再生医療などの新拠点「Nakanoshima Qross」 大阪市で開業
iPS細胞を使った再生医療など最先端の医療を提供する新たな拠点「Nakanoshima Qross(ナカノシマ・クロス)」が大阪市で開業し、式典が行われました。
「Nakanoshima Qross」は、大阪 北区の中之島にできた新たな医療拠点で、地上16階の建物に8つの医療機関のほか、ヒトのiPS細胞の製造や研究開発を行う企業など合わせて41の団体が集まっています。
Nakanoshima Qrossは、一般財団法人 未来医療推進機構という21社の民間企業等と大阪府で設立した機関が核となって運営しています。
この機関は2019年に設立されていましたが、今回の開業は、医療機関や大学・研究機関、企業(スタートアップを含む)、支援機関などが有機的に連携できるように全体をオーガナイズすることが主な役割です。
Nakanoshima Qrossは、大阪府大阪市北区中之島に位置する複合施設です。
この施設は、ビジネス、学術、文化の交流を促進するためのスペースを提供しており、オフィス、カンファレンス施設、イベントスペース、飲食店などが含まれており、多様な活動やイベントが開催されます。
中之島エリアは大阪の中心部に位置し、ビジネスや学術機関が集まるエリアとして知られています。
Nakanoshima Qrossは、このエリアの特徴を活かし、さまざまな分野の専門家や市民が集い、知識やアイデアを共有し、新たな価値を創造するためのハブとして機能しています。
この機構に関係する自治体、機関、企業
Nakanoshima Qrossの設立に関わった自治体、機関、企業を挙げます。
iPS細胞、幹細胞を中心とした生命科学産業をコアにしているため、ライフサイエンスに関連する機関が名を連ねています。
まず、大阪府、そして桜橋渡辺未来医療病院を運営する医療法人渡辺医学会が参加しています。
企業では、アース環境サービス株式会社、アズワン株式会社、クオリプス株式会社、株式会社コングレ、サラヤ株式会社、シップヘルスケアHD株式会社、住友ファーマ株式会社、セルソース株式会社、株式会社レイメイ、レグセル株式会社、レメディ・アンド・カンパニー株式会社、ロート製薬株式会社など、製薬を含むライフサイエンス関連、周辺機器関連の企業が参加しています。
また、三井住友海上火災保険株式会社、株式会社三井住友銀行といった金融関連、ヤマト運輸株式会社、日立造船株式会社などの運輸、そして株式会社日立プラントサービス、澁谷工業株式会社、株式会社大林組、岩谷産業株式会社といった設備関連、ゼネコンが参加しています。
・Nakanoshima Qrossの主な事業
主な事業内容を以下に挙げます。
この中でも注目されるのは、ワンストップサービスで、未来医療の産業化を加速するために、細胞医療に関わるサプライチェーン(供給網)をワンストップでサポートするというものです。
- 拠点全体のオーガナイズ:この業務には、先述したワンストップサービス、コンセプトに合致した拠点運営、そして入居企業等間の交流促進が含まれます。
- 再生医療に関する企業・研究活動支援:企業の治験・市販後調査支援とクオリティデータ活用等による企業やアカデミアの研究支援がこれに含まれます。
企業単独、研究機関単独でiPS細胞を使った研究を含む、生命科学関連の研究開発を推進することは、近年なかなか難しくなっており、多方面からの支援がないとスムーズに進みません。
そのためにNakanoshima Qrossの事業にこれらが組み込まれています。 - 産学連携・起業家等育成:次世代の人材育成、企業育成も今後の日本経済には必要です。
企業やアカデミアに必要な人材育成、起業家・ベンチャー育成による新たな医療産業創出エコシステムの構築を事業に組み込むことで、次世代の産業につなげます。 - 国内外の医療機関とのネットワーク展開:海外からの患者の受入れや医療に携わる人材の交流促進と、日本国内ののアカデミア・医療機関とのネットワークにより、患者を最適な医療機関につなぐ窓口となることが期待されています。
事業内容の詳細
未来医療推進機構によるサポートの詳細を解説します。
まず、市場探索から製品化まで必要な情報・機能を一貫して提供することを目的としています。
スタートアップを含む企業や医療機関が再生医療事業に取り組む際には、さまざまな困難が待ち受けます。
市場ニーズがどこにあるのかわからない、実践しようにも手続きが煩雑、細胞の品質管理や輸送方法が不明確であるため、スムーズにプロジェクトが運営できないことが多々見られます。
そのような課題に対処するために、Nakanoshima Qrossを運営する未来医療推進機構はワンストップ窓口を設け、会員の入り口となる「NQポータル」を含めて、「NQコンシェルジュ」「NQセレクション」「NQまるっと&ロジ」という4つのサポートサービスを展開しています。
市場探索からプロジェクトが開始され、製品化、そして実際に再生医療等製品が購入され、治療に使われるまでのステップを支えるのが、Nakanoshima Qrossが行おうとしている事業です。
