2025年大阪パビリオン計画案を承認、総事業費160億円

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1. 2025年大阪万博

2025年、大阪・関西万博(正式名称:2025年日本国際博覧会)の開催が予定されています。

開催場所は、大阪市此花区にある夢洲という人口島です。

日本での開催は、2005年の愛知万博(愛・地球博)以来、そして関西での開催は、1970年の大阪でアジア初の万博が開催されて以来となります。

これらの博覧会は、国際博覧会(Universal Exposition)と呼ばれるもので、国際博覧会条約(BIE条約)に基づいて開催され、日本では「万国博覧会」という名前で認知されています。

この条約の中で、万国博覧会は「「複数の国が参加した、公衆の教育を主たる目的とする催しであり、文明の必要とするものに応ずに人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは複数の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。」と定義されており、複数の国と地域が文化、芸術、科学の分野でそれぞれ自国のパビリオンを出展します。

万国博覧会へ最先端の技術出展を促すために、こういった技術にの出展については最大の便宜が図られています。

国際博覧会での技術の公開は、特許取得時の拒絶理由の例外事項とされています。

一般的に、特許取得前にその技術を論文、学会発表などで公開してしまうと、特許取得を拒絶されることがありますが、国際博覧会への出展の場合はその拒絶理由にしない、ということです。

日本においては、特許法第30条第1項の規定が適用され、新規制違反の拒絶を回避できますし、欧州特許庁においてはほぼ唯一の例外規定となっています。

2. iPS細胞研究の中心である関西

2025年大阪万博の推進委員長の吉村洋文大阪知事は、大阪が出展する「大阪パビリオン」において、次世代の研究に寄与するために「iPS細胞で構築したミニ臓器など」の展示に意欲を示しました。

大阪を中心とする関西圏は、メディカル分野で大規模な施設を有する地域であり、iPS細胞の研究において重要な大学、奈良先端科学技術大学と京都大学を有することからこのアイデアが出てきました。

関西におけるメディカル関連研究開発拠点を以下に挙げてみましょう。

  • 先端医療機器開発・臨床研究センター(京都大学医学部附属病院内):先端医療機器開発に関する臨床研究と薬事申請までを迅速に行うための施設
  • メディカルイノベーションセンター(京都大学吉田キャンパス):先端研究の成果を製薬会社の新規薬物の開発、創薬に活かすための施設
  • 発生・再生科学総合研究センター(神戸ポートアイランド):理化学研究所が主体となって発生・再生研究を行う施設。研究レベルは世界有数
  • 神戸医療機器開発センター(MEDDEC:神戸ポートアイランド):医療器具の開発を中心とする施設。産業化を視野に入れているため、中小企業基盤整備機構が事業の主体として運営しています
  • 京都大学原子炉実験所(大阪府泉南郡熊取町):京都大学の施設ですが、大阪府にあります。革新的癌治療法であるBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の加速器を開発
  • iPS細胞研究所(京都大学吉田キャンパス):iPS細胞研究の世界的拠点であり、中核研究機関でもあります
  • 京都市成長産業創造センター(京都市南部「らくなん進都」):高機能性化学品の研究開発拠点
  • 医薬基盤研究所(大阪府茨木市):大学、企業の創薬支援に特化した施設であり、創薬支援戦略室を設置しています
  • 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市):循環器病の治療法開発に向け、病院と連携しながら研究を推進しています
  • 最先端医療融合イノベーション拠点(大阪大学吹田キャンパス):新しいコンセプトに基づく創薬と大阪大学発の再生医療技術を進めています
  • 光エコライフ技術開発拠点(大阪大学吹田キャンパス):光技術を利用し、医療・太陽電池の技術開発をするための拠点

一般にはあまり知られていませんが、これだけの医療系研究拠点を関西は有しており、現在では、関西はバイオメディカル研究分野においては世界トップレベルの地域です。

出展は「大阪パビリオン」という名前であり、iPS細胞研究では京都府にある京都大学である事を考えると、「関西」ではないかという意見もありますが、関西の中心都市である大阪の名前を冠するパビリオンであれば、十分関西のアピールになるだろうということで、出展が決まったものと予想されます。

