iPS細胞研究の展示・発信の場としての大阪万博
大阪万博(2025年日本国際博覧会/Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan)は、大阪府大阪市此花区・夢洲(大阪湾に位置する人工島)で、2025年4月13日から10月13日までの全184日間にわたって開催されました。
本万博は、1970年の大阪万博(日本万国博覧会)以来、日本で2回目となる登録博(BIE公認のWorld Expo)として開催されました(※2005年の愛知万博は認定博)。
大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、医療やライフサイエンスは主要なサブテーマの一つとして位置づけられました。
これに関連し、京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究者や関連企業が、再生医療の最新技術を展示・紹介し、一般市民に向けてiPS細胞による病気治療、創薬、難病研究の進展などをわかりやすく発信しました。
さらに大阪万博では、「未来の医療」「個別化医療」「予防医療」といった分野が重視され、その象徴的な技術の一つとしてiPS細胞が中心的な役割を担いました。
iPS細胞を用いた臓器再生や患者ごとの細胞を活用する個別化医療は、未来社会の医療像を示す重要なテーマとして多くの来場者の関心を集めました。
大阪万博で注目された2つのiPS細胞関連展示
万博ではiPS細胞に関連する展示が多数行われましたが、特に注目を集めたのが「PASONA NATUREVERSE(パソナ ネイチャーバース)」と「大阪ヘルスケアパビリオン」の2つのパビリオンです。
PASONA NATUREVERSE
PASONA NATUREVERSEは、パソナグループが出展した民間パビリオンです。
テーマは「いのち、ありがとう。」で、iPS細胞を用いた再生医療の可能性を体感できる展示が行われました。
主な展示の一つが、**iPS細胞由来の心筋細胞から作製された「動く心臓モデル」**です。
これは大阪大学の澤芳樹名誉教授とクオリプス株式会社が共同開発したもので、数センチ程度のサイズながら、実際に拍動する様子を観察できる展示として大きな注目を集めました。
また、iPS細胞から作製した心筋細胞をシート状に加工した「心筋細胞シート」も紹介され、将来的な心不全治療への応用がわかりやすく解説されました。
さらに、手塚治虫氏のキャラクターである「鉄腕アトム」と「ブラック・ジャック」をモチーフにしたアニメーションを通じて、iPS細胞による再生医療の未来像が提示され、幅広い世代の来場者に理解しやすい構成となっていました。
大阪ヘルスケアパビリオン
大阪府・大阪市が出展した大阪ヘルスケアパビリオンでは、「RE-BORN(リボーン)」をテーマに、再生医療や未来医療の最前線が紹介されました。
象徴的な展示として、「iPSの樹」と呼ばれるインスタレーションの中心に、実際に拍動する「生きる心臓モデル」が配置され、心筋シートの役割や再生医療の進化が視覚的に解説されました。
また、「ミライ人間洗濯機」は、1970年の大阪万博で話題となった「人間洗濯機」の約56年後の進化版として展示されました。
体を洗うだけでなく、心拍数などの生体情報をもとに、心身の状態に応じた映像や音楽を提供する体験型展示として、多くの来場者の関心を集めました。
大阪万博に出展したiPS細胞関連企業・研究機関
万博には多くの企業や大学、研究機関が参加しましたが、その中でもiPS細胞関連の展示を行った主な機関は以下の通りです。
クオリプス株式会社は、iPS細胞由来心筋シートの開発をテーマに、「生きる心臓モデル」を展示しました。
同社の技術は、大阪ヘルスケアパビリオンおよびPASONA NATUREVERSEの両方で紹介されました。
京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)は、iPS細胞研究の中核機関として、大阪ヘルスケアパビリオンへの展示協力や、スイスパビリオン内でのサイエンスカフェ「iPS細胞と次世代医療で健康な未来をつくる」を開催しました。
株式会社マトリクソームは、大阪大学蛋白質研究所との連携により、iPS細胞を用いた再生医療向け試薬の研究開発成果を紹介しました。
アイ・ピース株式会社は、iPS細胞からさまざまな体細胞を一貫して自動作製できる装置「EGG」を展示し、再生医療の実用化に向けた製造技術を提示しました。
ロート製薬株式会社は、2050年の未来社会を想定し、再生医療が日常生活に浸透した都市の姿を大型ビジョンで体験できる展示を行いました。
大学・研究機関では、大阪大学が再生医療、遺伝子治療、感染症対策などの展示を実施し、複数の教授陣が展示監修やアドバイザーとして参加しました。
関西大学は、「リボーンチャレンジ」企画を通じて、産学連携による再生医療技術の展示を行いました。
森ノ宮医療大学とは?
森ノ宮医療大学は、大阪ヘルスケアパビリオンにおいて「未来の医療」をテーマとした展示や監修に携わりました。
同大学は「すべての人がウェルビーイングを実感できる未来社会の創造」を万博ビジョンとして掲げ、2050年の未来医療を想定した展示や、AI・再生医療を活用した未来診療のインスタレーションをプロデュースしました。
森ノ宮医療大学は大阪府大阪市住之江区に位置する私立の医療系大学で、2007年に設立されました。
医療・看護・リハビリテーション・保健科学分野に特化し、理学療法、作業療法、看護、臨床検査、臨床工学、鍼灸、診療放射線などの専門職教育を行っています。
臨床現場を重視した教育と実習に加え、AI・ICT・再生医療・スポーツ医科学を取り入れた未来型医療の研究も進められています。
世界的に注目を集めた「iPSミニ心臓」
万博で展示されたiPS細胞関連技術の中でも、特に注目を集めたのが「iPSミニ心臓」です。
このミニ心臓は、クオリプス株式会社と多木化学株式会社が共同開発し、大阪大学の澤芳樹名誉教授が監修したもので、コラーゲン製の支持体にiPS細胞由来心筋細胞を組み合わせて作製されています。
実際に拍動する様子を観察できるこの展示は、再生医療の仕組みや可能性を直感的に理解できるものとして、多くの来場者に強い印象を残しました。
万博を通じて示されたiPS細胞研究の意義
大阪万博におけるiPS細胞関連展示は、研究者や医療関係者だけでなく、一般市民に対しても再生医療の現状と未来を伝える重要な機会となりました。
iPS細胞研究は、難病治療や創薬、個別化医療といった分野で今後さらに社会実装が進むと考えられています。
大阪万博は、その最前線を「見て、体験して、理解する」場として、大きな役割を果たしたと言えるでしょう。


