住友ファーマ、米国における「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療」に関する企業治験開始

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住友ファーマがアメリカで治験を開始

住友ファーマ株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:野村 博)は、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する企業治験を開始すると発表しました。

この企業治験は、アメリカ食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)に対してIND申請(Investigational New Drug Application)を2024年2月に行いました。

そして、このほどFDAによる30日調査が完了し、本治験を開始する準備が整いました。

 

この治験では、凍結した細胞を用いますが、アメリカでは、2023年11月にカリフォルニア大学サンディエゴ校による非凍結品を用いた医師主導治験が開始されています。

また、日本では、2018年より京都大学医学部附属病院による非凍結品を用いた医師主導治験が実施されました。

 

今回準備が整った治験は、住友ファーマが注力している再生・細胞医薬事業における他家iPS細胞由来の分化細胞を用いたアメリカでの臨床試験であり、再生・細胞医薬事業における米国開発を推進するうえでの大きな一歩となると期待されています。

 

この治験に関連している組織、機関について

住友ファーマ(Sumitomo Dainippon Pharma)は、日本の製薬会社であり、様々な医薬品の開発、製造、販売を行っています。

同社は、精神神経領域やがん領域など、幅広い治療領域において医薬品を提供しています。また、世界中で事業展開しており、日本国内だけでなく、北米や欧州などの世界市場で事業を展開しています。

 

住友ファーマは近年、幹細胞の研究や治療への関心が高まる中、幹細胞に関連する研究や治療の分野にも関与しています。

具体的には、幹細胞を活用した新しい治療法の開発や幹細胞に関連する疾患の研究に取り組んでいます。これには、幹細胞を用いた再生医療やがん治療の研究、神経変性疾患などの神経再生に関する研究などが含まれ、今回の治験はその一環として行われます。

 

住友ファーマが今回の治験を申請したアメリカ食品医薬品局は、アメリカ合衆国政府の行政機関の一つであり、医薬品、医療機器、食品、化粧品などの安全性、有効性、品質を保証するための規制を行う機関です。

アメリカ食品医薬品局は、公衆衛生に関する規制や政策を策定し、これらの製品の製造、販売、流通に関する規制を担当する機関です。

 

具体的なアメリカ食品医薬品局の活動は以下のようになります。

  1. 医薬品の承認と監視:新しい医薬品の承認プロセスを管理し、既存の医薬品の安全性と効果を監視します。

 

  1. 医療機器の承認と監視:医療機器の安全性と有効性を評価し、適切な承認を行います。

 

  1. 食品の安全性と規制:食品の製造、販売、流通に関する規制を管理し、食品安全の確保を図ります。

 

  1. 化粧品の規制:化粧品の安全性を評価し、適切な規制を行います。

 

アメリカ食品医薬品局は、公衆衛生や消費者保護の観点から、医薬品や食品の安全性や品質に関する高い基準を確立し、それらの規制を適用しています。

 

そして、組織・機関ではありませんが「IND申請」という言葉も今回の企業治験には重要なポイントです。

IND申請は、Investigational New Drug申請の略称です。

この申請は、アメリカ食品医薬品局に対して行われる医薬品の新規治験薬に関する申請プロセスのことです。

IND申請は、新しい薬剤や治療法を人間での臨床試験に進める前に、アメリカ食品医薬品局に対して提出されます。

 

IND申請の目的は、治験における患者の安全性を保護し、臨床試験の適切な実施を確保するための手続きを行う、とされています。

申請には、薬剤の化学的特性、製造方法、品質管理、動物実験の結果、以前の臨床試験のデータなど、様々な情報が含まれ、治験の概略がわかるようになっています。

 

申請から認可までのプロセスを解説しましょう。

アメリカ食品医薬品はIND申請を審査し、治験を行うための許可を与えるかどうかを決定します。

IND申請が承認されれば、臨床試験が開始され、治験データが収集されます。

アメリカにおけるIND申請は、新しい医薬品や治療法の開発プロセスにおいて重要な段階であり、臨床試験の前に必要な承認手続きの一部です。

 

疾患などの用語解説

パーキンソン病は、中枢神経系の慢性的な進行性疾患で、主に運動機能に影響を与えます。

脳内ドーパミン神経細胞の変性と脱落に伴い、線条体のドーパミン含量が減少することによって、脳の運動機能を司っている大脳基底核神経回路の作用に不均衡が生じます。

この不均衡によって運動症状に特有の状態が発現するとされている慢性進行性の神経変性疾患です。

 

運動症状に表れる状態とは、患者の震え、筋肉のこわばり、運動の減少、姿勢の変化などの症状です。

症状として説明される言葉は、振戦、筋強剛、動作緩慢、姿勢反射障害です。

この4つは4大症状と呼ばれており、まずは振戦から始まります。

 

その後動作緩慢、筋強剛が確認され、一側の上肢、あるいは下肢から他肢へゆっくりと進展します。

さらに進行すると、姿勢が不安定になる姿勢反射障害が見られるようになります。

運動症状は四肢から体の幹部へと拡大し、この運動症状以外にも、精神症状、睡眠障害等の非運動症状も認められます。

 

パーキンソン病の症状は、徐々に進行することが一般的であり、初期段階では軽度である場合もあります。

しかし多くの場合は時間の経過とともに重度化する傾向があります。

現在、パーキンソン病の治療法には、薬物療法、深部脳刺激、理学療法などがありますが、完全な治癒法はまだありません。

 

今回の治験ではiPS細胞由来の細胞を用いますが、パーキンソン病に重要な細胞は、ドーパミン神経前駆細胞です。

 

ドーパミンは、中枢神経系で重要な役割を果たす神経伝達物質の一種です。

脳の多くの領域で見られ、特に運動、学習、動機付け、感情、報酬などの機能に関与しています。

 

ドーパミンは、チロシンというアミノ酸から合成され、脳内では、特に腹側被蓋野と呼ばれる部位で生産されます。

ドーパミンは神経細胞間のシナプスを介して信号を伝達し、受容体と結合することでその効果を発揮します。

ドーパミンの欠乏や不均衡は、今回のパーキンソン病のように、様々な神経精神疾患や障害に関連しています。

その他にも、ドーパミンは快楽や報酬系とも関連しており、薬物乱用やリワード行動に関与することも知られています。

 

そしてこのドーパミンを分泌する細胞がドーパミン神経細胞です。

ドーパミン神経細胞は、中枢神経系でドーパミンを産生する特殊な神経細胞のことで、これらの神経細胞は、主に脳の特定の領域に存在してドーパミンを合成し、放出します。

 

この細胞は、主に腹側被蓋野(ventral tegmental area, VTA)や黒質(substantia nigra)などの特定の脳領域に見られ、シナプスを介して他の神経細胞と結びつき、ドーパミンを放出することで信号を伝達します。

 

ドーパミン神経細胞の活動は、様々な生理学的および行動的な機能に影響を与えます。例えば、報酬系や快楽系の活性化、運動制御、学習・記憶、動機付けなどに関与しています。

そのため、ドーパミン神経細胞の異常な活動や機能不全は、さまざまな神経精神疾患や障害に関連しています。

 

このドーパミン神経細胞の前駆体とされているのがドーパミン神経前駆細胞です。

この細胞についてはパーキンソン病の研究の中で、機能・性質が明らかにされつつあります。

特にマウス、ラットなどのパーキンソンモデル動物を使った研究において、ドーパミン神経前駆細胞を移植することによってドーパミン神経細胞への分化、そして脳内での機能が解析されています。

 

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