へその緒で難病を治療へ
ヒューマンライフコード株式会社(Human Life CORD JAPAN Inc.)は、2017年4月5日に設立された日本のバイオベンチャー企業で、再生医療等製品の研究開発・製造・販売を行っています。
同社は、特に臍帯(へその緒)由来の間葉系幹細胞を活用した治療法の開発に注力しており、急性移植片対宿主病(GVHD)や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)など、既存の治療法が限られている難治性疾患に対する再生医療等製品の開発を進めています。
ヒューマンライフコードは創業時より、細胞治療のソースとして胎盤と胎児をつなぐ組織である臍帯(へその緒)の可能性に着目し、臍帯(へその緒)から抽出される間葉系幹細胞を再生医療等製品として薬事承認取得、製品化し、必要とする患者さんとそのご家族のもとへ一日も早くお届けすることを目指しています。
本事業は、東京大学医科学研究所附属病院 臍帯血・臍帯バンク/体性幹細胞研究分野 准教授 長村登紀子先生による臍帯研究にかかる発明に関する特許、技術、ノウハウの実施許諾に基づくものです。
臍帯と幹細胞
臍帯は、胎児と胎盤をつなぐ組織で、いわゆる「へその緒」のことです。
臍帯の役割は、母体の血液から胎児に酸素や栄養素を運ぶ酸素と栄養の供給、胎児が産生した二酸化炭素や老廃物を母体へ送り返し、処理を行う老廃物の排出、胎盤を通じて、胎児の成長に必要なホルモンの運搬があります。
臍帯の構造は、3本の血管(2本の臍動脈+1本の臍静脈)がゼリー状の「ワルトン膠質」に包まれた構造を持ちます。
臍静脈は胎児へ酸素と栄養を運び、臍動脈は胎児の老廃物を母体へ運ぶ役割を持っています。
この臍帯には多種の細胞が含まれており、最近では、臍帯血や臍帯由来の間葉系幹細胞が、再生医療や難病治療に利用されています。
臍帯血には造血幹細胞を含み、白血病などの治療に使われ、臍帯由来の幹細胞は骨髄よりも増殖能力が高く、免疫疾患や再生医療に応用しやすいという特徴があります。
臍帯と幹細胞の関係は、臍帯が幹細胞の豊富な供給源であることにあります。
特に、臍帯には臍帯血や臍帯組織に由来する幹細胞が含まれており、再生医療や細胞治療に応用されています。
臍帯には、臍帯血幹細胞と臍帯間葉系幹細胞の2種類の幹細胞が含まれています。
臍帯血幹細胞は造血幹細胞であり、赤血球・白血球・血小板などの血液細胞に分化できます。
この細胞は、白血病や再生不良性貧血などの血液疾患の治療に使用され、骨髄や末梢血から採取する造血幹細胞移植と同様の治療法として活用されます。
臍帯間葉系幹細胞は間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem Cells)であり、骨、軟骨、脂肪などの間葉系組織への分化能を持ち、さらに神経や心筋については、分泌因子を介した修復・機能改善効果が報告されています。
免疫調節作用を持ち、自己免疫疾患や炎症性疾患の治療に応用可能であり、臍帯血幹細胞よりも拒絶反応が少なく、移植しやすいという特徴があります。
さらに骨髄や脂肪由来の幹細胞よりも増殖能力が高く、採取も容易です。
臍帯間葉系幹細胞とはどんな細胞?
