成人T細胞白血病リンパ腫に対する新たな予後予測モデルの開発に成功

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予後予測の重要性

宮崎大学は、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL:Adult T cell Leukemia)のゲノム情報と臨床情報を統合した新たな予後予測モデルの開発に成功したと発表しました。

成人T細胞白血病リンパ腫の主な治療法は多剤併用化学療法、抗CCR4抗体療法、造血幹細胞移植ですが、造血幹細胞移植は合併症や移植関連死亡が問題となっています。

 

今回の研究は宮崎大学医学部内科学講座血液・糖尿病・内分泌内科学分野の下田和哉教授、亀田拓郎助教らの研究グループと、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授、国立がん研究センター研究所分子腫瘍学分野の片岡圭亮分野長、今村総合病院の宇都宮與名誉院長兼臨床研究センター長、熊本医療センターの日高道弘副院長らと共同で行われた。詳細な結果は、伊医学誌「Haematologica」に216日付で公表(Early view)されました。

 

成人T細胞白血病リンパ腫は難治性の血液がんです。

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1:Human T-cell leukemia virus type 1)の感染が原因で発症し、成人T細胞白血病リンパ腫の発症には50種類以上の遺伝子異常が関与しているといわれています。

がん化したリンパ球はヒトT細胞白血病ウイルス1型に感染しており、この感染リンパ球の増殖によって、リンパ節腫大など多くの症状を呈します。

ヒトT細胞白血病ウイルス1型が流行する地域は、日本、アフリカ、カリブ海沿岸諸国で、この地域では成人T細胞白血病リンパ腫が比較的多く見られます。

 

成人T細胞白血病リンパ腫の病勢評価には、ATL-prognostic indexATL-PI)と呼ばれる予後予測モデルが用いられていますが、どのような症例において多剤併用化学療法のみで良好な治療効果が期待できるのかを予測することは難しく、治療選択の際に活用するには課題が残されていました。

そのため、治療選択の際に役に立つ新規の予後予測モデルの開発が望まれており、今回の研究成果はその要望に応えるものとして注目されています。

 

ちなみにATL-prognostic indexは、同種造血幹細胞移植を受けなかった急性型とリンパ腫型ATL患者の予後を評価するための指標のひとつです。

年齢、がんのステージ、血清アルブミン値、血清可溶性インターロイキン2の受容体発現レベルといった5つの臨床情報から算出されています。

今回の研究は、このindexからさらに精密性を上げた予測モデルを作ろうというものです。

 

作ろうとしたモデルは予後を予測するものですが、予後とは何を意味するのでしょうか?

予後とは、疾病、症状、障害に対する医学的な今後の「見通し」のことです。

この「見通し」は、経験、エビデンス(科学的な証拠)に基づいた見解であり、国際的には「Prognosis」という言葉で表現されています。

 

医療現場で、「予後が良い」あるいは「予後良好」ということは、対象となる疾病、障害などの今後の見通しが良いことを指します。

一方で、「予後が悪い」、「予後不良」と表現されれば、それらが悪いことを指します。

競走馬がケガをしたときに、時々「予後不良により・・・・」という表現がされることがありますが、これは競走馬が競走中、またはトレーニング中に何らかの原因で脚などに故障を発生したとき、回復が極めて困難な場合、薬によって安楽死させることを意味しています。

 

疾病、障害(ケガを含む)にとって、予後がどうであるかは非常に重要な事柄です。

はっきりと良いか悪いかがわからない場合には、「比較的予後が良好である(不良である)」という表現を使うこともあります。

 

がん治療における予後予測はなぜ重要なのか?

