iPS心不全治療、細胞種の作り分けで不整脈防止

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iPS心不全治療、細胞種の作り分けで不整脈防止

慶應大学発の医療ベンチャー企業、ハートシードはiPS細胞から作成した心臓の筋肉を重度の心不全患者に移植する治験を進めています。 

心臓の筋肉、つまり心筋は3種類の細胞で構成されています。 

このうち、心室を構成している心室筋細胞のみを移植すると不整脈が抑制されることから、この細胞が移植医療で注目されています。 

 

そうなりますと、iPS細胞から心室筋細胞を分化させる技術の必要性が高まります。 

つまり、3種類の心筋細胞の作りわけの技術が重要になりますが、この技術はかなり高レベルとされています。 

 

ハートシード社長の福田恵一社長(慶應大学名誉教授)は、先日行われたオンライン公演で、ハートシードが持つこの作りわけの技術について講演しました。 

これまでは明らかにされていなかった技術で、今回初めて具体的に公開された技術です。 

 

心臓を構成する細胞

心臓の細胞には主に以下のような種類があります: 

 

まず心筋細胞(心筋線維細胞)です。 

これらは心臓の収縮を担当する細胞で、心臓の筋肉を形成しています。 

心筋細胞は収縮性を持ち、電気的興奮に応じて収縮する能力があります。 

 

この心筋細胞はさらに心房筋細胞と心室筋細胞に分類されます。 

心房筋細胞は心房に位置しており、心房の収縮を担当しています。 

心房筋細胞は比較的小さく、心室筋細胞に比べて収縮力は弱いですが、リズミカルな収縮が特徴です。 

 

心室筋細胞は心室に位置しており、心室の収縮を担当します。 

心室筋細胞は心房筋細胞よりも大きく、収縮力が強いです。心室筋の強い収縮によって血液が全身に送り出されます。 

 

そして細胞の心拍リズムを生成し、心臓の電気的活動を調整する役割を担うのがペースメーカー細胞(洞房結節細胞)です。 

洞房結節(SAノード)や房室結節(AVノード)などに位置し、心拍のリズムを生成する役割を持ちます。ペースメーカー細胞は自発的に電気信号を発生させ、心臓全体の収縮リズムを調整します。 

 

心室にはプルキンエ線維という部分も存在しますが、これらは心室の内部にある特殊な伝導系の細胞で、電気信号を迅速に心室全体に伝える役割を持ちます。 

プルキンエ線維は心筋の収縮を同期させるために重要です。 

 

膜を形成する細胞には2種類存在し、心内膜細胞と心外膜細胞があります。 

心内膜細胞は心臓の内壁を覆っている細胞で、血液と直接接触しています。 

血管の内膜と連続しています。 

そして心外膜細胞は心臓の外表面を覆う細胞です。 

機能は、心臓を保護して滑りを良くして摩擦を減らします。 

 

血管内皮細胞は心臓の血管の内側を覆う細胞で、血流を維持し、血管の機能を調整する役割があります。 

さらに線維芽細胞は心臓の結合組織を形成し、心筋細胞を支持する役割を持っています。 

これらの細胞は心臓の構造を維持し、損傷した組織の修復にも関与します。 

 

ハートシードについて

ハートシード株式会社の業務内容は、主にiPS細胞を用いた心筋再生医療の開発に焦点を当てています。 

具体的な業務内容には以下のようなものがあります。 

 

まず心筋再生治療の開発が挙げられます。 

ハートシードは「HS-001」と呼ばれるリードパイプラインを開発しています。 

これは、iPS細胞由来の再生心筋を心筋内に移植する技術で、重度の心不全患者を対象としています。 

この治療法は、心筋梗塞や拡張型心筋症など、収縮不全による心不全の患者に新しい治療の選択肢を提供することを目的としています。 

 

細胞分化を目的としたiPS細胞技術の研究開発も重要な業務とされています。 

自家iPS細胞やHLAをノックアウトしたiPS細胞を利用した心筋作製の研究を進めており、これにより、免疫拒絶反応を回避し、より多くの患者に適用可能な治療法の開発を目指しています。 

 

開発された治療方法は、臨床試験も重要であり、ハートシードは臨床試験も実施し、安全性と有効性を検証しています。 

これには、国内外の医療機関との共同研究も含まれ、多方面との共同研究、共同開発によって臨床試験を推進しています。 

 

これらの研究開発によって開発された技術の商業化とライセンス提供も行っており、これらは資金調達、企業運営に重要な位置を占めています。 

しかし再生医療の研究開発には巨額の資金が必要なため、投資家からの資金調達活動も積極的に行っています。 

これには、ベンチャーキャピタルや大手製薬企業との提携も含まれます。 

 

心室筋細胞の特徴

心室筋細胞は、心臓の心室に位置する筋細胞で、主に心臓から全身へ血液を送り出す強力な収縮を担う細胞です。 

 

