実験室で培養された「人間の脳」からCPUが作られる

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実験室で培養された「人間の脳」からCPUが作られる

幹細胞を培養して人工的に脳組織を作製し、この脳組織(脳オルガノイド)をコンピューターのCPUとして使うシステム「ニューロプラットフォーム」が、スイスのバイオコンピューティング企業であるFinalSpark社によって構築されました。

 

ニューロプラットフォームは学習と情報処理を行う事が可能で、世界各地の研究者が遠隔アクセスが可能です。

 

FinalSparkが開発したニューロプラットフォームは、実験室で培養された16個のヒト脳オルガノイド(ヒトのiPS細胞から作製したオルガノイド)から構築されているシステムです。

オルガノイドはiPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)から分化誘導された組織ですが、このニューロプラットフォームはiPS細胞由来の新海幹細胞が使われています。

 

構築した16個のオルガノイドには電極が接続され、これによってヒト脳オルガノイドはCPU、つまりプロセッサーとして動作し、計算をこなします。

 

脳オルガノイドとは

脳オルガノイドは、幹細胞を三次元的に培養して作成される小型の脳組織モデルです。

これらのミニチュア脳は、脳の特定の構造や機能を模倣し、神経科学研究のための強力なツールとなっています。

 

脳オルガノイドは、立体的に培養された細胞、つまり3次元の細胞塊が、脳の特定の領域や構造を再現します。

これにより、従来の2次元培養系では得られない複雑な細胞間相互作用が観察できます。

**多様な細胞タイプ**:   – ニューロン、グリア細胞、神経幹細胞など、脳を構成する多様な細胞が含まれます。

 

脳ですので、神経系の細胞がほとんどを占めます。

発生学的に神経管形成、皮質形成などの重要なプロセスを模倣した細胞塊で、脳の発達過程を研究に用いることが可能です。

 

脳オルガノイドの作製は、まず幹細胞の準備から始まります。

胚性幹細胞(ESCs)や誘導多能性幹細胞(iPSCs)を使用し、これらの細胞を特定の条件下で培養し、神経系への分化を誘導します。

 

細胞を三次元的に成長させるためには、適切な培養基や足場(スキャフォールド)を使用します。

培養期間は長期間になることが多く、長期間の培養を通じて、細胞が自己組織化し、特定の脳領域や機能を再現します。

 

疾患モデルの研究への応用はすでに始まっており、アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症、てんかんなどの神経疾患の病態を研究するためのモデルとして使用されています。

さらに、患者由来のiPSCsを用いることで、個別の病態を再現することができます。

 

また、新薬の効果や毒性を評価するために使用されています。

これにより、薬剤開発の初期段階での候補物質の選別が可能になります。

 

発生学研究にも使われており、ヒトの脳発生過程を理解するためのモデルとして利用されています。

この研究では、発生の異常や遺伝子の役割を解析することができます。

 

そして損傷した脳組織の修復や再生のための研究、つまりは再生医療の研究にも使用されています。

この研究の発展型として、将来的には移植用の組織としての応用も期待されています。

 

しかし課題も多く、複雑性の限界という問題においては、現在の技術では、完全な脳構造や機能を再現することは難しいことがはっきりしています。

特に血管系の欠如が問題であり、血管網も含めたオルガノイドの開発が進められています。

 

倫理的な部分にも問題が存在し、脳オルガノイドの使用には倫理的な配慮が必要と考えられています。

特に、脳機能の高度な再現が進むにつれて、意識や感覚の有無についての議論が重要になります。

 

そして最終的に医療に使うためには標準化の必要性があります。

各研究機関で異なる作製方法が使われているため、結果の再現性や比較可能性に課題があります。

 

FinalSparkとはどんな企業か?

FinalSparkは、2014年に設立され、スイスに本拠を置く技術革新企業です。

主にバイオプロセッサーの開発に取り組んでおり、これは従来のデジタルプロセッサーに代わって人間の神経細胞を使用するものです。

 

この技術は、従来のデジタルプロセッサーに比べて、エネルギー効率が非常に高く、より自然な形での情報処理を可能にします。

 

同社の主力製品である「ニューロプラットフォーム」は、神経細胞を用いた遠隔研究をサポートするもので、既に多くの大学や研究機関が関心を示しています。

このプラットフォームは、細胞組織を遠隔から操作し、電気生理学的実験を実行するためのものです。

 

また、FinalSparkはヒト脳オルガノイドを利用したバイオプロセッサを開発しており、このプロセッサは従来のデジタルチップよりもはるかに少ないエネルギーで動作します。

この技術は特にAI研究や脳-機械インターフェースなどの分野で大きな可能性を秘めています。

 

FinalSparkの技術は、エネルギー効率の向上と新しい計算方法の開発に貢献し、将来的には環境負荷の軽減や科学研究の新しい可能性を開くと期待されています。

 

脳-機械インターフェース、BMIとは?

