Sernova社の他家iPS膵島細胞パウチ、1型糖尿病の第1_2相中間解析で3年以上機能

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他家iPS細胞由来膵島様細胞を使った新しい治療法

イギリスに本拠を置くSernova社は1型糖尿病を対象に開発中の細胞移植システム「Cell Pouch System」について、第1/2相臨床試験の中間解析結果をアメリカ糖尿病学会(ADA20236月に発表しました。

この解析で、Cell Pouch Systemのデバイスとしての安全性が確認されました。

臨床試験で行われた6例中5例で、Cell Pouch Systemを介して移植した他家iPS細胞由来膵島細胞が周囲の環境に適応して生着しました。

その結果、インスリン補充療法に依存しない期間が638カ月にわたり持続していることが確認されています。

 

1型糖尿病は、膵臓のベータ細胞が破壊されることによってインスリンが分泌されないことが原因とされる糖尿病です。

全ての糖尿病のうち、約5 %から10%1型糖尿病であり、以前はインスリン依存型糖尿病、小児糖尿病と呼ばれていました。

 

生活習慣病に分類される2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病は生活習慣とは無関係の自己免疫性疾患です。

原因は異なりますが、1型糖尿病、2型糖尿病共に同じ病態を示します。

 

インスリン分泌が低下、または分泌されなくなると、インスリンの作用によって抑制されていた血糖値が上昇し、急性である糖尿病昏睡、慢性の糖尿病性腎症など、多くの合併症を引き起こし、放置すると死にいたります。

20世紀前半にインスリンによる治療が行われるまでは、かなり厳しい食事制限を必要とする致死的疾患の一つでした。

 

1型糖尿病は予防法が現在存在せず、根治法がないために対症療法が行われています。

経口血糖降下薬は効果がなく、患者はかならず注射薬であるインスリンを常に携帯し、15回の自己注射の必要性があります。

 

膵島細胞とは

膵島細胞は、膵島(別名:ランゲルハンス島)は、膵臓の内部に散在する内分泌の機能を持つ細胞群です。

膵臓内部に島のように細胞群が散在しているために、「島」と呼ばれています。

この「島」は内分泌細胞による内分泌腺で、その他は外分泌腺によって構成されています。

細胞数比率は、外分泌腺が約90 %、内分泌腺が約10 %となっています。

 

膵島は、アルファ細胞、ベータ細胞、ガンマ細胞、イプシロン細胞、そしてPP細胞の5種類の細胞と、内部に栄養を運ぶ血管で構成されています。

アルファ細胞はグルカゴン、ベータ細胞がインスリン、ガンマ細胞がソマトスタチン、イプシロン細胞がグレリン、PP細胞が膵ポリペプチドを分泌しています。

 

膵島の機能は、インスリンを分泌して血糖の調節を行うことがよく知られ、膵島の機能の代表例とされています。

膵島は、直径約100マイクロメートルから300マイクロメートル、膵臓1mgあたりに10個から20個存在し、膵臓全体では100万個以上存在するとされています。

1型糖尿病はこの細胞群の機能が失活するために、インスリンが分泌されず、血糖値がコントロールできなくなります。

 

Sernovaとはどんな企業か?

Sernovaはイギリスに本拠を置く再生医療企業です。

再生医療に対してのアプローチは、細胞療法を提供することがこの企業の中心で、血糖値制御のためのインスリン、関連因子が欠損している患者に対しての治療方法を中心に提供しています。

また、血液凝固因子である第 VIII 因子が体内から欠失し、制御不能な出血症状を引き起こす出血性疾患である血友病や、患者が代謝やその他の機能の制御に重要な必要な甲状腺ホルモンを産生する能力を欠いている甲状腺疾患に対しても治療方法の開発を通じて関与しています。

 

これらの因子を、必要に応じて身体に届ける細胞を開発し、移植することによって疾病の根治を目指しており、そのための治療プラットフォーム技術を開発しています。

この治療プラットフォーム技術は対処療法ではなく根治を目指すもので、慢性疾患を持つ被験者の生活の質を大幅に改善し、治療法を改善することが期待されています。

 

この根治治療を可能としているプラットフォームは「Cell Pouch System」と呼ばれるもので、臓器のような血管が発達した移植可能なデバイスです。

このプラットフォームによってタンパク質、ホルモン、または因子を生成して血流に放出され、体内のこれらの分子の置換を必要とする疾患の治療が進みます

 

Cell Pouch Systemとはどんなシステムか?