心室筋細胞は円柱状で長く、分岐する構造を持っており、一つの細胞には一つまたは複数の核が含まれています。 

この細胞の細胞膜にはT管と呼ばれる特殊な構造があり、これがカルシウムイオンの移動を助け、迅速な電気信号の伝達を可能にします。 

 

心室筋細胞は横紋筋に分類され、顕微鏡下では筋線維が規則正しい縞模様を形成しています。 

この構造は筋収縮の際にアクチンとミオシンというタンパク質が相互作用することによって実現されます。 

 

そして心室筋細胞同士はギャップ結合と呼ばれる特殊な接合部でつながっており、これにより電気的なシグナルが迅速に伝達され、同期した収縮が可能になります。 

この収縮力は非常に強力であり、この収縮力によって心室から血液を大動脈や肺動脈に送り出し、全身や肺に血液が循環します。 

 

この収縮をコントロールするため、細胞はプルキンエ線維からの電気信号を受け取り、心室全体に迅速に伝えることで、心室の収縮が効果的に行われます。 

心室筋細胞の電気的活動は心電図(ECG)に反映され、心機能の評価に使用されます。 

 

強力な収縮力は血液を送り出すために必要ですが、収縮の度合いの調節も重要です。 

この調節は、自律神経系やホルモンによって行われ、心室筋細胞の収縮力や収縮速度が調整されます。 

例えば、交感神経の刺激により心拍数と収縮力が増加し、副交感神経の刺激により減少します。 

 

収縮力の強さも重要ですが、この収縮力は持続されなければなりません。 

血液の送り出しは生涯にわたって必要なものであり、心室筋細胞に異常があると、生命の危機につながります。 

心室筋細胞は高い持久力を持ち、疲労しにくい特性を持っています。 

これは心筋細胞が豊富なミトコンドリアを含み、効率的にエネルギーを生成できるためです。 

また、持続的な血液供給を確保するために心筋専用の冠状動脈が発達しています。 

 

心室筋細胞の正常な機能は心臓の健康に不可欠であり、これらの細胞の障害は心不全や不整脈などの重大な心臓病の原因となります。 

 

細胞の作りわけと移植の準備

iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた心不全治療において、不整脈を防止するためには、適切な種類の心筋細胞を作り分けることが重要です。 

この作り分けには以下のような戦略や技術が用いられます。 

 

まず特定の心筋細胞の誘導にはiPS細胞から特定の心筋細胞(例えば心室筋細胞)を効率的に誘導する技術が必要です。 

 

・分化誘導因子の使用: 特定の化学物質や成長因子を使用して、iPS細胞を心筋細胞に分化させるプロセスを制御します。 

例えば、Wntシグナル経路を調整する因子を使うことで心室筋細胞への分化を促進します。 

   

・遺伝子操作: 特定の転写因子を導入することで、iPS細胞を目的の心筋細胞に分化させる方法です。 

例えば、Nkx2.5やGATA4といった転写因子を用いることで、心筋細胞への分化が促進されます。 

 

そして細胞を完成させるためには、心筋細胞の成熟が必要です。 

iPS細胞由来の心筋細胞を成熟させることで、生体内の心筋細胞に近い機能を持たせることができます。 

未成熟な心筋細胞は不整脈の原因になることがあるため、成熟度の高い細胞が求められます。 

 

この方法の一つに電気刺激があります。 

定期的な電気刺激を与えることで、心筋細胞の成熟が促進され、心筋細胞の電気的特性や収縮力を改善する効果があります。 

 

機械的刺激も重要な方法です。 

心筋細胞に一定の張力を与えることで、より成熟した心筋組織に誘導し、心筋細胞の形態や機能を自然な状態に近づけます。 

 

さらに移植に使用する心筋細胞の純度を高めることも重要です。 

異種の細胞が混入すると、不整脈のリスクが高まります。 

これにはフローサイトメトリーなどの技術を用いられ、この方法によって目的の心筋細胞を高い純度で選別されます。 

さらに磁気ビーズを用いて、特定の抗体と結合した心筋細胞を選別する方法もあります。 

 

これらの技術によって作られた細胞は、移植の準備のために3次元構造を取ると移植効率が上がります。 

単一の心筋細胞ではなく、細胞シートや3D組織として移植することで、より自然な心筋組織を再現し、不整脈のリスクを減少させることができます。 

 

細胞シート工学を使った方法では、心筋細胞をシート状に培養し、これを心臓に移植します。 

細胞シートは高い細胞密度を持ち、自然な心筋組織と同様の機能を果たします。 

3Dプリンティング技術を用いた方法では、iPS細胞由来の心筋細胞を立体的に配置し、自然な心筋組織を再現します。 

 

さらにCRISPR/Cas9などの遺伝子編集技術を使用して、心筋細胞の電気的特性を調整することも可能です。 

これにより、不整脈の原因となる可能性のある遺伝子変異を修正します。 

 

今回の作りわけの技術の発表によって多くの研究機関、企業がこの技術に注目することはほぼ間違いありません。 

今後はこの技術によって作られた細胞、または細胞シートの安全性と有効性を確認するための臨床試験が数多く実施されると予想されます。 

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