2024年〜2033年予測:世界のがん幹細胞市場は32億米ドルから73億3,000万米ドルへ、年平均成長率9.64%で成長

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2024年〜2033年の世界のがん幹細胞市場予測

世界のがん幹細胞市場は、2024年に32億米ドル規模となり、2033年には73億3,000万米ドルに達すると予測されています。2025年〜2033年の期間において、年平均成長率(CAGR)9.64%で成長すると見込まれています。

がん幹細胞は、腫瘍細胞の中でも自己再生と腫瘍成長の維持において独自の能力を持つ小さなサブセットであり、近年その重要性が大きく注目されています。

がん幹細胞とは何か

がん幹細胞(Cancer Stem Cells、略称:CSC)とは、がん組織の中に少数だけ存在する、特殊な性質を持つがん細胞のことです。

この細胞は、通常のがん細胞とは異なり、幹細胞に類似した以下のような性質を持っています。

まず、健常な幹細胞と同様の**自己複製能(Self-renewal)**です。
これは、自分とまったく同じ性質の細胞を分裂によって作り出す能力であり、この能力により、がん幹細胞は長期間にわたって腫瘍の維持や増殖を担うことができます。

次に、**多分化能(Multipotency)**として、他の種類のがん細胞(非がん幹細胞)に分化できる能力を持っています。
この性質は、腫瘍内に多様ながん細胞が存在する原因のひとつとされています。

がん治療には抗がん剤を用いた化学療法が広く行われていますが、がん幹細胞の持つ**薬剤耐性(Chemoresistance)**は大きな問題です。
抗がん剤や放射線治療に対して非常に強い抵抗力を示すことが多く、これが治療後の再発や転移の主要な原因と考えられています。

最後に、**腫瘍形成能(Tumorigenicity)**が挙げられます。
動物モデルにごく少数のがん幹細胞を移植するだけで新たな腫瘍を形成できる点は、通常のがん細胞には見られない特徴です。

がん幹細胞は、白血病、乳がん、大腸がん、肺がん、膵臓がん、脳腫瘍(例:グリオブラストーマ)など、多くのがん種で確認されています。
その検出には、がん種ごとに特定の細胞表面マーカー(CD44、CD133、ALDH1など)が用いられます。

がん幹細胞は、腫瘍の「核」や「根っこ」に相当する存在と捉えられています。
そのため、がん治療においてがん幹細胞が十分に除去されない限り、再発や遠隔転移、治療抵抗性が残るリスクがあります。

現在、研究者たちはこのがん幹細胞を新たな治療標的として注目し、がん幹細胞を選択的に攻撃する薬剤や治療法の開発を進めています。
がん幹細胞の理解と制御は、がんの根本治療や再発防止の鍵とされ、がん研究および創薬分野で非常に重要なテーマとなっています。

がん幹細胞市場の将来展望(2024年〜2033年)

がん治療において完全な寛解を達成できない大きな要因の一つが、がん幹細胞の存在であると考えられています。近年では、がん幹細胞を標的とした治療法の開発が世界各地で加速しています。

グローバルながん幹細胞市場は、2024年に32億米ドル(約5,000億円)規模からスタートし、2033年には73億3,000万米ドル(約1兆1,500億円)に達すると予測されています。
この成長は、2025年〜2033年の期間において、年平均成長率(CAGR)9.64%という高い成長率を示しています。

市場拡大の背景には、基礎研究の深化、バイオ医薬品開発の加速、個別化医療(Precision Medicine)の進展、臨床現場での需要増加などが複合的に影響しています。

がん幹細胞の概念は1990年代末に白血病研究から広がり、現在では乳がん、大腸がん、肺がん、膵臓がん、脳腫瘍など、多くの固形腫瘍でもその存在が確認されています。

技術的進展と市場拡大要因

がん幹細胞分野における技術的ブレイクスルーは、市場成長の重要な推進力となっています。
特に以下の分野での進展が顕著です。

  • 単細胞RNA-seqや空間トランスクリプトミクスを用いたがん幹細胞プロファイリング

  • CRISPR技術による機能的スクリーニング

  • 3次元オルガノイドモデルによるがん幹細胞挙動の再現

  • ナノ粒子DDSなどを用いたがん幹細胞特異的阻害剤の開発

これらの技術革新が、がん幹細胞市場の拡大を後押ししています。

治療薬開発と個別化医療

がん幹細胞を標的とする治療薬の開発は、製薬企業とバイオベンチャーのアライアンスを通じて進展しています。
Boston PharmaceuticalsやVerastem Oncologyなどは、BCL-2、Notch、Hedgehog、Wnt経路阻害薬といったがん幹細胞関連分子を標的とした治療薬の研究を進めています。

日本では、大塚製薬が乳がんのがん幹細胞を標的とする治療薬「OPB-51602」の開発を進めており、複数の臨床試験が進行しています。

また、がん幹細胞表面マーカー(CD44、CD133、EpCAMなど)を活用した診断・予後予測技術の開発も進んでおり、治療選択の最適化や再発リスク評価に貢献しています。

地域別市場動向

地域別に見ると、2024年時点で最大の市場規模(全体の約42%)を占めるのは北米(米国、カナダ)です。
この地域では、FDA承認薬の開発件数が多く、大学病院や製薬企業を中心とした臨床試験が活発に行われています。

欧州では、EU Horizon計画などによる研究資金の支援を背景に、ドイツ、フランス、英国を中心とした研究体制が整備されています。

アジア太平洋地域では、高齢化とがん罹患率の上昇を背景に需要が拡大しています。日本では国立がん研究センターによるがん幹細胞バイオバンク整備、中国では国家主導の再生医療政策が研究を後押ししています。

市場成長における課題とリスク

がん幹細胞市場には、いくつかの課題も存在します。
科学的課題としては、がん幹細胞と非がん幹細胞の識別の難しさ、がん種ごとのマーカー多様性、可塑性による標的回避などが挙げられます。

医薬品開発面では、臨床試験成功率の低さ、毒性リスク、正常幹細胞へのオフターゲット影響、開発コストの高さと治療価格上昇といった課題があります。

一方で、今後10年間において、基礎科学・創薬・臨床の融合が進むことで、これらの課題は段階的に克服され、市場は引き続き拡大すると見込まれています。


日本における関連企業の動向

日本では、がん幹細胞を標的とした診断・治療・創薬を事業化しようとする企業も増えています。

オンコリスバイオファーマ株式会社は、腫瘍選択的レプリカウイルス「テロメライシン」などの開発を通じ、難治がんを対象とした臨床研究を進めています。

ステムリム株式会社は、幹細胞誘導技術を基盤とした再生医療開発を行っており、がん幹細胞研究との関連でも注目されています。

カイオム・バイオサイエンス株式会社は、CD44v6やCD133などを標的とする抗体医薬の研究実績を有しています。

このほか、富士フイルム、武田薬品工業、第一三共などの大手製薬企業も、大学やAMEDとの共同研究を通じて、がん幹細胞研究の成果を取り込む動きを見せています。

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