Sernova の Cell Pouch System は、その免疫保護技術と組み合わせることで、免疫系の攻撃から治療用細胞を局所的に保護し、生活の質の向上を求める慢性疾患患者にとって効果的、安全、長期的かつ便利な治療オプションが可能となります。

 

Sernova は、自社で開発した Cell Pouch Systemを治療用細胞の収容および長期生存と機能のための体内の自然環境を形成する、新規の移植可能で拡張可能な医療機器、としています。

 

例えば、一型糖尿病患者は毎日インスリンの注射を複数回行う必要がありますが、Cell Pouch Systemは、1型糖尿病という慢性疾患を治療するために必要なタンパク質や身体に不足している因子を放出します。

このシステムには、因子を放出するために開発された細胞が組み込まれており、このシステムによって治療を受けた患者は便利で安全かつ効果的な長期治療を行うことができます。

実際に、現在糖尿病患者を対象に臨床試験中が行われています。

 

Cell Pouch Systemはすでに他の疾病に用いられているものもあります。

一例として、Sernovaの希少疾患プラットフォームでは、血友病 A を治療するために第 VIII 因子を放出する遺伝子的に修正されたヒト細胞を Cell Pouch Systemに移植することに成功しました。

これらは医療グレードの材料から製造されており、現在使われているものは体内での永久使用がアメリカ食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)から承認されています。

つまり、いったんCell Pouch Systemによって治療を受けた場合、そのシステムは体内でずっと動き続けることができます。

 

アメリカ食品医薬品局の承認に加え、Cell Pouch Systemの安全性と生体への適合性は、ISO10993生体適合性研究と、複数回にわたる前臨床研究で実証されており、これまでの靱帯を使った臨床研究でも安全であることが示されています。

 

1型糖尿病に使われているCell Pouch Systemは、インスリン産生膵島を移植すると、糖尿病の 3 つの異なる小型および大型動物移植モデル (同種移植、自家移植および同種移植) において有効性をしめしており、持続的な血糖コントロールを達成することが確認されています。

 

Cell Pouch Systemの移植と、膵島細胞の移植はそれほど難易度の高い技術を必要とせず、これまでの外科的な処置に使われている技術のみで行うことが臨床試験で確認されています。

膵島細胞がCell Pouch Systemとして移植された場合、血糖値、つまりグルコース濃度レベルとインスリンの放出をコントロールするフィードバックシステムを使って、自然な状態に近いインスリンが生成、分泌され、移植された患者はこれ以降、それまで行っていたインスリン注射の必要性が軽減または排除される可能性があります。

 

今回は1型糖尿病への再生医療技術がレポートとして発表されましたが、Sernovaは生体への埋め込み医療機器に、移植された治療用細胞、多くの場合はiPS細胞由来の細胞をを使用して慢性疾患向け製品の開発と臨床進歩に取り組んでいます。

 

このシステムは、長期使用が可能であることが特徴です。

正常な機能を失ったために疾病となった場合、その機能を補てんするために頻繁に治療を受けなければならない疾病は、1型糖尿病を代表例として多数存在します。

しかし、この長期使用が可能なシステムによって、その頻繁に行う治療から患者が介抱されば、生活の質(QOL)が向上し、それまで大きな負担だった治療から解放されます。

これを可能としているのがiPS細胞由来の細胞を使ったCell Pouch Systemであり、今後適用される疾病が拡大されることが望まれています。

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