家族性アルツハイマーとは
家族性アルツハイマー病(Familial Alzheimer’s Disease, FAD)とは、遺伝的な原因により比較的若年で発症するアルツハイマー病の一型であり、常染色体優性遺伝によって親から子へと受け継がれる神経変性疾患です。
一般的なアルツハイマー病(孤発性)とは異なり、家族性は原因となる特定の遺伝子変異が明らかになっており、明確な遺伝パターンに従って発症します。
家族性アルツハイマー病は通常、30〜60歳前後の比較的若い時期に発症します。
これを「若年発症型アルツハイマー病」と呼ぶこともあります。
発症年齢は家系ごとに一定している傾向があり、親とほぼ同じ年齢で発症することが多く見られます。
そして常染色体優性遺伝であるため、原因遺伝子変異を持つ人の子どもは50%の確率で変異を受け継ぎ、かつ高い確率(ほぼ100%)で発症します。
原因遺伝子は、以下の3つの遺伝子変異が知られています。
・APP(Amyloid Precursor Protein)遺伝子
染色体21番に存在しており、βアミロイドタンパク(Aβ)の前駆体をコードしています。変異によりAβ42という凝集性の高い型が過剰に産生され、脳内に異常蓄積します。
・PSEN1(Presenilin 1)遺伝子
染色体14番に存在し、γセクレターゼという酵素複合体の構成要素であり、Aβの切断部位に関与しています。
この遺伝子は、最も多くの家族性アルツハイマー病の原因となる遺伝子です。
・PSEN2(Presenilin 2)遺伝子
染色体1番に存在しPSEN1と同様、γセクレターゼの一部です。
発症例は少ないですが、報告例があります。
家族性アルツハイマー病では、Aβ42の異常蓄積が中枢神経系に起こり、神経細胞の機能不全や死に至ります。
これにより、記憶障害や判断力の低下など、アルツハイマー病特有の症状が進行します。また、神経原線維変化(タウ蛋白のリン酸化)もみられます。
初期では、短期記憶の障害、同じ話を繰り返す、場所や時間の感覚の混乱が見られ、進行した中期では、言語障害、人格変化、日常生活動作の障害、そして末期では、歩行困難、嚥下障害、寝たきり状態になります。
進行は比較的速く、発症から10年以内で寝たきりや死亡に至ることもあります。
診断と検査は、家族歴と臨床症状の解析から始まり、 MRIやアミロイドPETなどで海馬の萎縮やAβ沈着を確認します。
そして遺伝子検査により、APP、PSEN1、PSEN2の変異を同定することが可能ですが、この場合は倫理的配慮が必要となります。
・家族性アルツハイマーの治療
現在のところ、根本的な治療法は存在しておらず、対症療法(コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬)が中心です。
ただし、近年はAβを標的とする疾患修飾薬(例:レカネマブ)なども承認されており、早期発見・介入の重要性が増しています。
家族性アルツハイマー病は発症前診断(predictive testing)が可能なため、遺伝カウンセリングが非常に重要です。
発症前診断には心理的・社会的なリスクも伴うため、希望者には十分な情報提供と支援が求められます。
家族性アルツハイマー病は、明確な遺伝的変異により若年で発症するアルツハイマー病であり、進行も速く、家族単位での理解と対応が必要とされます。
原因遺伝子が明らかなため、将来的な発症予測や創薬研究の重要なモデルとしても注目されています。
パーキンソン病とは?
今回鍵となる薬は、パーキンソン病の薬です。
パーキンソン病(Parkinson’s Disease, PD)は、中脳の黒質(こくしつ)と呼ばれる部分のドパミン神経細胞が徐々に変性・脱落することで起こる、進行性の神経変性疾患です。
運動機能に関する症状が顕著で、代表的な「運動症状四徴(しちょう)」に加え、自律神経障害や認知機能障害などの非運動症状も伴います。
パーキンソン病は主に60歳以降に発症することが多いものの、40代以前に発症する「若年性パーキンソン病」も存在します。
日本における患者数は15〜20万人程度とされており、高齢化に伴って増加傾向にあります。
大半は孤発性(原因不明)ですが、一部に遺伝性(家族性)も報告されています。
現在、パーキンソン病の根本原因は完全には解明されていませんが、加齢、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質代謝異常(例:α-シヌクレインの蓄積)、遺伝子変異(PARK1〜PARK20など)が関連するとされています。
パーキンソン病では、中脳の黒質緻密部(substantia nigra pars compacta)に存在するドパミン神経細胞が変性・脱落し、線条体(striatum)へのドパミン供給が減少します。
これにより、大脳基底核回路のバランスが崩れ、運動の調節に障害が生じることが主要な病態です。
また、レビー小体(Lewy body)と呼ばれるα-シヌクレインを主成分とする異常蛋白質の封入体が神経細胞内に出現するのも特徴です。
臨床診断が基本で、特徴的な運動症状の出現と薬物反応性(L-ドパへの反応)を評価します。
MRIでは黒質の萎縮などを確認することがありますが、初期には異常が見られないこともあります。
