ヒトの体節形成を再現 iPS細胞活用

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iPS細胞でヒトの基本を形成

京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)のアレヴ・ジャンタシュ特定拠点准教授の研究グループは、ヒトiPS細胞を用いて、ヒトの初期発生における体節形成を再現する3次元細胞培養モデル(Axioloid: アクシオロイド)の構築に成功しました。

この3次元細胞培養モデルは、ヒトの肺における体節構造の形態的な再現のみならず、遺伝子群の発現パターンなどの分子的特徴も再現しています。

このモデルは、ヒトの初期発生プロセスや、先天性脊椎疾患などの疾患形成メカニズムなどの解明に貢献することが期待されます。

この研究は、アレヴ・ジャンタシュ研究室所属の山中良裕特定研究員と、ハミディ・ソフィアン特定研究員は、京都大学と、海外の研究機関と共同でiPS細胞から初期発生におけるヒト胚と同様な3次元的な体節様構造物の誘導に成功しました。

彼らはこの構造物をアクシオロイドと命名し、上皮化された体節様構造物の形成において、レチノイン酸と細胞外マトリックス分子の相互関連が不可欠であることを示し、実際のヒトの胚との形態的な相同性に加え、遺伝子の発現パターンの類似性も明らかにしました。

体節とは?

この研究に出てくる体節とは何かを説明するときには、マウス、ヒトを例に挙げて説明するよりは節足動物、環形動物を使って説明するとわかりやすくなります。

 

まず生物学的に体節とは、「動物の体の構造に見られる体軸方向の繰り返し構造」を意味します。

体軸方向とは、頭部と尾部の前後軸、背中側と腹側の背腹軸、そして体の左右軸の3つがあります。

昆虫に代表される節足動物、またミミズなどの環形動物はいくつかの体節から構成されています。

 

例えば昆虫の場合、頭部、胸部、腹部に分けられますが、この3つの部分はそれぞれ、「頭部の前後軸」、「胸部の前後軸」、「腹部の前後軸」を持っています。

この3つの部分によって昆虫の体は構成されていますが、頭部の前から後ろ、そして胸部の前から後ろ、そして腹部の前から後ろ、と前後軸が繰り返されています。

 

このことを「体軸方向の繰り返す構造」と表現します。

ミミズの場合は昆虫よりもさらに多くの体節がありますが、それぞれに前後軸があり、その体節がつながることで体軸方向が繰り返されて体が構築されています。

 

ヒトのような脊椎動物の場合も、基本的にはこの節足動物、環形動物と似ていますが、もう少し複雑です。

まず脊椎動物が受精後、胚発生するときには原腸陥入によって外胚葉、内胚葉、中胚葉という3つの部分に分かれます。

この中の外胚葉にある上皮部分から神経管が背中側に形成されると、神経管のちょっと腹側に脊索が中胚葉から作られます。

神経管、脊索両方とも、体の前後軸に沿って伸びており、これを基準として2つの管の両側の中胚葉部分がブロック化されていきます。

 

このブロック化でできるものが「体節」と呼ばれるもので、この体節はこの後に3つの部分に分化していきます。

まずは皮節、いわゆる背中側の真皮、そして筋節、多くの体幹筋、四肢筋になる場所です。

そして硬節、脊椎骨、肋骨になる部分です。

この体節の発生は、動物の体を構築する上で非常に重要な段階で、この時期に発生異常があると、個体は母体内で死んでしまうケースが多く、もしそのまま発生が進んで生まれたとしても、あまり長く生きることはできません。

 

哺乳類の体節を使った研究、または体節の研究はこれまでマウスなどに限られていました。

ヒトで行おうとすると、倫理的な大きな問題が生じるために、マウスなどの結果からヒトの場合を類推するしかなかったのです。

しかし、iPS細胞の確立によって、iPS細胞を使ってヒトの体節を実験室で再現できるかもしれないという期待が出てきました。

体節以上による疾病

体節形成期に異常があったときに起こる疾病に脊椎側彎症があります。

脊椎は、体の側面、つまり横から見ると前後にカーブしています。

これは異常ではなく、生理的彎曲という正常なカーブです。

 

