイルス、原生動物などが含まれますが、特に腸内の細菌が重要な役割を果たしています。 

腸内細菌叢は、人間の健康に深く関与しており、その多様性とバランスが健康の維持に欠かせません。 

 

腸内細菌叢は、主にバクテロイデス門、フィルミクテス門、アクチノバクテリア門、プロテオバクテリア門の4つの大きな門の細菌から構成されています。 

 

バクテロイデス門はグラム陰性の嫌気性細菌が多く、腸内での多糖類の分解に関与します。 

フィルミクテス門はグラム陽性の細菌が多く、短鎖脂肪酸(SCFA)の生成に寄与します。 

アクチノバクテリア門はグラム陽性で、高GC含量の細菌が多く、ビフィズス菌が代表的です。 

プロテオバクテリア門はグラム陰性の細菌が多く、腸内では比較的少数派ですが、病原性を持つ種も含まれます。 

 

腸内細菌叢の役割は多岐にわたっており、我々の健康は腸内細菌叢抜きでは語ることができません。 

消化と代謝においては、食物繊維やデンプンなどの難消化性多糖類を分解し、短鎖脂肪酸(SCFA)などを生成、そして一部のビタミン(ビタミンK、ビタミンB群)の合成を助けます。 

 

免疫機能においても腸内細菌叢は重要な調節を担っています。 

まず、腸内細菌は免疫系の発達と機能維持に関与し、病原菌の侵入を防ぐバリアを形成します。 

そして病原菌の抑制を持っていますが、これは腸内の善玉菌が悪玉菌や病原菌の増殖を抑制するというメカニズムで我々の身体を守っています。 

 

そして脳を中心とする神経系への関与も明らかになっており、腸-脳軸(gut-brain axis)を介して、脳機能や気分に影響を与えることが示唆されています。 

 

腸内細菌叢のバランスが崩れると、以下のような健康問題が生じる可能性があります。 

まず、消化器疾患で、これは炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)などを含みます。 

 

ヒトの代謝にも関与している腸内細菌叢は、バランスが崩れるとヒト代謝系に悪影響を及ぼし、肥満、糖尿病、脂質異常症などをまねくことがあります。 

他にも、アレルギー、自己免疫疾患などの免疫関連疾患、うつ病、不安障害、自閉症スペクトラム障害などへの影響が示唆されています。 

 

腸内細菌叢の改善方法 

 

腸内細菌叢のバランスを保つ、またはバランスが崩れた腸内細菌叢を整える方法は、以下の方法が現在一般的とされています。 

 

まずは食事です。 

食事では、プレバイオティクスと呼ばれている腸内細菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を多く含む食品(野菜、果物、全粒穀物など)を摂取することが推奨されます。 

また、プロバイオティクスという分類で、乳酸菌やビフィズス菌を含む発酵食品(ヨーグルト、キムチ、味噌など)の摂取も推奨されます。 

 

それに加え、生活習慣も重要であり、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理が腸内環境の維持に重要です。 

 

一方で、感染症治療に使われる抗生物質については適正使用が求められます。 

抗生物質の投与は腸内細菌叢に影響を与え、投与された抗生物質によって腸内細菌叢の細菌が死ぬ、バランスが崩れることがあります。 

そのため、不必要な抗生物質の使用を避け、腸内細菌叢のバランスを保つことが重要です。 

 

研究と未来の展望 

腸内細菌叢の研究は急速に進展しており、メタゲノム解析やマイクロバイオーム解析の技術が発展しています。 

将来的には、腸内細菌叢をターゲットにした新しい治療法や予防法の開発が期待されています。例えば、個々人の腸内細菌叢のプロファイルに基づくパーソナライズド栄養やプロバイオティクスの提案などが現実のものとなるかもしれません。 

 

明治は、日本の食品企業として、腸内細菌叢の研究に積極的に取り組んでいます。 

近年では、iPS細胞技術との関わりも模索しており、これらの研究は健康や医療分野における新しい可能性を広げています。 

 

腸モデルの構築では、 iPS細胞を利用して、ヒトの腸のモデルを作成し、腸内細菌と宿主細胞との相互作用を詳細に研究します。 

このモデルにより、腸内細菌の影響をより正確に評価でき、プロバイオティクスの効果や新しい治療法の開発に役立ちます。 

 

そして疾患モデルの開発として、 iPS細胞から特定の疾患を持つ腸細胞を作成し、腸内細菌叢の変化が疾患に与える影響を調査します。 

これにより、腸内細菌叢のバランスが崩れることによる疾患メカニズムの解明が進みます。 

 

また、新薬の開発では、iPS細胞技術を用いて、腸内細菌叢と関連する疾患に対する新しい治療薬のスクリーニングと評価を行います。 

これにより、腸内環境を改善する新しい医薬品の開発が期待されます。 

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