幹細胞治療の市場規模は2028年に4億6750万米ドルに達すると予測

目次

1. 2022年から2028年の幹細胞治療市場予測

市場調査レポート作成を専門的に行う企業、Report Oceanは、エネルギー、機械など様々な製品の市場調査レポートを提供しています。

今回、Report Oceanは、世界の幹細胞治療市場についての予測レポートを発表しました。

2021年現在、幹細胞治療市場は約1億6,052万米ドルと評価されており、この市場は予測期間2022年から2028年の間に16.5%以上の成長率で成長するとレポートは予想しています。

この成長は、バブル的なものではなく健全な成長率であるとReport Oceanは評価しており、幹細胞治療市場は今後も安定して成長すると見込まれています。

2. 市場の概要

幹細胞は、動物や人間の体内でさまざまな機能を持つ細胞、多種多様な細胞に分化する能力を持つ細胞です。

体の修復システムとして機能するこの細胞は、現在医療に幅広く使われており、再生医療をビジネスとして成立させました。

幹細胞を使った治療は、様々な慢性疾患の治療に用いられています。治療の対象となる疾患は、血液疾患、がん疾患が含まれており、患者数が多いことから、いくつもの企業がこの市場に参入しています。

現在、世界的に慢性疾患の有病率の増加、幹細胞研究のための資金の利用可能性、細胞治療や再生医療の関連施設の承認数の増加、幹細胞ベースの臨床試験数の増加に伴い、世界中で市場の需要が増加しています。

幹細胞の臨床応用当初は、ES細胞が中心であり、受精卵から発生した胚を使う必要があったために倫理的な問題がありました。

しかし、iPS細胞の確立によって、ES細胞が持っていた倫理的な問題がクリアされたため、一気に用途が広がり、現在ではiPS細胞のバンク化などが推進されています。

最新の疾患動向にも素早く反応しており、2020年9月、ステメディカ・セル・テクノロジーズは、中等度から重度のCOVID-19患者を治癒するために開発した静脈内同系間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem Cell)について、アメリカ食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)から、治験薬承認を取得しました。

産業、政府、アデミック組織から構成される産学官の研究ユニットが多く立ち上げられ、基礎から応用までを一気に進め、臨床現場でなるべく早く使える治療方法の確立が盛んに行われており、このプロジェクトに対する公的資金の投入も市場を拡大させる要因になっています。

一方で、研究にかかる高いコストが問題となりつつあり、採算性については議論が行われています。

このレポートでは、市場動向を調査する上で細胞種を脂肪組織由来幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来幹細胞、胎盤由来幹細胞、臍帯由来幹細胞を中心として調査し、ここにiPS細胞を加えてリスト化していますが、iPS細胞は自家細胞を使うために、自分の細胞からiPS細胞樹立ステップも考慮しなければならないため、別な扱いをしています。

治療方法は、同種幹細胞療法、自家幹細胞療法を分けてまとめてありますが、iPS細胞は自家幹細胞療法に組み込まれています。

自分の身体から採取した脂肪組織由来幹細胞などを使った治療が自家幹細胞療法ですが、体細胞を採取してiPS細胞を確立するのも大きく分ければ自家幹細胞に分類されるため、このような分類になったと思われます。

さらに、用途別にもレポートしており、筋骨格系疾患、創傷・外傷治療、循環器系疾患、外科的疾患、炎症性・自己免疫疾患、神経系疾患という分類で分析し、これ以外の疾患はその他という項目に組み入れています。

3. 地域別の市場動向

幹細胞治療の世界市場の対象は、アジア太平洋地域、北米、欧州、中南米、そしてその他の地域に分けられます。

アメリカ、カナダの北米地域は、臨床試験数が増加し、安全かつ効果的、効率的な幹細胞治療製品の開発に向けて、民間資金だけでなく公的資金の投入が増加傾向であり、市場シェアの面では世界の中でも主要地域になっています。