その他に、ドパミントランスポーターSPECT(DATスキャン)やMIBG心筋シンチグラフィーなど、補助的な画像診断が用いられることもあります。
パーキンソン病治療の基本は、ドパミンの不足を補うことを目的とします。
L-ドパ(レボドパ)製剤は最も効果的な薬であり、進行期には「オン・オフ現象」や「ウェアリング・オフ」が課題とされています。
ドパミンアゴニストはドパミン受容体を直接刺激、MAO-B阻害薬・COMT阻害薬はドパミンの代謝を抑えます。
そして抗コリン薬は振戦に対して効果があるが、高齢者では認知機能低下に注意が必要です。
緩やかに進行する病気であり、早期には薬物療法で日常生活を保てることが多いです。
進行とともに薬剤の効果が不安定になり、転倒や認知症のリスクが高まり、死亡の直接原因は誤嚥性肺炎や転倒後の合併症であることが多いです。
パーキンソン病は、ドパミン神経の変性による慢性進行性の神経疾患であり、運動症状と非運動症状の両方を示します。完全な治癒法は存在しませんが、早期の診断と適切な治療介入により、長期間にわたって生活の質を保つことが可能です。
今後は、疾患修飾薬や神経保護療法の開発が期待されています。
家族性アルツハイマー病の薬、iPS細胞使い発見 実用化へ治験開始
今回、京都、三重両大学の共同研究チームは、家族性アルツハイマー病患者の治療にパーキンソン病の治療薬が効くことを確認したとの研究成果を受けました。
この薬を製造する東和薬品(本社・大阪府門真市)は、国への承認申請に向け、より多くの患者で効果を確認するための治験を始めたと発表しました。
この薬はiPS細胞を使って見いだされた薬であり、早ければ3、4年後の承認申請が予想されています。
研究チームは、家族性アルツハイマー病患者の血液からiPS細胞をつくり、大脳皮質神経細胞に分化させ、効果がありそうな薬を探しました。
その結果、パーキンソン病の治療薬「ブロモクリプチン」が効くことを確認しています。
5人の患者が服用したところ、服用していない人に比べて記憶力の低下や不安感、異常行動などを抑える傾向があることを確認。副作用もみられなかったという結果を得ました。
ブロモクリプチンとは?
ブロモクリプチン(Bromocriptine)とは、ドパミン受容体作動薬(アゴニスト)に分類される薬剤で、中枢神経系や内分泌系に対してさまざまな作用を持つ合成アルカロイド(麦角誘導体)です。
パーキンソン病、高プロラクチン血症、末端肥大症、2型糖尿病などの治療に用いられる、多機能な医薬品として知られています。
ブロモクリプチンは、麦角(エルゴタミンなどを含むキノコ由来のアルカロイド)に化学的修飾を加えて合成されたもので、エルゴリン骨格を有します。
これは、ドパミンやセロトニンといった神経伝達物質に対する作用を持ちやすい構造です。
薬理作用は、まず中枢神経系への作用が挙げられます。
ブロモクリプチンは、主にドパミン受容体に対するアゴニスト作用を示し、以下のような機序で効果を発揮します。
最初にパーキンソン病においては、黒質-線条体ドパミン神経の変性により減少したドパミン刺激を代替することで、運動症状(振戦、筋固縮、無動など)を改善します。
この効果は、L-ドパと比較して「薬効の安定性が高く、長期使用での運動合併症(ウェアリング・オフやジスキネジア)のリスクがやや低い」とされます。
次に内分泌系への作用では、下垂体前葉におけるプロラクチン分泌抑制作用を持ち、ドパミンの「プロラクチン抑制ホルモン(PIF)」としての生理的役割を模倣します。
そのため、高プロラクチン血症、プロラクチノーマ(プロラクチン産生腫瘍)、乳汁漏出症、無月経、不妊症などの治療に用いられます。
最後に、代謝系への作用においては、ブロモクリプチンはインスリン感受性を改善し、肝臓での糖新生を抑制する作用があることから、2型糖尿病の補助治療薬としても利用されています(特に速放性製剤)。
適応疾患は、パーキンソン病で運動症状の改善(L-ドパと併用または単独)、高プロラクチン血症ではプロラクチン分泌抑制による無月経・不妊・乳汁漏出の改善、プロラクチノーマでは腫瘍の縮小および内分泌改善、そして末端肥大症での成長ホルモン分泌の抑制、2型糖尿病(米国などで承認)においては血糖コントロールの補助治療(速放性製剤)です。
経口投与が基本で、徐々に漸増投与することで副作用の発現を抑えることができます。
薬の半減期は約6〜8時間とされ、通常は1日2〜3回の分割投与です(糖尿病用の速放性製剤では1日1回投与)。
ただし、重篤な心疾患や未治療の高血圧、妊娠中の不適切な使用は禁忌とされます。
また精神疾患の既往がある患者では、精神症状の悪化に注意が必要であり、麦角アルカロイド過敏症のある患者には使用できません。
ブロモクリプチンは、ドパミン受容体を刺激することで中枢神経系・内分泌系・代謝系に作用する、多機能な薬剤です。
パーキンソン病をはじめとする神経疾患に加え、高プロラクチン血症や2型糖尿病といった内科的疾患にも効果を発揮します。
一方で、副作用や長期使用時のリスクもあるため、投与の際には慎重な用量調整と定期的なモニタリングが不可欠です。
そして今回家族性アルツハイマーにも適用が可能であることが示唆され、今後さらに検証が進むことが期待されています。