脳-機械インターフェース(Brain-Machine Interface、BMI)とは、人間の脳と外部の機械装置を直接結びつける技術です。

 

このインターフェースは、脳の神経活動を機械やコンピュータで解析し、その情報を使って機械を制御することを可能にします。

主な応用分野には、医療リハビリテーション、義肢の制御、コミュニケーション支援、エンターテインメント、そして研究用途が含まれます。

 

このシステムの主な構成要素を挙げます。

 

  1. 信号取得: まずは脳からの信号を取得するためのデバイスが必要です。
    これは、非侵襲的な方法(例:EEGキャップ)や侵襲的な方法(例:脳内電極)によって行われます。
  2. 信号処理: 取得された脳信号を解析し、意味のあるデータに変換します。
    この段階では、フィルタリング、特徴抽出、パターン認識などが行われます。
  3. 出力デバイス: 処理された信号を利用して、外部機械を制御します。
    これには、義肢、ロボットアーム、コンピュータカーソルなどが含まれます。

 

この技術は、多くの分野に応用することが期待されています。

 

最初に医療リハビリテーションです。

脳卒中患者や脊髄損傷患者が失った運動機能を回復するために、BMIを利用して義肢やロボットアームを制御することができます。

 

そしてコミュニケーション支援にも大きな貢献をすると考えられています。

重度の運動障害を持つ人々が、脳信号を使って文字を入力したり、コンピュータを操作することを可能にするシステムの開発に期待が寄せられています。

 

最後にエンターテインメントの分野にも応用が可能であると考えられています。

ゲームやバーチャルリアリティ(VR)体験をよりインタラクティブにするために、ユーザーの脳波を利用して操作を行うことができます。

 

このように、BMIの技術は急速に発展していますが、いくつかの課題も存在します。

信号のノイズの除去、長期間の安定した信号取得、デバイスの生体適合性、そして倫理的な問題などが挙げられます。

 

将来的には、より高性能で使いやすいBMIシステムが開発され、医療や日常生活のさまざまな場面で広く利用されることが期待されています。

 

BMIは、脳と機械の境界を曖昧にし、新しい形の人間-機械協調を可能にする革新的な技術と考えられています。

 

FinalSparkのニューロプラットフォームの特徴

FinalSparkのニューロプラットフォームには、いくつかの重要な特徴があります。

 

ニューロプラットフォームは、ヒトの神経細胞を使用しており、これにより従来のシリコンベースのコンピュータとは異なる形で情報処理が行われます。

神経細胞は、特定のパターン認識や複雑なタスクの実行に適しており、非常にエネルギー効率が高いです。

 

さらに、このプラットフォームは遠隔からアクセスできるという特徴があります。

研究者が世界中どこからでも実験を行うことが可能で、これにより、物理的な実験室に依存せず、広範な共同研究が促進されます。

 

FinalSparkの開発したこのシステムは、神経細胞がマイクロフルイディックインキュベーター内で維持され、細胞培養メディアの流れとメンテナンスが自動化されています。

この環境は、細胞が最適な状態で機能するように設計されており、細菌やウイルスから保護されています。

 

この神経細胞にはエレクトロードが接続されており、これにより電気信号の送受信が可能です。

これにより、神経細胞が学習し、タスクを実行することができます。

 

そしてニューロプラットフォームは、従来のコンピュータチップに比べて非常に少ないエネルギーで動作します。

これは、環境負荷を大幅に削減し、持続可能なコンピューティングを実現する可能性があります。

 

スケーラビリティは、開発中であるために多様性は現時点では多くありません。

16個のオルガノイド(ミニ脳)を同時に利用できるようになっており、さらなる拡張が予定されています。

まずはこのパターンで、より多くのプロセスを同時に処理することを可能にした後、様々なタイプが産み出されると予想されています。

 

そしてコスト面ですが、現在のところ、ニューロプラットフォームの利用には月額500ドルのサブスクリプション料金がかかります。

これにより、特定の研究機関やプロジェクトがアクセスできるようになっています。

 

FinalSparkのニューロプラットフォームは、神経細胞を利用した新しい形のコンピューティングを実現し、エネルギー効率と研究の柔軟性を高める革新的な技術であり、今後の研究開発の発展が期待されます。。

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