2022年から2028年にかけて最も成長するとされているのはアジア太平洋地域です。

この地域は、iPS細胞を産み出した日本と、多くの人口を抱える中国の存在が市場を牽引すると予想されています。

政府の支援が強化され、医療分野への投資の拡大、そして中国大陸では再生医療など幹細胞を使った治療を希望する患者の増加が、この地域の幹細胞治療市場の成長に有利な要因となっています。

欧州の成長率は、2022年から2028年にかけてはそれほど大きなものではないと見られていますが、参入する企業の増加が見込まれ、治療する患者の数はやや頭打ちになったとしても、幹細胞治療製品を生産する規模は大きくなっていくものと予想されます。

中南米は、公的資金の投入が他の地域と比べるとどうしても低くなってしまうため、研究開発よりも、他の地域で開発された治療を受ける患者数がどれだけ伸びるかがカギとなっています。

自己負担で治療を受けるとなるとかなりの高額医療費を覚悟しなければならないため、再生医療への公的な補助などがどれだけできるのかが問題となりそうです。

その他の地域では、幹細胞治療を研究するためのコスト、医療設備の充実度が足を引っ張り、それほど大きな成長は見込めないと予想されています。

4. 次々と生まれる競争力のある企業

レポートでは、今後成長し、大きな競争力を持つであろうと予想される企業が紹介されています。

リポートに掲載されている企業は、Smith & Nephew plc(イギリス)、メディポスト(韓国)、アンテロジェン(韓国)、コーセー株式会社(日本)、ニューベーシブ(アメリカ・日本)、RTIサージカル(アメリカ)、アロソース(アメリカ)、JCRファーマシューティカルズ(日本)、武田薬品工業株式会社(日本)、ステムピューティクス・リサーチ(インド)などが挙げられています。

日本の企業もいくつかリストアップされていますが、武田薬品工業株式会社、そして化粧品会社であるコーセーがリストに入っています。

コーセーは再生医療というよりも、幹細胞を使った美容に力を入れており、美白化粧品である雪肌精は1985年以来売れ続けてベストセラーとなっており、中国をはじめとして東南アジアでも人気のある商品になっています。

コロナ禍前のインバウンド(訪日観光客)では、中国人がこの雪肌精を大量に購入する姿が見られていました。

中国においてコーセーは雪肌精の効果で知名度のある美容・化粧品メーカーですが、この勢いで中国の幹細胞を使った美容業界に参入するのではないかと見られています。

武田薬品工業は、日本国内では大手製薬に分類されていますが、世界的に見ると日本の製薬企業はそれほど大きくなく、世界ランクでは武田薬品工業が11位には言っているのが日本企業の最上位です。

アメリカのファイザー、アッヴィ、J & J、メルク、スイスのロシュ、ノバルティス、イギリスのGSK、アストラゼネカが世界規模での製薬大手ですが、幹細胞製品の開発によっては、武田製薬工業は世界大手製薬の仲間入りを果たすことになるかもしれない、とレポートは報告しています。

5. 市場が拡大することの利点

医療とビジネス、となりますと、人の命に関わることとビジネスということになりますが、日本人の価値観においてはあまり好ましい組み合わせではないと感じる人が多いと思われます。

しかし、医療がビジネス化して、採算性が安定すると大きな利点が出てきます。

ビジネス化をするためには、ごくごく一部の人に供給されるだけのものでは土台がしっかりしたビジネスとはなり得ません。

ある程度の収入があれば、そのサービス、治療を受けられるという段階になって、初めてビジネスとして走り出すことができるようになります。

つまり、幹細胞を使った再生医療が、一部の疾患だけだとしても一般の治療として受けられるようになれば、それはビジネスとして成立し、我々はそのビジネスの中で希望する治療を受けることができるようになります。

このレポートは2028年までの市場を予測していますが、「高いコストが成長のブレーキになっていることは否めないが、コストダウンの技術はおそらく開発されるだろうし、開発されつつある。」としています。

この市場の中にいくつかの日本企業の名前がある事は心強いことですし、京都大学を中心としたアカデミックの研究チームは新しい治療方法につながる研究知見を発信し続けています。

もしかすると、21世紀中頃には、日本はバイオメディカル大国としての地位を確立しているのかも知れません。

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