造血幹細胞移植でがん治療に貢献・駒込病院が日本対がん協会賞を受賞

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駒込病院が日本対がん協会賞を受賞

地方独立行政法人東京都立病院機構がん・感染症センター都立駒込病院が20239月に「日本対がん協会賞(団体の部)」を受賞しました。

この賞は公益財団法人日本対がん協会が、がん征圧活動の功績者に贈るものです。

 

駒込病院は1986年から造血幹細胞移植を行い、2013年に全国で初めて造血幹細胞移植推進拠点病院に選ばれました。

造血幹細胞移植とは通常の化学療法などでは根治が難しい白血病などの血液がんや、免疫不全症などの完治が期待できる治療法をこれまで行ってきました。

その活動が評価され、今回の受賞となりました。

 

東京都立病院機構、東京都立駒込病院とは

駒込病院は、地方独立行政法人東京都立病院機構(Tokyo Metropolitan Hospital Organization)に所属する病院です。

東京都立病院機構とは、東京都庁内に本拠を置く、東京都による一般地方独立行政法人であり、20227月に設立されました。

 

高度かつ専門的な医療を行ってきた東京都立広尾病院、東京都立大塚病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立神経病院、東京都立小児総合医療センター、東京都立松沢病院の8つの病院と、地域医療を得意とする東京都保険医療公社に所属していた東京都立東部地域病院、東京都立多摩南部地域病院、東京都立大久保病院、東京都立多摩北部医療センター、東京都立病院荏原病院、東京都立豊島病院、そして東京都立がん検診センターの6つの病院が統合されたものが東京都立病院機構です。

東京都の100%出資によって運営されており、東京都、関東地区の医療の中心を担っています。

 

この独立行政法人に属する駒込病院は、文京区にある病院です。

がん、感染症を得意としており、がん治療関連、感染症関連の診療科を多く持ち、がん研究会有明病院と共に、東京都におけるがん診療連携拠点病院に指定されています。

 

明治初期のコレラ大流行をきっかけとして1879年に駒込避病院として設立されました。

避病院とは明治時代に造られた日本の伝染病専門病院で、昭和期には隔離病舎として、そして伝染病予防法が制定された後に伝染病院、さらに感染症予防法が制定されて感染症指定医療機関と呼ばれるようになりました。

 

駒込病院はこの流れをくむ病院ですが、2011年に都立病院の再編により、がん・感染症センター都立駒込病院となっていました。

 

駒込病院の歴史を紐解くと、この病院の重要性が理解できます。

1879年に病院設立、1998年には新GCP移行に伴い、治験事務局を設置、2000年には東京都指定二次救急医療機関に指定されています。

 

21世紀に入ってからはさらに重要度が増し、2007年にはエイズ治療中核拠点病院、翌2008年には都道府県がん診療連携拠点病院、2010年には東京都指定第一種感染症指定医療機関に指定されました。

 

再生医療関連では2013年に造血幹細胞移植推進拠点病院に指定され、今回の受賞のきっかけとなる再生医療を行ってきました。

造血幹細胞を使う治療としては白血病がよく知られていますが、2018年にはこれに関連してがんゲノム医療連携病院にしていされ、2019年にはがんゲノム医療拠点病院に指定されています。

 

世界的な研究者も所属

駒込病院は、理科の実験などでよく使う「こまごめピペット」の発明者が所属していた病院としても知られています。

こまごめピペットは以前は「駒込ピペット」とされており、これはこまごめピペットの発明者である二木謙三博士が駒込病院に在籍時に発明したことにちなんで名付けられました。

 

二木謙三博士は北里柴三郎博士に比肩する世界的な細菌学者です。

鼠咬症スピロヘータの発見、赤痢菌の新種2種の発見、自然免疫学などに大きな貢献をし、一時期はノーベル生理学・医学賞の候補であったとも言われています(基本的にノーベル賞は存命者にのみ授与されるために受賞に至らず)。

後に東京帝国大学(現東京大学)の教授となり、日本伝染病学会(現日本感染症学会)を設立しました。

 

この流れをくみ、駒込病院では多くの臨床研究者が臨床研究を続けています。

また、駒込病院で数年臨床研究をした後に他の医療機関、または研究機関に移籍してさらに研究を発展させる研究者も少なくありません。

 

造血幹細胞を使った治療

駒込病院では、造血幹細胞を使った治療が盛んに行われています。

造血幹細胞移植療法は、駒込病院では1986年に開始され、2023年までに約2600件行っています。

 

そのために造血・免疫細胞治療センターにて、医師、看護師、移植コーディネーター、薬剤師、理学療法士、臨床検査技師、栄養士、歯科衛生士、ソーシャルワーカーなど多様な職種がチームを作り、ケアにあたっています。

 

移植療法は、臍帯血移植、HLA半合致移植(ハプロ移植)を含めて年間130件から140件行っています。

2013年には全国で初めて厚生労働省から造血幹細胞移植推進拠点病院として認定されており、造血幹細胞移植に携わる医師、移植コーディネーターの育成業務、また地域連携による造血幹細胞移植医療体制の整備も行っています。

 

現在、新しい細胞療法としてCAR-T療法があります。

この療法は、患者さん自身のT細胞(白血球の一種、免疫細胞として働く)を取り出してがん細胞を攻撃できるようCAR(キメラ抗原受容体)遺伝子の導入を行い、患者さんに戻すという新しい細胞免疫療法です。

従来の化学療法に難治性あるいは抵抗性となった血液がんに対して有効性が認められており、注目されています。

駒込病院ではこのCAR-T療法を2020年に開始し、現在は年間約30件行っています。

 

輸血・細胞治療科の活動

駒込病院の輸血・細胞治療科は病院内の造血幹細胞移植チームとして中心的な役割を担っています。

骨髄処理、末梢血幹細胞の採取、それらの保存についての経験を持ち、ABO不適合骨髄移植の骨髄処理、輸血療法を改良することで骨髄移植の成功率向上に寄与しています。

 

さらに同種末梢血幹細胞の採取にも力を入れています。

これは骨髄の代わりに血液中の造血細胞を使って、白血病や再生不良性貧血の患者に造血幹細胞移植を行うものです。

 

通常は数日前から造血因子であるG-CSFGranulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー形成刺激因子)を注射し、血液成分分離装置で採取します。

この採取技術についても駒込病院は高いレベルをもち、病院の再生医療を支えています。

 

これらの再生医療においては多くの検査が必要です。

フローサイトメトリーによる白血病診断、造血幹細胞の評価、CD34陽性細胞の判定、コロニー検査、組織適合性検査、HLA検査、移植後の血液型精査、そしてドナーリンパ球の採取、CAR-T細胞療法のためのリンパ球採取、これらの技術を高いレベルで維持することは非常にむずかしいのですが、駒込病院では人材育成などの努力によって全国的に見ても高いレベルを維持しています。

 

駒込病院から全国へ

高いレベルで造血幹細胞移植を行っている駒込病院では、若い医師などの医療スタッフの教育体制も確立されており、駒込病院で若い人材が多くの症例を研究し、他の医療機関に移籍することが普通に行われています。

 

これによって、高いレベルを持った医療従事者が、体制が未成熟の医療機関のレベルを引き上げることで全国の病院のレベルが徐々に上げていくことができます。

 

こうした病院が日本国内で増え始めており、再生医療の高い技術を持った医療技術者が育ち始めています。

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