Heartseedが東証グロース市場に上場 他家iPS細胞由来心筋球用いたLAPiS試験に期待

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Heartseedが東証グロース市場に上場 他家iPS細胞由来心筋球用いたLAPiS試験に期待

心筋再生医療の早期事業化を目指すベンチャー企業・Heartseedが2024年7月、東京証券取引所グロース市場に上場しました。

 

Heartseed Inc.は、2015年に設立された東京に本拠を置くバイオテクノロジー企業で、心不全の再生医療に特化しています。

特に、iPS細胞由来の心筋細胞を使用した治療法の開発に注力しています。

 

同社の主力製品である「HS-001」は、iPS細胞から作成された高純度の心筋細胞スフェロイド(心筋細胞のクラスター)で構成されており、心臓に移植することで心筋を再生し、進行した心不全患者の心機能を改善することを目的としています。

この治療法は日本国内で臨床試験が進められています。

 

Heartseedの技術は、損傷した心筋に新しい心筋細胞を導入することで、心臓の機能を回復させることを目指しています。iPS細胞から分化した心筋細胞を生成し、それらを高精度に純化してから心臓に移植し、既存の組織と統合して機能を向上させるというものです。

同社は、ノボノルディスクとの提携により、世界市場への展開を進めており、Heartseedは日本国内の開発を担当し、ノボノルディスクはグローバル展開を担当しています。

 

ノボノルディスクについて

ノボノルディスク(Novo Nordisk)は、デンマークに本社を置くグローバルな製薬会社で、糖尿病治療薬や代謝関連疾患の治療において世界的に有名です。

1923年に設立された同社は、インスリン製造のパイオニアとして知られ、現在では糖尿病治療薬を中心に、肥満、成長障害、血友病、希少病の治療薬なども開発しています。

 

ノボノルディスクの代表的な製品には、インスリン製剤やGLP-1受容体作動薬(例:セマグルチド)があり、糖尿病治療薬市場においてトップクラスのシェアを持っています。

インスリンの進化とともに、持続的な血糖コントロールが可能な薬剤を提供しています。

 

また肥満治療にも関与しています。

肥満は世界的に増加している健康問題であり、ノボノルディスクは肥満治療においても最前線に立っています。たとえば、GLP-1作動薬「Wegovy」は、肥満の治療薬として注目されています。

 

さらに血友病や成長ホルモン関連の治療薬も同社の重要な事業領域です。

これらの治療薬は希少疾病向けに特化した製品群です。

 

ノボノルディスクは、世界170か国以上で事業を展開しており、研究開発においても積極的に投資しています。

糖尿病や肥満などの生活習慣病に焦点を当てた治療法の開発だけでなく、再生医療やバイオテクノロジーの分野にも参入しています。

 

最近では、日本のバイオテクノロジー企業Heartseedと提携し、iPS細胞由来の心筋細胞を用いた心不全治療の臨床試験や商業化を進めています。

この協力により、ノボノルディスクは心臓再生医療の領域にも進出し、さらに治療の幅を広げています。

 

Heartseedの目指すもの

 

さらに、Heartseedは複数のiPS細胞株から高純度の心筋細胞を安定して生成する技術を確立しており、これは患者自身の細胞を使用する自家移植や、ドナー由来の他家移植の治療において重要な進展です。

Heartseed独自の精製技術により、この精度が実現されており、個別化医療に向けた再生医療の大きな一歩となっています。

 

このように、Heartseedは心不全に対する画期的な治療法を提供することを目指しており、従来の心臓移植などの治療法に代わる可能性のあるアプローチを開発しています。

 

Heartseed は大学発のベンチャー企業として認識されています。

Heartseedと慶應大学は、特に心臓再生医療の分野において深い関係を持っており、もともとは、慶應義塾大学の福田恵一教授の研究成果を基に2015年に設立されたスタートアップです。

福田教授はiPS細胞を用いた心筋再生の研究で著名であり、Heartseedの技術は、彼が開発したiPS細胞から心筋細胞を作成する技術を中心に展開されています。

 

現在、慶應大学とHeartseedは、iPS細胞から分化させた心筋細胞を用いた心不全治療の実用化に向けた共同研究を行っており、この研究は自家移植や他家移植の可能性を探る再生医療の最前線にあります。

特に、心筋再生において臨床応用が期待される技術を商業化するために、慶應大学の知的財産がHeartseedの開発プラットフォームに統合されています。

 

また、Heartseedは慶應大学の研究成果を活用して、先述したHS-001という製品を開発しており、この製品はiPS細胞由来の高純度な心筋細胞スフェロイドで、心臓の機能回復を目指すものです。

 

心筋スフェロイドとは?

