保険診療と自由診療
医療機関で診察を受ける場合、保険診療と自由診療の2つがあります。
保険診療とは、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度などの公的医療保険が適用される診療で、患者の負担が軽減されています。
一方で自由診療の場合は公的医療保険が適用されません。
自由診療になる場合は、エビデンス、安全性の確立されていない治療(最先端の治療に多いケース)、ワクチンの予防接種、健康診断、人間ドック、交通事故・労働災害での治療、歯医者で新素材の材料を使う場合(患者の希望によることが大前提)などの場合、医療機関が決定した値段で全額が自己負担になります。
自由診療は保険診療と対になる診療で、診療を受ける者、つまり患者と、診療を行う医療機関との間で自由に個別の契約を行い、その契約に基づいて治療が行われます。
がん治療を例にして説明しましょう。
抗がん剤は日進月歩に開発が行われ、日本以外の国で承認された薬でも、日本においては承認されなかったり、承認までに時間がかかったりする場合があります。
この薬を使いたい場合、患者は自分が加入している保険から診療費を出してもらえません。
保険が使える条件は、あくまで日本に承認されている治療方法、薬を使う場合のみです。
自由診療で使う日本で未認可である医薬品、保険適応外の医薬品・治療はドラッグ・ラグによって代替治療が行われるケースが多数見られます。
未認可医薬品の場合、日本で入手することは難しいため、個人輸入を行うか医師が自ら輸入して患者の治療に使います。
これら診療や処方や薬剤に要する費用は、患者の全額負担であり、国が定めた診療報酬、調剤報酬に制限されないため、医療機関では価格を自由に設定できます。
抗がん剤を例に挙げましたが、他にもこういった自由診療になる場合がいくつかあります。
漢方治療の多くは保険診療、つまり診療報酬で賄われますが、保険診療で使うことができる病名が限られているために、病名が診療報酬に適応しない場合があります。
そのため、専門的漢方薬は自由診療になります。
また、疾病でない分娩、形成外科で健康上の理由以外で行われる美容整形外科も自由診療です。
保険診療においては、公的医療保険が適用され、疾病の標準的な治療になります。
この場合、厚生労働省が定めた診療報酬の公的価格により、自己負担金は全体の3割で、さらに高額療養費制度によって月額の上限負担金を超えた部分は、保険者からの金銭の払い戻しが受けられるため、治療費が高額になることはほとんど見られません。
幹細胞と自由診療
幹細胞のような新しい医薬品を保険診療で使うためには、厚生労働省に申請して承認されなければならないことが医薬品医療機器等法(通称:薬機法)で定められています。
有効性や安全性などの審査は、厚生労働省から付託された独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が行います。
この審査は安全性、効果などが厳しく審査されるのですが、自由診療で実施される医療行為はこうした内容を国が確認しているわけではありません。
それでは全くの自由かというとそうではなく、国から設置の承認を受けた機関が審査を行います。
幹細胞の場合、この役割を担うのは、特定認定再生医療等委員会、認定再生医療等委員会が主体となって審査を行っています。
この審査業務の内容は、安全性の確認が主となるもので、一般的な承認医薬品に求められている有効性を求められるのではなく、「妥当性」を確認することとなっています。
国が承認しているのは特定認定再生医療等委員会、認定再生医療等委員会が設置するところまでであり、そこから提供される再生医療の内容に対して承認を与えているのではありません。
ただし、一定の安全性と有効性が国によって評価されているがまだ保険適用となっていない医療技術(つまり先進医療)と国が認めた場合は、その治療方法にかかる費用以外の、通常の治療と共通する部分の費用に公的な健康保険が適用されます。
国が「先進医療」(一定の安全性と有効性が国により評価されてはいるがまだ保険適用となっていない医療技術)と認めた治療法については、その治療法にかかる費用以外の、通常の治療と共通する部分の費用に公的な健康保険が適用されます。
近年、一部の幹細胞治療に関する情報の中に、種々の症状が改善したという記述が散見されますが、多くは自由診療として実施されているものが多く、国が必ずしも効果を保証しているわけではありません。
幹細胞を用いた自由診療は、国が有効性を確認した上で承認している医療とは別の枠組みで行われており、新規性の高い医療を受けられる一方で、国が安全性及び治療効果を確認したものではないこと、公的な健康保険の適用が受けられず、治療の全額自己負担が必要であることを認識する必要があります。
セルファクター、大腿骨頭壊死症に対する再生医療の自由診療での提供を支援
こうした自由診療は、国から承認されていなくとも、安全性と有効性がある程度必要です。
そのため、患者が安心できる自由診療を行うためには、技術力のある企業のバックアップなどが必要です。
最近、こういった1つのケースとして、セルファクターが大腿骨頭壊死症に対して再生医療を行う時のバックアップを行うことを発表しました。
幹細胞を使った再生医療の自由診療を企業がバックアップするという形になります。
セルファクターは京都大学の研究を通じて開発された成長因子と最新の幹細胞治療を実現するために作られた企業です。
細胞、成長因子、細胞培養の足場材、物理環境、ドラッグデリバリーシステムなどを中心として再生医療の発展を目指す企業ですが、第一歩とした疾病が、難病指定されている大腿骨頭壊死症の克服です。
大腿骨頭壊死症とは
大腿骨頭壊死症、また特発性大腿骨頭壊死症(ION、またはONFH:Idiopathic osteonecrosis of the femoral head)と呼ばれるこの疾患は股関節の疾病です。
大腿骨上端の大腿骨頭で虚血をきたすことで壊死を、そして関節の変形・破壊をまねく疾患で、厚生労働省が特定疾患に指定しています。
この原因、機序は現在原因不明とされており、プロ野球選手、Jリーガーの中にはこの疾病によって現役生活を断念した選手、芸能人の中には俳優活動を中止した人もいます。
初期症状は、歩行時、階段の昇降時に感じる痛みですが、進行すると安静期にも痛みを感じるようになり、鎮痛剤を常に服用しなければならないレベルにまで達します。
さらに進行すると、関節の変形に伴い、歩行に不自由が出るようになります。
現在治療方法は、手術を行わない保存的治療と手術治療があり、病気、病型に応じて方針を決定します。
得にステロイド投与歴のある患者では、内科的な合併症に注意が払われます。
こうした状況で、再生医療による治療は大きな期待を寄せられていますが、具体的な臨床試験を計画する段階ではなく、幹細胞を投与すれば症状の改善が見られる患者が出てくるという段階です。
原因、機序が不明の疾患のため、今後は基礎研究によって疾病の原因を解明し、幹細胞を効果的に使う方法を考える必要があり、具体的な治療ステップのプランが確立されるのはもう少し研究が進んでからになるでしょう。
今回のセルファクターの自由診療への支援は、決してビジネス的な流れだけでなく、今後具体的な治療方法のプランを創出するにおいて、重要なデータを獲得する事も大きな目標です。
ラット、マウスを使った基礎研究から治療方法を立ち上げていくことが一昔前までは主流でしたが、臨床と連携して得られるデータからヒトの治療方法を確立させていくという革新的なプロジェクトがいくつか行われていますが、今回のセルファクターの支援もその一つと言えるでしょう。