臍帯間葉系幹細胞(Umbilical Cord Mesenchymal Stem Cells, UC-MSC)は、胎児のへその緒(臍帯)に存在する間葉系幹細胞の一種です。
臍帯間葉系幹細胞は、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)や脂肪由来間葉系幹細胞(AD-MSC)よりも増殖能力が高いことが特徴です。
さらに老化の影響を受けにくく、短期間で大量の細胞を培養可能という特性もあります。
さらに免疫細胞(T細胞・B細胞・マクロファージなど)の活動を調整する機能を持ち、炎症を抑制します。
このことから、免疫系の異常による自己免疫疾患(関節リウマチ、多発性硬化症など)の治療に応用することが期待されています。
また、HLAクラスII分子の発現が低いため、他人への移植(同種移植)でも拒絶反応が起こりにくく、免疫抑制剤の使用を最小限に抑えた移植治療が可能となる可能性があります。
そして最も注目されている特徴は、採取が容易で倫理的問題が少ない点です。
臍帯は出産時の不要組織であり、非侵襲的に採取できるため、胚性幹細胞(ES細胞)のような倫理的問題がありません。
臍帯は、ゼリー状のワルトン膠質(Wharton’s Jelly)に臍帯間葉系幹細胞を多く含んでいます。
臍帯間葉系幹細胞の分離方法は、まず臍帯の採取(出産時に医療機関で臍帯を回収)から始まります。
洗浄・滅菌(血液や異物を除去)を経て、ワルトン膠質の分離(臍帯の血管を取り除き、ゼリー状部分を抽出)、酵素処理・細胞培養(コラゲナーゼなどの酵素で細胞を遊離し、培養)、その後品質管理・検査(分化能や増殖能力の評価)を行います。
iPS細胞と間葉系幹細胞の比較
iPS細胞と間葉系幹細胞は、どちらも再生医療や細胞治療で重要な役割を担っていますが、その性質や応用範囲は大きく異なります。
この2つの細胞を比較してみましょう。
まずiPS細胞の特徴です。
・あらゆる細胞に分化可能(多能性)であり、皮膚、神経、心筋、肝臓など、ほぼすべての細胞を作製できます。
・自己由来の細胞を作製可能であり、免疫拒絶反応を大きく低減でき、患者自身の細胞を使うことで、免疫拒絶を回避できます。
・そして無限に増殖可能(不死化)であり、無限に増殖し、長期間保存可能です。
iPS細胞のデメリットを以下に挙げます。
・まず発がんリスク、遺伝子改変による腫瘍形成リスクがあるため、安全性の確保が課題です。
・作製コストが高いこともデメリットであり、 iPS細胞の作製・分化誘導には高度な技術が必要で、高コストです。
これらの特徴、特性から、iPS細胞の主な用途は難病治療(パーキンソン病、脊髄損傷、糖尿病、心不全など)、創薬・疾患モデル(新薬開発のための疾患細胞モデル作製)、個別化医療(患者ごとの治療用細胞作製)に用いられています。
次に 間葉系幹細胞(MSC)の特徴です。
・免疫調節作用があり、免疫細胞の働きを調節し、自己免疫疾患・炎症性疾患の治療に有効です。
・低い免疫原性を持ち、他人(ドナー)のMSCを移植しても免疫拒絶が少ないため、細胞製剤として利用可能です。
・発がんリスクが低い、これは自然の幹細胞であり、遺伝子改変を行わないためがん化しにくいという特徴があります。
間葉系幹細胞のデメリットは以下のものが知られています。
・分化能力が限定的で、神経や心筋などには分化しにくいため、iPS細胞ほど応用範囲は広くありません。
・老化・増殖限界があり、体内から採取したMSCは一定回数の分裂後に老化し、増殖が止まってしまいます。
これらの特徴から、間葉系幹細胞の用途は、再生医療(骨・軟骨・脂肪・神経の修復)、自己免疫疾患の治療(関節リウマチ、多発性硬化症、1型糖尿病)移植片対宿主病(GVHD)の抑制(骨髄移植の副作用軽減)、抗炎症療法(肺疾患、COVID-19関連ARDS)に用いられています。
まとめると、iPS細胞は「万能細胞」であり、あらゆる細胞に分化できるが、発がんリスクや高コストが課題です。
一方で間葉系幹細胞は「実用的な幹細胞」であり、免疫調節作用が強く、一部の疾患領域では、再生医療等製品として実用化が進んでいます。
現時点では用途によって使い分けるのが最適とされ、高度な臓器再生では iPS細胞(パーキンソン病、心筋再生、肝疾患など)が使われ、炎症抑制・免疫疾患治療では(関節リウマチ、GVHD、ARDSなど)間葉系幹細胞が使われています。
間葉系幹細胞に分類される臍帯間葉系幹細胞は、損傷した組織の修復や再生を促すため、多くの疾患治療に応用されています。
例を挙げると、骨・軟骨の再生(骨折、変形性関節症)、神経疾患(パーキンソン病、脊髄損傷、脳梗塞後遺症)、心血管疾患(心筋梗塞、心不全)、肝疾患(肝硬変、脂肪肝)に使われており、免疫調節療法においては、自己免疫疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、1型糖尿病)、移植片対宿主病(GVHD)(骨髄移植後の免疫拒絶反応を抑制)、炎症性疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)に使われています。
またCOVID-19関連の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対しても、治験や臨床研究レベルで応用が進められています。臍帯間葉系幹細胞の免疫調節作用で炎症を抑える効果が期待されています。