この事業を通じて、未来医療推進機構参画メンバーに加え、外部の連携先も協力しながら、各ステップで必要な情報や機能を提供します。
先端医療産業、神戸が先行
Nakanoshima Qrossのような施設は、日本で初めてというわけではありません。
ライフサイエンス分野での国内最大級の産業集積地に「神戸医療産業都市」(KBIC:KOBE Biomedical Innovation Cluster)があります。
神戸市が平成10年から神戸港の人工島・ポートアイランドに整備し、360超の企業・団体が進出しています。
現在では先端医療技術の研究開発者ら約1万2700人を擁する一大拠点に成長しており、2025年大阪・関西万博などを通じて、世界との情報や人材の玄関口とする狙いがあります。
KBICには理化学研究所(本部・埼玉県)の生命機能科学研究センターのほか、再生医療や創薬などの研究開発を手掛ける企業、高度医療を提供する病院が集まる。
世界初のiPS細胞由来の網膜シート移植手術はKBICで行われたプロジェクトの1つの例です。
神戸空港の活用も視野に入れており、現在は令和7年4月の万博開幕をにらみ、来春に発着枠を1.5倍に引き上げることで関係者が合意しています。
神戸空港での国際定期便の運用開始が予定されており、KBICをライフサイエンス分野の情報や人材のゲートウェイとして発展させる方針があります。
エコシステムを活かしたライフサイエンスの産業集積
国内ではNakanoshima Qrossを解説した大阪や神戸のほか東京、神奈川などにライフサイエンスの産業集積地があります。
複数の研究機関や企業が共存共栄を図る仕組みは「エコシステム」と呼ばれますが、日本の集積地には国際市場で生き残る競争力が求められます。
日本国内の先端医療分野は、研究開発から製品化までの支援態勢は整っているものの、市場競争を勝ち抜き、産業化するための資金調達や人材育成の点で出遅れています。
米ボストンやサンフランシスコ(シリコンバレー)、英ロンドンなどには研究機関やグローバル製薬会社、大学発ベンチャーの大規模集積エリアが設置されており、ベンチャー育成拠点を備え、財団や投資会社などが支援して産業化を推進するエコシステムが確立しています。
Nakanoshima Qrossはこうした先進都市の知見を取り入れる方針で、プレーヤーの交流も含めて、エコシステムとしての機能充実を狙っています。
医療拠点を運営する一般財団法人の澤芳樹理事長は「これからがスタートで、勝負の時だ。期待を裏切ることなく、大きなビジネスが発展するような社会実装を実践し、世界に貢献することを目指したい」と話していました。
さらに、研究開発のみでなく、医療機関との交流も充実することが計画されています。
「医療・健康」は2025年大阪・関西万博で出展の柱となる分野の一つです。
6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」には、iPS細胞を活用した創薬や再生医療の研究開発と、同分野の産業振興拠点の整備を推進すると明記されており、この方針には臨床への応用を視野に入れた計画が求められています。
再生医療ではiPS細胞などを使い、病気やけがで機能不全となった生体組織を復元する。難病治療や薬の開発に役立つことが期待されており、医療機関との連携が必須です。
基礎研究から臨床への中での大きな課題の1つにiPS細胞の課題は製造コストがあります。
Nakanoshima Qrossに参加する京都大iPS細胞研究財団(山中伸弥理事長)は「my iPSプロジェクト」を立ち上げ、自動培養装置で患者由来の治療用iPS細胞を大量製造、そして医療機関や企業に安価に提供し、安全性確保とコスト削減の両立を目指します。
同じくNakanoshima Qrossに参加する「未来医療R&Dセンター」では、スタートアップ(新興企業)を含む医療・製薬関連の企業を中心に研究開発を進めます。
さらに独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)関西支部が、再生医療製品などに関する相談受け付けや承認審査を担い、事業負担の局所集中を防ぎます。
さらに循環器疾患専門病院のほか整形外科や歯科の診療所などが集積した「未来医療MEDセンター」は、最先端治療を実践する場となる予定です。
近年、事業規模が大きいものでも、連携する機関を一カ所に集めて拠点化する流れが盛んになっています。
インターネットの普及で情報のやりとりが物理的な距離に依存しない時代になりましたが、製品を生産してそれを流通されること、そして実際に臨床などの一般へのフィードバックを考えると、機関、施設は互いに距離が近い方が連携しやすくなります。
そういった流れに沿ったNakanoshima Qrossは、近距離にある神戸市(iPS細胞に関わる研究機関、設備が多い)とも連携が可能です。
集積地内での連携が、集積地と集積地との連携につながり、そのつながりがさらに大きな経済効果を生み出すことが求められており、日本の科学技術立国の復権に大きな貢献をすることがNakanoshima Qrossに求められています。