脊椎は横から見ると彎曲、前後から見るとまっすぐであることが正常ですが、彎曲したりねじれている場合があります。

これが脊椎側彎症です。

 

脊椎側彎症にはいくつかのパターンがあり、

  1. 脊椎がねじれながら横に彎曲する側彎症。
  2. 後方に曲がってしまう後彎。
  3. 側彎と後彎が同時に起こる後側彎症。

この3つが代表例です。

 

そして側彎症は先天的なもののみとは言いきれず、いくつかの種類に現在は分類されています。

まず特発性側彎症と呼ばれるものが側彎症の中で最も多く、8割ほどがこの特発性側彎症に分類されています。

原因は特定されておらず、3歳までに発症する乳幼児側彎症、4歳から9歳までの間に発症する学童期側彎症、そして10歳以降に発症する思春期側彎症に分類されています。

このうち、乳幼児側彎症は男児に多く、思春期側彎症は女子に多いという傾向があります。

 

他には、胸郭不全症候群などの先天的な要因による先天的側彎症、脳や脊髄の異常によって発症する神経原性側彎症、筋肉の異常によって発症する金言性側彎症、マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群に見られる間葉性側彎症があります。

これらは先天的な問題、後天的な問題どちらでも起こり得るとされている側彎症です。

 

側彎症は外見上の問題もありますが、彎曲によって胸が圧迫されるために呼吸器障害、循環器障害を起こすケースも多く見られます。

彎曲が大きくなると心臓・肺の機能に大きく影響し、平均寿命が短くなるとも言われています。

そして彎曲によって腰椎に大きな負担を強いるために、椎間板の痛みを引き起こしやすく、腰痛の原因としてもよく知られています。

 

この疾患の治療方法については、原因はある程度絞り込まれていますがモデル化が困難であるため、有効な治療方法がなかなか確立できていないのが現状です。

今回の研究成果

今回の研究は、この側彎症の治療法開発に大きく役立つ成果であるとされています。

 

研究チームは、まずiPS細胞を使って中胚葉細胞を誘導しました。

体軸の前後決定には、FGF/WNTシグナル伝達、そしてレチノイン酸のシグナル伝達が必要であることが予想されていましたが、この研究で体節に分化誘導する過程の解析によって、体節形成時と安定化の時にレチノイン酸伝達経路が予想外の重要な役割を果たしていることが特定されました。

 

体節の形成と上皮化には、霊地の陰惨と細胞外マトリックスの相互作用が重要であり、HOX遺伝子群の重要性も証明されています。

このパターンはヒトの胚を使った数少ない研究知見と一致しており、この研究グループが作ったヒト人工体節(アクシオロイド)が、かなり実際の体節に近いこと示唆しています。

 

さらに、患者の細胞からiPS細胞を作り、同じ実験をしたところ、これまでの臨床治験と同様の分子パターンが存在することが明らかになりました。

つまり、体節の一部を再現しただけでなく、このモデルを使えば患者の体節の状態、つまり症状そのものも再現できるということになります。

 

iPS細胞を使って、ヒト成体の臓器、器官を構築する研究は多くされていますが、このようにヒトの発生をiPS細胞を使って再現する試みはそれほど多くないため、この研究が端緒となって今後はこういった研究が増えることが予想されます。

 

先天的な要因による疾病は、こうした再現によって病態を解析し、適切な治療を見つけていくことが現時点で最良の方法です。

この体節を再現したという研究成果は、「もしかしたらヒトそのものを再現できるかも?」という受け取られ方もしていましたが、実際は体の発生のごく一部を再現した者です。

しかし、動物の体を形成する上で非常に重要な体節の発生を再現できたということは、iPS細胞の研究においては大きな一歩と言えるでしょう。

 

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