切り札はiPS細胞・ニコンが医療に本腰

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光学系メーカーがiPS細胞産業に参入

ニコンは、理化学研究所発のバイオベンチャー、日本網膜研究所に5億円を出資しています。

日本網膜研究所はiPS細胞を用いた難治性網膜疾患の治療方法を開発中で、ニコンは同社の協力を得てiPS細胞による再生医療で必要な検査機器などを開発する予定です。

 

今から10年前に発表された中期経営計画で新事業のターゲットとしてニコンは医療と健康分野を考えています。

しかしニコンの現状は、細胞や組織を観察する生物顕微鏡など、製品は少ないため、売上高も200億円をややこえる程度にとどまっています。

さらにこっれらの製品群を含むインストルメンツカンパニーは5期連続で赤字であり、低迷が続いています。

 

この打開策として10年前にこの計画が発表されましたが、ニコンはこれまでiPS細胞を作製した山中伸弥教授が所属している京都大学iPS細胞研究所に、細胞培養から観察・記録までをオートメーション化した検査装置を納入した実績を持っています。

この装置の売り上げ規模は現時点では小さいのですが、今回の出資を通じて再生医療での事業拡大を狙っています。

 

精密機器メーカーのバイオ参入

精密機器メーカーはこれまで次々とバイオ産業に参入しています。

各社の状況を以下に挙げます。

 

ニコンの主な医療関連事業は先に述べたように顕微鏡が中心で、売り上げは約200億円、これは全社の売り上げのうち1.9%を占めています。

ニコンは日本の光学機器メーカーで、カメラ、デジタルカメラを主力商品とし、他には双眼鏡、望遠鏡、メガネ、測定機、測量機、光学素材、ソフトウェアを扱う大手メーカーで、三菱グループのメンバーです。

 

キャノンはカメラ、ビデオなどの映像機器、プリンタ、複写機などの事務機器、そしてデジタルマルチメディア機器や半導体、ディスプレイ製造装置を製造するメーカーです。

医療関連事業には、眼底カメラ、X線撮影装置、医療画像システム、超音波診断装置で参入しており、約500億円を売り上げています。

この売り上げは全社の売り上げの1.4%で、売上高はニコンをこえるものの、全社の売り上げにおける割合はニコンよりも少なくなっています。

 

オリンパスは、日本の光学機器、電子機器メーカーで、すでに医療事業、科学事業の分野に積極的に参入し、総売上の85%が医療、14%が科学となっています。

消化器内視鏡、外科内視鏡、ソニーと合弁で事業も展開しており、内視鏡の分野では世界シェアの75%を占め、医療用の光学機器、顕微鏡分野では世界最大手となっています。

売上高は3947億円で、バイオ事業、医療事業に参入している精密機器メーカーの中では最大の売り上げを誇っています。

 

コニカミノルタは、2003年に写真関連商品、コピー機などのオフィス製品を製造していたコニカとミノルタが経営統合で発足した企業です。

医療画像システム、X線撮影装置、レントゲンフィルム、超音波診断装置などで728億円を売り上げてます。

現時点では総売上の8.9%を医療関連事業が占めており、割合はやや少ないでのですが売上高自体はニコン、キャノンをこえています。

 

HOYAは、いくつかの部門から構成される企業です。

マスクブランクス・半導体素子製造用フォトマスクなどを扱う半導体部門、HDDプラッタなどのディスク部門、メガネ、コンタクトレンズなどのアイケア部門、眼科医療用の眼内レンズ、内視鏡などのメディカル部門、光学レンズなどの光学部門、情報システムなどのサービス部門、これらによって構成されており、メガネ部門の市場占有率は日本国内でトップクラスです。

半導体製造用のマスクブランクス、HDD用のガラス基板事業においては70%をこえる世界市場占有率を持ち、PENTAXブランドの消化器内視鏡、眼内レンズ、人工骨、整形インプラントで医療事業に参入しています。

医療事業での売上高は、全売り上げの11%を占める約400億円です。

 

富士フイルムは精密機器メーカーの生命科学、医療事業参入はかなり早い段階で行っています。

写真撮影のデジタル化による写真フィルム市場が縮小することを予想し、主力を医療事業にシフトするべく事業展開を行ってきました。

医療機器に加え、M&Aで医薬品事業も展開しています。

日本国内で実験試薬メーカーとしては大きな企業である和光純薬を傘下に収め、再生医療ベンチャーのジャパン・ティッシュ・エンジニアリングには44%出資しており、再生医療への参入も着々と進めています。

 

製品として、消化器内視鏡、医療画像システム、X線撮影装置、超音波診断装置、レントゲンフィルムで医療事業に参入しており、売り上げは約2400億円、全社の売り上げのうち11%が医療事業によって上げられています。

富士フイルムは生命科学、医療事業に参入したメーカーの中では最も野心的に事業を展開しています。

昔からカメラ、デジタルカメラ、X線写真、写真用フィルムなどの写真システム一式は日本国内でも有数のメーカーでした。

現在は医薬品、医療機器、化粧品、健康食品や高機能化学品の製造、販売、近年は医療用機器の製造受託に注力しており、多額の投資を行っています。

 

出遅れたニコンの巻き返し

ニコンは医療分野だけでなく、収益の多角化という面で出遅れています。

2012年度のデータでは、カメラ事業依存度が売り上げでは70%をこえており、営業利益は119%に達しています。

半導体露光装置、液晶露光装置でも収益を出していますが、世界トップのオランダASML社との差が大きく、業績変動が激しいために安定した収益源にすることができません。

 

ライバルであるキャノンが複合機、プリンタなどの事務機器で安定した収益減を持つのとは対照的な状況です。

スマートフォンの普及、そして大きな市場である中国経済の成長鈍化でニコンは大きな打撃を受けており、デジタルカメラの出荷数が2012年に前年比22%の落ち込みとなって、それ以来回復の徴候は見えていませんでした。

 

この状況から10年を経過し、ニコンは現在ヘルスケア事業部を立ち上げて医療事業へのさらなる参入を狙っています。

ライフサイエンスソリューション、アイケアソリューション、細胞受託生産ソリューションを3本の柱として、ライフサイエンスの積極的事業展開を行っています。

 

ライフサイエンスソリューションでは、生細胞、生きたままの細胞の動きをナノスケールで観察する超解像顕微鏡などを展開し、再生医療、創薬の分野では細胞の品質を評価する細胞培養観察装置や細胞関連サービスを行って、新規治療方法の開発、新薬の開発を行ってます。

 

アイケアソリューションは、超広角走査型レーザー検視鏡によって精密な網膜の画像取得を行い、眼科領域における疾病の早期発見と治療に貢献、そして糖尿病などの内科領域の全身疾患の早期発見も可能とする事業を展開しています。

 

そして細胞受託生産ソリューションでは、細胞作成、細胞生産プロセスをサポートしています。

ニコンは現在、世界最高レベルの製造設備、オペレーション、品質管理システムで、製薬会社、バイオベンチャー分野に幹細胞などの再生医療用細胞、遺伝子治療用細胞の供給を行っています。

これは、研究機関、医療機関の要望に応じて受託開発、受託生産を行うもので、ニコンが保有する設備を使って高品質な細胞を生産するという事業です。

 

出遅れから10年、ニコンはライフサイエンス事業を徐々に拡大しており、今後は先行した富士フイルムなどと競合することによって新しい技術を医療分野に提供していくことが期待されています。

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