現時点で、iPS細胞の研究は京都大学がリードしていますが、この分野ではやや出遅れた感のある大阪大学も、ここ10年の間に優秀な研究者を集めて新たな研究展開をしており、今後も優秀な人材が関西に集まると考えられます。

さらに、日本の科学研究における問題の1つを解決するためにパビリオンに出展するという見方もあります。

3. 研究現場における多様性の問題

ダイバーシティという言葉が流行していますが、これは日本語で「多様性」という意味です。

日本では、21世紀に入ってから研究予算の配分が「選択と集中」という名の下に、国策に沿った研究にのみ予算が配分され、その他の分野が苦しい状況に置かれています。

20世紀には、世界のトップを走っていた日本の昆虫生化学・生理学の研究がこの方針によってほぼ壊滅状態となり、近年注目されつつある昆虫を使ったタンパク質大量生産技術などで日本は他国の後塵を拝し、経済的にだいぶ損失を出しています。

これは、「多様性」が失われたために、世界の流れが変わった時に日本の科学がついて行けず、取り残されることによって起こった現象です。

先に述べた関西の研究拠点を見ると、大学、企業を問わずに創薬・医療ソースを集めることを基本路線として、光技術、原子炉までを医療に応用しようという多様性が見られます。

科学技術において世界のトップを走っていた時代の日本を再現しようとしているのが、関西の研究拠点群であり、その中心にあるのがiPS研究です。

実際に、iPS研究では、iPS細胞自体の研究と並行して、iPS細胞を介さずに別の細胞に分化するダイレクトリプログラミングも研究されています。

そしてもう一つは、海外の研究者が日本で研究することを選んで欲しい、という目的があります。

日本は世界的に見て研究者の待遇が良くなく、海外の優秀な研究者が日本で研究することを好まないという傾向があります。

そのため、近年では日本の大学院への進学者割合が減少する傾向が見られ、ようやく国が対策に乗り出しています。

その中で、iPS細胞の研究は、多くの科学者、または科学者を目指す学生の興味を引きつける分野であるため、iPS細胞をアピールすることによって、関西の研究機関に海外からの研究者を集められるのではないかという狙いがあります。

ターゲットとなるのは、すでに大きな業績を上げている研究者だけでなく、これから研究を展開しようとする30代、40代の研究者、そして京都大学、奈良先端科学技術大学大学院を目指す海外からの学生です。

世界から若い世代の研究者が集まれば、日本の科学も多様性を持って発展することが考えられます。

実際、アメリカ、イギリスの研究機関は出身国が多岐にわたり、人種的な多様性に富んでいます。

4. iPS細胞の可能性を世界に発信する

こうした背景から、大阪万博でiPS細胞から作られた「ミニ臓器」を展示しようというアイデアが生まれたと予想できます。

万博で発表の場合には、説明したように特許出願の際にネックとなる新規性の問題が解消されるため、最新の研究結果に基づく知見を展示することができます。

「ミニ臓器」としたのは、現時点では完全な臓器を作ることが難しい、という事情もありますが、やはり一般の方々に臓器そのものを見せるという事になると、抵抗を示す方も多いという考えでしょう。

そのため、機能的にはその臓器の機能を持つが、視覚的にはただの細胞の塊にしか見えないという「ミニ臓器」であれば、一般の方々にも抵抗が少なくなるでしょうし、万博に来ることができない人達にも、ニュースなどの映像を通じてアピールできると利点があります。

万博では、一般の方々だけでなく、他の研究者に向けても発表されていない最新の研究知見、技術が発表されることがあります。

iPS細胞の研究を含む幹細胞の研究は、世界的に激しい競争が見られる分野ですが、iPS細胞で世界をリードした日本が何を万博に出展するのかは、世界的にも注目されるポイントなのです。

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