予後という言葉は、疾患や症状、障害(負傷含む)という多種多様な大将に使用される言葉ですので、それらの見通しの対象も当然のように異なります。

 

ヒトの生命に関わる疾患などでは、生命予後という言葉がよく使われ、生存率が年ごとに算出されて示されることが多くなっています。

こうした疾患は、難病指定されている神経筋疾患、悪性度合いの高いがん、重症心疾患・呼吸器疾患等の内部障害疾患が代表例です。

一方で、同じ疾患でも、精神疾患等においては生命の危険に対してというよりも対象者が社会でそのような状況に到達するのか、つまり社会的な帰結に対する意味を持つことがほとんどです。

 

がんの予後については、予後調査(生存確認調査)によって統計的なデータが示されることが多く、この予後調査は3年予後調査、5年予後調査、10年予後調査があります。

調査は、医療機関独自で行う場合と、国立がん研究センターの自主事業である「予後調査支援事業」に依頼して行う場合があります。

算出したデータは国立がん研究センターに報告することで生存率を分析しますが、この予後調査では住民票照会が行われるため、患者は拒否することができます。

 

がんの予後調査においては生存率が指標とされるために、医師国家試験、歯科医師国家試験、薬剤師国家試験などの医療系資格試験の中には毎年必ず統計学の問題が出題される試験があり、特に生存率の算出を目的とするカプランマイヤー法についての問題は頻出問題になっています。

 

がんの予後は、がんの進行度合い、患者の年齢などの要因によって変化しますが、治療方法の選択も影響するため、がん検査で得られたデータからがんのタイプを分類し、予後が良好となる可能性のある治療方法を選択することが重要です。

しかしその選択方法は、多くの場合は医師の経験などに依存する部分が多かったために、予後予測モデルは以前から必要性があるとされてきました。

今回の研究は、そんな中で成人T細胞白血病リンパ腫についてのモデルを構築した研究です。

 

研究の詳細

今回の研究は、患者の対象年齢を70歳未満とし、造血幹細胞移植療法の対象となる成人T細胞白血病リンパ腫の患者183人で行われました。

成人T細胞白血病リンパ腫で高頻度に認められる遺伝子変異の情報や進行状況をデータとして情報解析を行い、予後予測のモデルを作成して検証するを繰り返して構築しました。

 

この構築された予測モデルでは、従来の予後予測モデルと比べると予後の良い低リスク群を精密に同定することが可能となりました。

これは何を意味するのか?ですが、低リスク群であると判断された場合、造血幹細胞移植ではなく、標準的な多剤併用化学療法を選択するという事が可能になります。

しかも、この標準的な多剤併用化学療法を選択することによって長期生存につながるという期待が持てます。

一方で、中程度、あるいは高程度のリスクと判断された場合は、造血幹細胞移植などの治療方法が有効であることが示唆されています。

 

予後予測が正確であればあるほど、その治療方法を行うための根拠が明確になります。

「この疾病を治療するためには、この治療方法が最も有効であり、治療後の予後も良好である可能性」がより正確に患者側に示すことができれば、治療を受ける側とすれば完治までの道筋がはっきりと見えるため、精神的な負担が軽減されることが予想されています。

 

患者、医療の双方にとってこれから行う治療の見通しが高い精度で予想される事は、意思疎通の透明性などに大きく貢献することは確実であり、治療がスムーズにいくことが予想されます。

さらに、成人T細胞白血病リンパ腫患者にとっては、個別化医療の推進が可能となるため、自分に適合した治療方法が選択しやすくなります。

そして予後が改善すれば、生活の質(QOLQuality of Life)の向上につながるため、家族の精神的な負担も大きく軽減することができます。

一方で研究においては、この予後予測モデルを基盤とした治療からデータをフィードバックすることにより、新しい治療方法開発の基盤になることも考えられます。

 

AIを使った様々な技術、研究が盛んになりつつありますが、「どのデータをどういうように使えば有効なのか?」については経験が必要です。

AIも学習するため、それが不可能というわけではありませんが、方法論をある程度絞り込んでからAIに解析させた方が、何もない状態で解析させるよりも正確な結果を得られると考えられています。

そうした開発モデルが徐々に作られていくことが予想されますが、その流れの中で今回の研究は重要な位置を占めると考えられます。

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