他家iPS細胞由来の心筋球(心筋スフェロイド)とは、ドナーから提供されたiPS細胞を使用して作製された心筋細胞のクラスターを指します。

これらは、個々の細胞が球状に集まった三次元構造を持ち、心筋組織のように振る舞います。

 

心不全などの治療法として、患者自身の細胞を使用する自家移植が理想的ですが、時間やコストの面で制約があります。

他家iPS細胞は、健康なドナーから作製されるため、迅速に多くの患者に供給できる利点があります。

ただし、ドナー由来の細胞を使用する場合、移植後の免疫拒絶反応を避けるために免疫抑制剤を必要とすることが課題となります。

 

他家iPS細胞から作られた心筋球は、通常、99%近い高い純度で心筋細胞を含んでおり、Heartseedの技術では「代謝選択法」と呼ばれる独自の精製法で非目的細胞を除去しています。

 

また、心筋球はスフェロイド構造をしており、細胞間の密接な接触が可能で、これにより心筋細胞がより効果的に機能しやすくなっています。

これにより、移植後に心筋として機能しやすくなるのが特徴です。

 

Heartseedが開発しているHS-001などの製品は、他家iPS細胞由来の心筋球を使用し、患者の心臓に直接移植することで、損傷した心筋の機能を回復させることを目的としています。

 

他家iPS細胞由来の心筋球は、心臓再生医療において、迅速な治療提供と大規模な適用を可能にする点で重要視されています。

 

LAPiS試験の重要性とHS-001

LAPiS試験(LAPiS Study)は、Heartseed社が実施している第1/2相臨床試験で、重度の心不全患者を対象に、iPS細胞由来の心筋球(HS-001)を用いた治療法の有効性と安全性を評価しています。

 

このHS-001は、他家iPS細胞から作成された心筋細胞のクラスターで、心臓機能の回復を目指すものです。

 

この試験では、心不全が進行した患者に対して、心筋細胞を移植することで、心臓のリモデリングと機能改善を図っています。

これまでの結果では、初期の患者で心機能の改善が確認されており、試験は安全性が維持されつつ進行しています。

例えば、左室駆出率(LVEF)の改善や、心臓のリモデリング(逆転現象)が見られたケースも報告されています。

 

HS-001の治療機構は、移植された心筋細胞が患者の心筋に結合し、心拍出量の向上や新しい血管の形成を促すことです。

現在、Heartseedはさらに患者の募集を進めており、臨床試験の継続とともに、今後の商業化に向けた取り組みを進めています。

 

 

東京証券取引所グロース市場(TSE Growth Market)は、日本の新興企業向けの株式市場です。以前は「マザーズ市場」として知られていましたが、2022年に東証が市場構造を再編し、現在の名称に変更されました。この市場は、特に成長性が期待される企業に資金調達の機会を提供し、将来的に大きな発展を遂げる可能性のあるスタートアップやベンチャー企業が主に上場します。

 

重度の心不全の深刻性

重度の心不全(心不全のステージDまたはクラスIV)は、心臓が身体の必要に応じた血液を十分に送り出せなくなり、日常生活が著しく制限される状態です。

これは、心臓のポンプ機能が極端に低下し、心臓が拡大したり、筋肉が弱くなったりすることが原因で、他の臓器への血流も不足するため、全身の機能に影響を及ぼします。

 

軽い動作や休んでいるときでも呼吸が困難になる、足や腹部、肺に液体が溜まるため、むくみや呼吸困難が生じる、身体がエネルギー不足となり、持続的な疲労を感じることが多くなる、そして結果として症状が重くなり、医療機関での治療や管理が必要になる頻度が高まります。

 

重度の心不全は、心筋梗塞や高血圧、弁膜症、拡張型心筋症など、さまざまな心疾患の結果として進行します。これらの疾患が心臓に長期的な負担をかけ、機能を低下させるため、心不全へと至ります。

 

重度の心不全の治療には、薬物療法(ACE阻害薬、β遮断薬、利尿薬など)やデバイス治療(植え込み型除細動器や心臓再同期療法)、さらには心臓移植や人工心臓(VAD)の適用が考えられます。

再生医療の分野でも、iPS細胞由来の心筋細胞移植などの新しい治療法が開発されつつあります。

 

心筋細胞を患者に移植、投与する方法には、主に心筋内投与が使用されます。

この方法では、iPS細胞由来の心筋細胞(例えば、心筋スフェロイドなど)を患者の心臓の損傷した部分に直接注入し、心筋の再生と機能回復を図ります。

 

方法は、経皮的カテーテル法を代表としていくつか使われています。

 

心筋細胞を心臓に届ける方法の一つとして、カテーテルを使った経皮的なアプローチが一般的です。

これには、太ももの動脈からカテーテルを挿入し、それを使って心臓の損傷部位に細胞を正確に導入する方法があります。

カテーテル技術は、低侵襲でリスクが少ないという利点があります。

 

直接注入する方法も取られており、これは心臓手術の際に、胸を開けて直接心筋に心筋細胞を注入する方法です。

これは、より高い精度で細胞を損傷部位に届けることができる反面、侵襲的な手術となるため、患者の状態に応じて慎重に適用されます。

 

そして一部の技術では、心筋細胞をバイオマテリアル(例:ハイドロゲル)に埋め込み、それを心臓に移植する方法も検討されています。

バイオマテリアルは、心筋細胞の生存率を高め、細胞が効率よく心筋組織に統合されるのを助けます。

 

投与された心筋細胞は、心筋の損傷部位に統合され、心臓のポンプ機能を補助することを目的としています。

心筋細胞が生着し、機能的な組織として働くことで、心機能の改善が期待されます。

 

これらの方法は、主に臨床試験や研究段階で用いられており、再生医療の新たな治療手段として注目されています。HeartseedのHS-001もこのような技術を用いて、重度の心不全患者に対して心筋細胞を移植する治療法確立に貢献すると期待されています。

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